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空/折 「さあ、テストをはじめましょう」 

モブキャラ視点というSSの手法を試してみたかったのですが。なんかオリキャラ色が強いなーと、ちょっと失敗気味かもしれません。
声の小さいメカニックさんはあまりに天才的すぎて、彼作のスーツはテストもなく一度着て現場にゴーだったのですが、こんな場面があってもいいかな、と。


さあ、テストをはじめましょう


 ちょっとした体育館くらいの広いスペースの中。イワンは折紙サイクロンとしてそこにいた。
 至るところに張り巡らされたケーブル。あちこちで瞬くモニタの明かり。立ち働くのは白衣とツナギ姿。
「じゃあ、テスト行きますね」
「そのサーベルじゃなくてスウォード、じゃなくて」
 はじめて見る顔の技術者が言い直す。折紙サイクロンに気を使っているらしい。
「刀」
 一番年少のようだがチーフと呼ばれている女性が言う。日本語の発音がスムースだった。顔立ちもオリエンタルだ。
「折紙さん。刀を抜くところからの動作、お願いします」
 イワンはうなずいた。マスクを被っているので大きくハッキリと顎を引く。
 技術者たちが、イワンがその中心に立っている黄色いラインの外へと退避する。
「シュミレーターの作動を確認」
 ヴ…ン、と低い音がして、部屋の照明が落とされていく。
 仁王立ちしたイワンの周囲がゆらめくように見え、ブロンズステージの路地が陽炎のように立ち上がる。
 訓練用の映像が流れ出したのだ。
 物陰から強盗グループが飛び出してくる3Dの実写映像だ。何度も見ているので犯人グループの顔は覚えてしまったが、犯人たちが二度同じ動きをしてくれたことはない。
 実在の人物を使って撮影をしてなぜそうなるのか詳しい仕組みはイワンにはよくわからなかった。一度技術者に尋ねたのだが、何とかマトリクスだのフレームがどうのと嬉々として答えられてポカンとするばかりだった。
 刀を抜いて、人通りの多い道へ逃げないように、その前に立って見得を切って。抜刀して威嚇。スポンサーロゴをここで披露。細い路地へ犯人を追い込む。
 折紙サイクロンは大概他のヒーローと組んで動くので、攻撃なり捕獲なりはそちらに任せることが多い。犯人の一人がつんのめって転んだので、彼だけは捕獲した。実際の事件であればポイントが少々加算されるな、とイワンは思う。
「終了でーす。ありがとうございましたー」
 3D映像が掻き消えた。黄色いラインの外ではモニタを覗きながら技術者たちが顔をつきあわせている。
「あー、けっこう稼動域が」
「肩のところのパーツ、Bタイプに換えますか」
「折紙さん、膝とかの感じはどうですか? 曲げ伸ばしがし辛いとか。数値的には問題ないようですが」
「特に問題は感じません」
 普段の口調のままイワンは答えた。
 はじめにこの施設に来たときは、TV用の口調で喋っていたのだが「疲れるからやめたほうがいいですよ」と女性チーフから諭されたのだ。
 歌舞伎と忍者を融合させたようなキャラ作りについて、本家のジャパニーズからダメ出しされたのかとショックを受けたイワンだったが、実際は別の意味だった。
 ヒーロースーツを実際に使用するまでの道のりは長く、機能テストは煩雑を極める。
 強度やら衝撃吸収率やら空気抵抗などといった基礎的なテストは専門チーム内だけで行われるが、実際に装着してみた感覚はヒーロー本人でないとわからない。
 ヒーロー着用時でもチマチマとしたテストを繰り返さなくてはならない。
 犯人と格闘になってみたら思いがけない欠点がありました、では済まないのだ。
 一日に数時間、数十項目をテストし、ではまた来週、そのまた来週と繰り返す。
 チーフの女性が言いたかったのは『外行きの口調でいると疲れますよ』という意味だったことがイワンにもすぐにわかった。
 技術者チームも気取りは減っていって、スーツ換装時などに雑談を交わすようになっていった。
「でもホント、折紙さんこれ納得してますよね? スーツの素材を変えるのって」
「え、はい。会社とも相談して」
「うちとしてはすごく有り難いんですけど。でも、ほら前の方が頑丈でしょう。今度のはそりゃ軽いですよ、スカイハイのスーツにも採用されてる素材なくらいだから」
 そうなのだ。それを聞いたときにはイワンは胸が躍った。
 もっと軽く動きやすさ重視のスーツにバージョンアップしないか、という話が来て。
 たかが素材と言われたらそれまでだが、憧れの大先輩と一部だけでも並べるというのは、嬉しい。
「ただ、あっちは空を飛ぶんでね。それに風を操って銃弾なんかも跳ね返せるし。あ、普通の防弾くらいの性能は、これもありますよ、ちゃんと。それに温度変化にも強くてですね」
「ええ。その点も理解した上で、ですから」
「はぁ…じゃあ折紙サイクロン自身が進化したわけですね。だって、防御力よりも機能性を選んでスーツの素材を変えるわけですからね。スピードとかあがったっていうことで」
「いえ、そんな。鋭意努力中です。あの…スポンサーロゴも増えたし、実際はそれを機にというのが大きいんですよ」
「これからの成長株ですよね、ホント。だって折紙さんってまだ二十歳前でしょ」
「あら、クリフ。個人情報を引き出さないのよ」
 ケーブルをまたぎながら歩くチーフがそう言うと、周囲の技術者たちがプッと吹き出した。
「チーフがそれ言いますか! スカイハイさんとはