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空/折 「 Angel Next Door 」 

モブ視点というのをやってみたくなり。
キースの隣人目線で空折の観察日記。
ロシア語の名前や愛称はネット検索の結果を色々寄せ集めです。正確じゃないかもです。
勝手な設定やらオリキャラ強めですいません。
 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

Angel Next Door


 あたしはアンナ・パヴロヴァ。正式な名前だと、アンナ・パヴロヴァ・シードロヴィチ。八歳の女の子。シュテルンビルトに越してきて半年になる。
 この話は、あたしが七歳だった最後の月に起きた出来事。


 あたしの家族はパパ、シードル・パヴロフ・アレクセエヴィチとママ、キーラ・パヴロヴァ・イリイニチナ。二人は一緒に会社を経営してる。お客さんの資産を管理する仕事なんだって。会社の業績があがって、半年前に会社もお家もこのシュテルンビルトに引っ越してきたの。
 あたしのお家は海沿いの高いビルの一番上の階。一日じゅう、窓からはとってもきれいな景色が見える。お日様も風も気持ちいい。雨の日だって海を眺めるのは大好き。
 でも、ひとつだけすごく困ったことがある。
 それは、あたしが住んでる最上階のさらに上、屋上に建てられた広いテラスのついたペントハウスと、そこに住んでいた人のこと。
 あたしたち一家が越してくる前、そこにはスターが住んでいたらしい。ラップ・グループでデビューしていくつも賞を獲って、映画に主演してそこでも色んな記録を破った人。
 夜になるとパーティーをハシゴして、たくさんの美人に囲まれて過ごした人。
そしてスターは、ある日そのペントハウスで死んじゃったのだ。大富豪の孫娘と一緒に。悪い薬の…オーバードーズ、っていうのが原因らしい。
 あたしは転校したばっかりの学校で、まず最初に苗字がパパと違うことをからかわれた。ロシア系の名前って男と女で苗字の語尾が変わるんだけど、うまく説明できなかった。それから父称(あたしの名前で言うとシードロヴィチの部分)も変だって言われた。ロシア語にはミスターとかムッシューとかがないから、丁寧に言うときはパパの名前をくっつけるこういう呼び方しかないの。でも、そんなの変だって。
 その次にどこに住んでるのか聞かれて、正直に答えたらそこは『呪いの館』だって言われた。夜な夜な死霊がパーティーをするんだって。そんなことない、眺めのいい家だよ、って言い返したけど、みんなはキャーって叫んで逃げて行った。それから何か月も経っても、友達はできてなかった。
 あたしの越してくる前のことは知らないけど、今は本当に呪いの館なんかじゃない。
 だって、今そのペントハウスには全然違う人が住んでいる。
 朝は早起きでジョギングをしてるし、大きくてお利口な犬も飼ってて散歩したりもしてる。いっぱいの美人を呼んでパーティーしてるのなんて見たことないし。パパもママも『真面目な好青年』って言ってた。
 その人はキース・グッドマンさん。金髪で青い目で、映画に出てきてもおかしくないカッコいい人だけど、ポセイドン・ラインで働いていると言ってた。電車を運転してるの?って訊いたら、残念ながら、って首を横に振ってた。本社のビルの中でデスクワークをしてるんだよ、って。
 でも、それは嘘だってあたしは知ってる。


 その夜は満月だった。
 あたしは、魔法を試そうとしていた。満月の力を借りて魅力をアップさせる魔法。
 錫でできたグラスに水を満たして、そこに満月を映して夜中の0時に一息に飲み干すんだって。
 なんでそんなことしようとしてたのか、たった数か月前の自分のことなのにバカみたいって今は思う。
 でも、そのときは焦っていたの。来月は八歳のお誕生日が来るのに、誕生日パーティーに呼べる子なんて誰もいないかった。ウキウキと準備を進めるパパとママに何て言えばいいのかわからなかった。魔法の力を借りてでも、魅力的になって友達がほしかった。
 0時少し前に自分の部屋から満月を探したけど、位置がズレてしまっている。忍び足でリビングやキッチンにも行ったけどダメだった。バスルームの手前、洗面台の脇の窓からようやく満月を見つけた。グラスの水面に満月を映そうとして、あたしはハッとした。
 斜め上の樋に、何かがいる。黒くて丸まっている。ときどきピクピクと動く何か。
 猫? あたしは唾を飲み込んだ。そういえば同じフロアに猫を飼ってる人がいたはずだ。黒猫だったか記憶にない。あんなところにいたら落ちちゃう。どうしよう。
 窓を開けてそこから上半身を突き出した。おいで、怖くないよ、と言う。猫は樋にしがみついている。あたしは片手で窓枠を掴んで、もう片方の手を突き出した。
 あっ、と思ったときには見えているものがカクン、とぶれていた。
 落ちる、と思った。ううん、違う、落ちてる。あたし、窓から落ちちゃった。
 怖いとか感じるヒマもなかった。友達できないまま死んじゃうな、と思った。
 そのとき、落ちてるあたしよりもっと速い何かが、あたしの横を上から下に通り抜けた。
 きっと天使だな、とあたしは思った。白っぽくて、あたしより体が大きかったから。
 変だな、と気づいたのは、あたしの髪の毛がふわふわと顔の周りに浮いていたから。パジャマの裾も風に吹かれたカーテンみたいにふくらんでる。
「浮いてる……」
 もう落ちてなかった。天国にはこうやって行くんだ、とあたしは思った。
「こんばんは」
 誰かがそう言った。
「こんばんは」
 あたしも言った。挨拶は大事だ。これから行く天国でお世話になるはずだ。天使の姿を探す。
 そこにいたのは、天使じゃなかった。このシュテルンビルトに来て、たくさんポスターやCMで見たヒーローだった。NEXTという特殊な力を持ってる人。名前は――
「……スカイハイ」
「やあ、はじめまして。ところで、どこか痛いところはないかな?」
「ない、です。あの、あたし、死んでないですか?」
「うん、そのはずだ。窓から落ちた瞬間を見つけたからね」
「じゃあ、なんで浮いてるんですか?」
「それは私の風の力だよ」
「ああ……風……」
 顔のまわりに散らばっている髪の毛。ふくらんだパジャマの裾。風に吹かれたカーテンみたいに。そうか。
「あたしの横をさっきヒュンって通り過ぎたのも、スカイハイ、ですか?」
 そうだよ、と甲冑みたいなマスクがうなずく。
「天使かと思った。あたし、天国に行くのかと」
「よく空を飛んでいるけれど、残念ながら私もまだ天使に会ったことはないんだ。さあ、お家に帰ろうか」
 そう言って、騎士みたいなコスチュームのヒーローは手を伸ばしてきた。あたしはそれにつかまる。抱っことダンスのホールドの中間みたいな恰好で、あたしは抱えられた。髪の毛やパジャマの浮き方がさっきより少し小さくなる。
 あたしが落ち着くまでは、急に抱きかかえないで風を起こして浮かべてくれていたらしい。自分が浮かんであたしを抱える方が、たぶん楽なんだろう。
「あっ、待って、猫も助けてあげて」
「猫?」
「黒い猫が樋のところにいたの。ええと、ここに住んでる、アランさんて人の飼ってる」
「ああ、アレンさんの」
 スカイハイはあたしの言い間違えたお隣さんの苗字を言い直してから、ちょっと首を傾げた。
「黒い猫?」
「ほら、あれ」
 あたしが落っこちた窓のところまで連れていってもらう。樋のところまで近づいていくと、それは猫でも何でもなかった。
「ビニール袋……」
 助けようとして死にかけたのに、それはただのゴミだった。あたしはがっかりした。震えているように見えたのに。単なる勘違いだった。
「生き物が危険な目に遭っていなくてよかった」
 心の底からそう思っているような声でスカイハイは言った。
「自分より弱いものを助けようとしたことは偉い。ただ、次からは大人の人に声をかけてごらん。いいね?」
 ところで、とグローブに包まれた手を開く。その中には錫のグラスがあった。
「これも君が落としたのかな?」
 そうだった。満月の力を借りて魅力をアップさせる魔法。
 錫でできたグラスに水を満たして、そこに満月を映して夜中の0時に一息に飲み干す。
 たぶん0時ジャストはとっくに過ぎてしまった。水もこぼれてしまった。
 魔法どころか猫も助けられない。っていうか猫なんかいなくて、ヒーローが飛んでこなかったら明日の朝、グチャッって潰れたあたしが発見されるところだった。
 あたしはいつの間にか泣き出していた。
 怖かったんだね、と言われて、違うもん、と言い返した。そして泣きながら、来月には八歳の誕生日が来るのにパーティーに呼ぶ友達がいないんだって打ち明けていた。
「うちの上のペントハウスが呪われてるって言われて……っ」
「ええ? この、建物の?」
「そうだよ。オーバー…ドーズ? とかで二人の人が死んだって」
「ここでかい?」
「学校の子はみんなそう言ってたよ。ヒーローはそういうの知らないの?」
「うーん、芸能ニュースに疎くてね」
 社の人間に明日聞いてみよう、とスカイハイは自分に言い聞かせるようにつぶやいた。社の人間? そういえばヒーローもサラリーマンなんだってことをあたしは思い出した。
 喋りながら、気がつくとふわふわと上に向かっている。
「え? どこ行くの?」
「私も仲良くなりたい人と、なんていうか……あまりうまくいかないので、君に良いアドバイスはできそうにないんだが……」
「なにそれ、スカイハイでも友達できないんじゃあたしなんか絶対ムリだよ」
 鼻息荒く言ったあたしの目の前でスカイハイはサッと手を振った。そっちに首を向ける。
「わぁ……」
 満月に照らされて、海は大きな絵みたいだった。動く絵。波がきらきらして、だけどどれ一つ同じ動きをしていない。いくつか浮かんでいる船が豆電球みたいな赤とか青の光を点けている。地上には、白とオレンジ色の光が溢れていた。どこもかしこも光ってて、自分が住んでるビルはどれなのかもうわからなかった。
 これって、たぶんすごい贅沢なことだ。あたしは慌てて言った。
「すごくきれい。あの、ありがとうございます」
 スカイハイは一つうなずいてからゆっくりと降りはじめる。
 頑張れとか、元気を出しなさいとか言われないのが嬉しかった。
 うちの洗面台の窓に戻ってきた。パパもママもぐっすり寝ていてくれるように祈りながら窓枠を乗り越える。スカイハイが錫のグラスを渡してくれた。
「あ、あたしはアンナ・パヴロヴァです。助けてくれたので死なずに済みました。ありがとうございました。おやすみなさい」
 小さな窓の外で浮かんだまま、唐突にスカイハイは言った。
「きれいな髪だね」
 あたしの髪の毛は白っぽい金髪だ。あたしはあんまり好きじゃないから、ママが賛成してくれたら染めたいと思っている。
「どうも。でも、そういうのは大人の女の人に言った方がいいと思います」
「そうか、そうだね」
 短く笑ってからヒーローは「おやすみ」と飛び去った。


 その翌朝。
 パパとママは朝早くから大事な会議があるとかで、あたしがまだ寝ぼけてるうちに出掛けてしまった。スカイハイに助けてもらったことは言えないけど(どうして真夜中の0時に窓を開けたか話さなくてはいけなくなる)、いいことがあったよってくらいは教えたかったのに。人生はままならない。
 あたしは、ゴールドステージに住んでいて、シルバーステージの公立の小学校に通っている。シルバーステージならスクールバスが回ってるんだけど、あたしはそれに乗るのにエレベーターみたいなのでステージを降りなくちゃいけない。いつもはパパかママがスクールバスの停留所まで通勤の車に乗せて行ってくれるけど、今日のあたしは一人で道を歩いていた。エレベーターは住んでいるビルを出て1ブロックのところにある。
 この間なんて、あんなすごい家に住んでるお金持ちなのにどうして公立校に来るの、って言われた。(それって、出てけって意味なのかな?)小学校から私立なんて行かなくていいっていうのは、苦労人の親のポリシーらしい。冷静に考えれば私立に途中から転校していったら成金とか言われてもっといじめられそうだし。
 ゴールドステージの道を歩いて通学する子供なんていない。1ブロックだけなのに、すごく物珍しそうに眺められて困る。
「やあ、おはようアンナ!」
 もうすぐエレベーターというところで、向こうから声をかけられた。うちの上の住人、キースさんだ。犬のジョンと一緒だった。キースさんに「おはようございます」と言ってからジョンを撫でさせてもらう。
「今から学校かい?」
「うん。親は朝早くから仕事だから、今日は歩き。すぐそこまでだけど」
「そうか、行ってらっしゃい。……そうだ、君のお家の上の、いま私が住んでいるところだけどね」
「えっ……はい」
 この人からもあの『呪いの館』の話が出てくるのかと、あたしは身構えた。
「知っているかな。君がまだ赤ちゃんの頃の話だけど、音楽をやったり映画に出たりする有名人が住んでいて」
「聞いたことある。その人、死んじゃったんでしょ。セレブの孫娘と二人で。悪い薬のせいで」
「いや、それが違うんだ。会社の担当部署の人に聞いたんだけれど、彼らは具合を悪くしたときにすぐに発見されてね、亡くなったのは運ばれた病院なんだそうだよ。だから、もしそのことでクラスメイトにからかわれたりしたら」
「えーと、それは…ダメだと思う」
 あたしがそう言うとキースさんは眉をぴょこんと上げて「何がだい?」と訊いてきた。
「ペントハウスの中で息を引き取ったか病院に運ばれてからか亡くなったかじゃなくて、そういう事件は実際にあったんだし。その真下にうちの一家が住んでるのは変わらないから」
「ああ…そうか、なるほど」
 大体、からかわれたりするのなんて事実かどうかは関係ないんだし。転校生(つまり、あたし)が変な名前だったり成金の家の子なのが気に食わないわけで。
 そう思って顔を上げると、キースさんは見るからにしょんぼりしている。あたしは気の毒になって言った。
「あ、でも、キースさんの住んでるところで人が死んでたんじゃなかったのがハッキリしたんでしょ。それは良かったね」
「ああ、そうだね。だけどお役に立てなくて申し訳ないな」
「いいよ、別に。ところでなんで急にそんなこと教えてくれたの? キースさん、あのお家買うときに調べなかったの? 資産価値に関係するんでしょ、そういうの」
 ずいぶん物知りだね、と驚いてから(資産価値とかいうのはパパとママの仕事の関係だ)キースさんは「たまたま昨日小耳に挟んでね。それにあれは会社の持ち物なんだ」と教えてくれた。
「そうなの? すごい豪華な社宅! ああそっか、鉄道会社は不動産をけっこう持ってるんだよね。土地を買って線路を引いて、周りに家を建てて、そうするとまた鉄道を使ってもらえるから」
「君の知識は大人顔負けだね。本当に来月八歳になるのかい?」
「そう、いまは七歳と十一ヶ月。あれ? あたし、誕生日なんて教えたっけ? ママが言ってたの?」
「……あれ、誰から聞いたのかな?」
「まぁいいや。じゃあ行ってきます!」
 あたしはキースさんとジョンに手を振って、シルバーステージに降りるエレベーターに乗った。
 いまのキースさんとの会話と、昨夜のスカイハイとの会話を思い出す。
 あたしが『アランさん』と言い間違えたお隣さんの苗字を、スカイハイは『アレンさん』と間違わないで言えてた。それから飼ってる猫が黒じゃないって知っているみたいだった。(あとで確かめたら、アレンさん家の猫の毛並みは白だった。黒と白じゃ、夜でも見間違えようがない。)
 スカイハイは、昨夜ここのペントハウスで人が死んだって話をしたら、すごく驚いていた。いまはキースさんが住んでるペントハウス。キースさんは、たまたま昨日小耳に挟んだんだと言って、さっそく持ち主の会社の担当者に事情を聞いて、あたしにも教えてくれた。『呪いの館』のせいで学校で友達ができないことは、スカイハイにしか話してないのに。


 それからあたしは、上のフロアを気にするようになった。
 スカイハイは人気のヒーローだから、イベント出演や夜のパトロールのことも街の人がインターネットに書き込むことが多い。
 スカイハイの公式のお仕事がないらしい日に、自分の部屋のバルコニーに出て耳を澄ますと、上のフロアでテラスに出る物音がすることがある。ときどきジョンも出てきてちょっと遊んでるみたいな間があって、それから静かになる。
 あたしはパソコンに向かう。十分もすると、インターネットには「さっきスカイハイ見ちゃった! 見回りいつもありがとう~」みたいな書き込みが見つかるようになる。
 書き込みを探しながらあたしも心の中で「いつもパトロールありがとう。気をつけてね」と言う。そしてベッドにもぐる。
 あたしは、上のフロアにスカイハイが住んでると信じることにした。ペントハウスのテラスは大きくて、あたしの家の窓がないほうまでテラスが伸びている。だから出発するところは見えないし、パトロールが終わって戻ってくる頃には普通ならあたしは寝てるけど。
 あたしは、キースさんがスカイハイだと決めた。というより信じることにした。違うかもしれないけど、でも、麻薬で人が死んだのよりも頭の上にヒーローのお家があるほうがずっとステキだもの。
 それから。
 他の秘密も、あたしは知ってる。


 別の日のこと。ママと一緒に帰ってくると、ちょうどジョンを連れたキースさんも帰ってきたところだった。ジョンと遊びたがるあたしにママが目を三角にする。
「アニェーチカ! グッドマンさんがお困りになるでしょう」
 植え込みの辺りにしゃがみこんだあたしとジョンを見て、構いませんよ、とキースさんは言ってくれる。恐縮しているママのケータイに電話がかかってきた。
「家でかけ直すから先に行くわよ。あなたもすぐに戻ってね、アニェーチカ?」
「はぁい、ママ」
 そう応えるけど、ジョンの肉球をさわるほうが面白い。遊んでいると、上から声がした。
「アニェーチカ?」
「そう。あたし、アンナだから」
「アンナはアーニャじゃないの?」
「アーニャとも言うけど。おじいちゃんはアーンヌシカって呼ぶよ。親しくなると違う呼び方になるんだよ」
 次にジョンの鼻の頭をさわる。ぺにゃっとしてて面白い。何度もやってたらくすぐったいのか、急にペロッと舌を出して鼻ごと指を舐めてきたのでちょっとびっくりする。
「あー…」とキースさんは考えながら質問した。
「……イワンという名前だと…ワーニャになるのかな」
「ワーニャだよ。パパのお兄さんもイワンおじさんだよ。パパはイワニュシュカって呼ぶ」
「それ、元の名前より長くなってないかい?」
 今度はジョンの耳を片方ずつ持ち上げながら教えてあげた。
「なるよ。ワニューシャとかワニューシェチュカとか。あっ、そうだ、あたしは子供だから『アンナです』『はじめまして、アーンヌシカ、さあお菓子をおあがりなさい』ってなっても平気だけど、大人の人なら『ワーニャ』ってくらいにしておいたほうがいいよ。家族とか恋人の呼び方だから。大親友になったら呼んでもいいけど」
 キースさんは考え込んでいたみたいだったけど、「やっぱりさっきのをもう一度教えてくれないかい」と言った。
「さっきの?」
「ワニュ…何だっけ?」
 キースさんはケータイを出した。「あたし、それさわってもいい?」と訊く。スカイハイのケータイだ。色は白だった。「いいよ」と言うのでメモ機能に、イワンの愛称を思いつくだけ入力してあげた。
 ケータイを返しながら訊く。
「そのイワンって人が『仲良くなりたい相手』?」
「……え?」
「せっかく見晴らしのいいお家に住んでるんだから、招待したらいいんじゃない?」
 あっ、しまった。仲良くなりたい人がいるけど、うまくいかないって言ったのはスカイハイのほうだった。あたしは首をすくめたけど、キースさんは「なんで知ってるの?」とは聞き返してこなかった。
「ママが怒るから帰る。さようなら。ジョンもバイバイ」
 玄関に駆け寄るとドアマンがドアを開けてくれた。笑って挨拶をされて、走っちゃだめだと気づいてゆっくり歩く。
 友達に会ってみたいなぁ、と思う。どんな人だろう。どうして仲良くなれないんだろう。うまくいけばいいな。本当にここに呼べばいいのに。もしかしてイワンさんもヒーローだろうか。エレベーターの中であたしはそんなことを考えていた。
 あたしの願いは、一週間後にあっさり現実になった。


 学校から帰ると、植え込みの影にしゃがみこんでいる人がいた。背中にオリエンタルな雰囲気の刺繍が入ったジャンバーを着てる。
「……大丈夫ですか?」
 あたしが後ろから覗き込んだら、その人はのけぞって悲鳴をあげた。
「うわぁ!」
「わぁ!」
あたしも一緒になって驚いた。
「……あ、ごめん、なさい。大丈夫…です」
 紫色のスカジャンにだぶだぶのカーゴパンツ、大きなワークブーツ。長い前髪の間からきょときょとした視線を投げている。髪の色はあたしのに似た、白っぽい金髪。まだ十代だろうか、この辺りの高級住宅街(って自分で言うのイヤだけど)では見かけないタイプ。
 でも悪い人じゃなさそうだった。あたしと話すのに、しゃがんだままのほうがいいのか立ち上がろうか悩んで屈伸してる。子供のあたしより背が高いのを気にしてるんだと思う。詐欺とか泥棒とかじゃなさそう。
「何かご用?」
「え? ええと、知り合いが住んでて……」
「ここに?!」
 カンジ悪いのを承知で言うけど、あたしのお家が入ってるビルにこの人の友達が住んでるとは思えない。
「そ、そうだよ」
「ホントに、このビル? もしかして、あなた騙されたんじゃない?」
 友達どうしでするキツイ冗談なんじゃないかと、あたしは思った。ここに来いって言って変な場所に呼び出して、みんなで笑うとか。男の子ってそういうことをよくやるから。
「ホントだよ」
「なんて人?」
「え?」
「友達。なんて人?」
 その人は言葉に詰まってから「……いいよ」とそっぽを向いた。帰ろうとする袖をつかむ。
「なに?」
「言いなよ。友達の名前」
「……言わない。離してくれないかな」
 子供の手なんて振り払ってさっさと行けばいいのに、またこっちに向き直る。
「言わないと、ドアマン呼ぶよ」
「はあ?!」
「ドアマン呼ぶよ。あたし、ここが家なの。あなた、不審者だもん」
 植え込みから首を伸ばして、ビルの入り口にいるドアマンをチラッと見る。
「あ、今日はマービンさんだ。あの人強いよ。空手のクロオビだよ」
「へぇー黒帯かぁ、すごいなぁ」
 不審者呼ばわりされてるのに、その人は変な感心のしかたをした。
「早く言ってよ。友達の名前」
「嫌だよ。っていうか友達なのかな、微妙なんだよね」
「何それ。じゃあ、あなたの名前教えてよ」
「……イワン、だけど」
「イワン!」
 あたしは思わず彼の袖をぎゅぎゅーっとつかんでしまった。
「ちょ、ちょっと!」
「あなたがイワン! キースさんの『仲良くなりたい人』ね!!」
「え?! えええええっ!!」
 イワンは目を見開く。アメジストみたいな紫色の瞳。今度こそあたしの手は振り払われた。
「痛ーい! 爪んとこ痛かった!」
「え、ごめんごめん、え、待って、なに、知り合い? スッ…キースさん、グッドマンさんの知り合い?」
 この人いま、スカイハイ、って言いかけた。
 やっぱりキースさんはスカイハイなんだ。そして、この人は正体を知ってて、それで友達…になるところ? 面白い。あたしはワクワクする。
「キースさんならうちの上に住んでるよ。屋上のペントハウス」
「ひゃあー…ペントハウス……ホントなんだ、あの、ここって前にあれでしょ、映画俳優でラッパーもやってた――」
「人が死んだところの真下に住んでるって言われるの、あたしキライ」
「あ、ごめん……」
 あたしが頬を膨らませたら、イワンは凹んだ。黒帯に喜んだり、スターのお家に喜んだり。ミーハーなのか気が小さいのかよくわからない。
「で、どうしたの? 遊びにきたの?」
「遊びにっていうか……お見舞いっていうか……」
「え?! 怪我してるの?」
 このところHERO.TVの中継はなかったはずだ。スカイハイ、どうしちゃったんだろうとあたしが不安になると、イワンは首を横に振った。
「違うよ。風邪か何かみたい。重い病気とか大怪我じゃないよ、心配しないで」
「そっか。そういえばここ何日かキースさん見てないかも」
「やっぱりそうなんだ」
 ふぅ、と息をつくイワンの袖をあたしはまたつかんだ。
「なに?」
「お見舞いに来たんでしょ」
「あー…どうしようかなって考えてたんだよね。呼ばれたわけでもないし、やっぱり迷惑かなって」
「そんなことないよ! だって、イワンさんと仲良くなりたがってたもん、キースさんは」
「さっきから、それどういう意味なの? ええと」
「あたしはアンナ。あのね、イワンさんのこと、ワニューシャとかワニューシェチュカとかって呼んでみたいってキースさん言ってたもん」
 言ってはいないけど、たぶん合ってる。そうじゃなきゃメモしない。
「え?! えええ?!」
「行こうよ。あたしもおやつ食べたいから早く家に帰りたいし」
「えええ? う、嘘だよ、何それ、そんなこと」
 グズグズ言ってるイワンを引っ張って、あたしは玄関のドアをくぐった。ドアマンのマービンさんに「友達です」と言うと、微笑んで通してくれた。クロオビの実力が披露されることはなくて良かった。
 エレベーターに乗って、あたしの家のあるフロアのボタンを押す。
「ええと、アンナの家は?」
「この階」とボタンを指す。
「あの…キースさんの家は?」
「あそこは特別なの。カードキーみたいなのかざさないとエレベーターが着かない」
「え、じゃあ行かれないよね?」
「うちから行けるよ。はい、どうぞ」
 エレベーターを降りて、わが家に到着する。廊下できょろきょろしてるイワンは気にせずに家に向かう。結局、イワンもついてきた。
「いま、親も家政婦さんもいないからそんなにビクビクしなくていいよ」
「え、まずくない? 僕なんかが来たら」
「キースさんの友達なんでしょ、信用する」
「お邪魔しま……すっげー……」
眺めの良さに気づいてリビングの窓に張り付こうとするイワンに、バルコニーに出るように言う。
「眺めなら、上のほうがもっといいはずだよ。ここ持ってて」
避難はしごの端をあたしは握った。イワンがまた目をぱちぱちさせる。
「行けるって……そこから行くの? これやっぱりまずいよ、やめようよ」
「いいんだよ。緊急時には使っていいんだもん」
 あたしは上までのぼると、うちのバルコニーの天井に作られた蓋を押し開けた。キースさんのペントハウスのテラスの床に通じている。
 越してきてすぐに、キースさんのほうから緊急時にちゃんと避難できるようにって、一家揃って実際に使ってみてくださいと言われたのだ。さすがヒーローだ。イワンも案内できるし。毎週末、あたしもちゃんとお掃除してた甲斐がある。
 ガコン、と蓋が開くと聞き覚えのある息遣いが聞こえてきた。
「きゃー、ジョン! やめて、バックして!」
 肩まで屋上に出したあたしにジョンが飛びついてきそうになる。そういえばお散歩してないのかも。テラスで勝手に遊んではいるみたいだけど、退屈なのかな。
 イワンが上がってくると、ジョンはさらに嬉しそうになった。いいなぁ。ジョンもイワンが好きらしい。あたしはガラス扉を指して言った。
「昼間ジョンが一人で遊んでるはずだから、あそこから入れるよ」
「えっ……防犯意識低いなぁ」
「だって、こんなところ、スカイハイみたいに空でも飛べなきゃ入れないもん。そっち海だし、周りはここより低いビルだし」
「あー…そうだね……」
 イワンが脱力したみたいに応える。そのとき、さっきあたしが指したガラス扉が開いた。
「イワンくん!! どうしてここに?!」
「ぅわ! す、すいませんすいませんっ!!」
 イワンがお見舞いに来たはずだけど、当のキースさんは元気そうだった。声をかけられて、頭を抱えてしゃがみこみそうになっているイワンの陰からあたしは顔を出す。
「こんにちは。キースさん」
「やあ、アンナ! もう学校は終わったの?」
 キースさんは、あたしを見つけて少し納得した顔になった。
「うん。ビルの前でイワンさんに会ったの。お見舞いに行きたいけど、どうしようって悩んでたから、あたしが連れてきちゃった」
「そうだったのか。案内をありがとう」
「あの、すいません、この子は悪くないんです! 親切でやってくれたんです、だから、あの」
 キースさんはにこにこしているのに、イワンは慌てている。あたしは言った。
「何聞いてたの、イワンさん。キースさん喜んでくれてるよ、あたしにも『案内をありがとう』って言ったでしょ」
「え、でも、あの……あ、そうだ、お加減は……?」
 その質問にはあたしもうなずいた。
「ああ、もう大丈夫なんだ。このところ多忙だったのでね、会社からもいい機会だから休みなさいと言われて従ったんだ。明日にはジムに顔を出そうかと思っていたくらいで」
「そ、そうですか……それは、よかったです」
 うん、よかったよかったとジョンを撫でながらあたしがうなずいていると、イワンは続けて言った。
「僕が……変なことを言っちゃって……それから一週間、会えなかったから、その……」
 そこまで言って顔を伏せる。キースさんは急に驚いた顔になってテラスをどんどん歩いてきた。
「いや、あれは……私が先に言い出したことじゃないか。そのあとタイミング悪く体調を崩してしまって、きっと君が気に病んでるだろうと思いながら……連絡できずにいて、すまなかった」
「き、気に病むなんて! ええと、僕、あの……」
 しゃがんだままあたしが見上げると、イワンの顔は真っ赤だった。
「あのとき、言ったの……嘘じゃ、ないです」
「イワンくん……」
「本当の、ことですから」
 キースさんは一瞬顔を歪めて、泣いちゃうのかとあたしはびっくりした。
「……君がここに来てくれた、それが答えだと考えていいのかな」
 イワンが息を飲んで、両手で顔を覆ってしまう。うわぁこれは絶対に泣いちゃう、とあたしは思ったけど、そのポーズのまま、ほんのちょっとうなずいてた。泣いてないみたい。
 これってケンカなの? 二人して謝ってたみたいだけど、仲直りなの? 仲良くなれたの? あたしにはよくわからない。イワンは震えてるみたいだし、キースさんは細く息を吐いてちょっと呆然としてるみたいに見えた。
 あたしにわかることは一つ。こういうときは、子供は撤退しなくちゃいけないのだ。
「お腹空いたから、あたしおやつ食べに帰るね」
 ジョンに向かって、だけど大きめな声でそう言って、あたしはまた避難はしごの蓋まで歩いていく。
 我に返ったみたいにキースさんが飛んできて「足元をよく見て」なんて言って見送ってくれた。そうだよね、あたし一度窓から落っこちてる前科があるから。
「イワンさんは大丈夫?」って聞こうとしたら(もしかして、また避難はしごで戻ってくるのかもしれないし)蓋を閉めるときに顔を覗かせて、手を振ってくれたから大丈夫なんだろう。
 またペントハウスで事件が起きたらどうしよう、と少し心配だけど、お腹が鳴ったのでココアを作って、クッキーを食べた。それから宿題、それが終わるとアニメの時間。今日は早めにパパとママが帰ってきて、来月おじいちゃんが遊びに来るって教えてくれて、やったぁ一緒に何して遊ぼうかな、なんて考えてるうちにキースさんとイワンのことは忘れていた。


「……あれ?」
「……あ、おはよう」
 挨拶してきたのは昨日会ったイワン。
「なんでいるの?」
「な…なんでって」
 だって、ここはエレベーターの中。お家のあるフロアでエレベーターを呼んだら、上から降りてきたエレベーターのドアが開いて、イワンがいたのだ。
「乗らないの」
「乗るよ。学校行くもん」
 本当は行きたくないけど。それに、実はさっきパパの車に乗ってから忘れ物を思い出して、戻ってきたの。ちょっと急いでる。
「ゆうべ、泊めてもらったの?」
 あたしが訊くと、イワンは「う……」と言葉に詰まった。
「あっ、もしかして、キースさんあれからまた具合悪くなったの? で、看病したの?」
「あ、それはない、大丈夫。あー…すごい元気、だった」
 じゃあなんでそこで口がぐにゃってなるの? まぁ、昨日見たとき元気そうだったから、また倒れたとは思えないけど。
「ペントハウスのほうが眺めよかったでしょ? きれいだったでしょ、夜景はさらに」
「うん、あれはやばいね。すごいね、朝焼けとか感動した」
「夜明けのこと? 早起きなんだね?」
 また「うう……」と唸るイワン。変なの。
「ところで何隠してるの?」
「え、隠してないよ」
 だって、ジャンバーの襟を何回も直して首を隠そうとしてるのに。ペンダントとか?
 でも他人様が隠しておきたがってるものを何でも知りたがるのはいけないんだって、おじいちゃんも言ってたし。これだけ聞いておこう。
「……それ、いいもの? 悪いもの?」
 エレベーターが一階に着いた。ポーン、という音がしてドアが開く。
「……いいもの。すごく」
「ふーん。じゃあね! いってきます!」
 パパを待たせてるからあたしは振り向かなかったけど、イワンは言い終えて笑ってるみたいだった。なんだか知らないけど、よかったね。


 それからときどき、イワンはキースさんのお家に遊びに来るようになった。ゲームとかアニメとか(それも特に日本製の)が好きみたいで、会えばあたしともお喋りする。
 そうそう、あたしは八歳の誕生日パーティーに友達をちゃんと招待できた。
 お客様はキースさんとジョンとイワンかと思った? 確かにペントハウスのテラスのバーベキューにも呼んでもらえたけど。家でやったパーティーには学校のクラスメイトが来てくれた。
 それもまぁ、キースさんとイワンのおかげかもしれない。
 誕生日までいよいよ十日という日の放課後。スクールバスに乗ろうとするあたしに門のところから呼びかける声がした。
 キースさんとイワンが車から降りてくる。車に乗ってるから一瞬誰だかわからなかった。
「どうしたの?!」
 あたしが駆け寄ると、キースさんが「落ち着いて聞いてほしい」と言う。
「いま、お父さんは出張に行っているね?」
 うなずくと、続けて「向こうでお父さんが事故に遭ったらしい。命に別状はないようだけど、それでお母さんはあちらに向かうことになった。出掛けようとして、家の前でお会いしてね。メールは来てないかな?」
「それが、あたし、今日はケータイを家に置いてきちゃってたの」
「お母さんの携帯電話の番号はわかるかな?」
「うん…メモしてある」
「それなら、私の電話を貸してあげるから連絡してごらん。家に帰るなら、私たちが送ってあげてもいいから」
「わかった……」
 あたしは突然のことに泣きそうになってしまう。そのときだった。
「何やってるの? その人たち誰?」
 げぇっ、とあたしは言いそうになった。キャサリンだ。あたしのお家のあるビルを一番はじめに『呪いの館』って言った子。
「あの、パパが出張先で事故に遭っちゃったの。それでママはそっちに行っちゃうから、だから」
「はあ?! それで、その人たちに送ってあげるって言われてたの!?」
 そうだよ、とうなずくとキャサリンは髪の毛が逆立つんじゃないかってくらい怒り出した。
「あんたバカじゃないの!? それって最近流行ってる誘拐の手口じゃない!!」
「えっ……違うよ、そういうんじゃないから」
「学校でやったこの間の防犯セミナー出てたでしょ?! ゲスト講師がロックバイソンだからって真面目に聞いてなかったんじゃないの?!」
「聞いてたよ! この人たちはうちの上に住んでる人だから、悪い人じゃないよ!」
 だって、イワンは何してる人か知らないけど、キースさんはスカイハイなんだよ。たぶん。
「うっわー! あのペントハウスに住んでるの?! どっかの金持ちの息子ね!! ロリコンのドラ息子が不良仲間を連れて来たんだ!!」
 ロリコンだのドラ息子だのと言われてるキースさんもイワンもおろおろするだけだ。キャサリンはしまいに警備員さんを大声で呼んでしまう。
「やめてよ! 違うって言ってるでしょ!!」
 あたしはキャサリンにつかみかかったけど、逆にひっぱたかれてしまう。
「あんたがこれでいなくなっちゃったら、毎朝あたしは牛乳パックに載ってるあんたの顔写真を見ながらシリアル食べることになるんだからね! そんなの絶対イヤ!!」
 飛んできた警備員さんは不審者と指摘された二人に声をかけるよりも先に、泣きながら取っ組み合いになっているあたしとキャサリンを引き剥がそうとするキースさんとイワンを手伝わなきゃいけなかった。
 なんでかわからないけど、あたしとキャサリンはそれがきっかけで仲良くなった。誕生日パーティーにも、もちろん呼んだ。事故に遭ったパパは額を十針縫ったけど、もういまは全然わからないくらい。パーティーの準備もはりきってくれて、楽しいパーティーだった。


「人間って、どういうきっかけで仲良くなるかわかんないね」
 八歳と二か月になったあたしが言うと、イワンは深くうなずいた。
「ほんとだよね」
「イワンさんとキースさんは、なんで仲良くなったの?」
「え……いいでしょ別に、そんなの」
「ねえ、二人は親友なんでしょ。キースさん、ワニューシャとかワニューシェチュカとかって呼んでくれてる?」
「……秘密」
 イワンはそっぽを向いたけど、口がぐにゃってなってる。最近わかった。これは照れてるときの顔だ。
 よくわかんないけど、よかったね。
 あたしは心の中でそう言い返した。


END
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Posted on 2012/01/12 Thu. 04:10 [edit]

category: SS(空折)

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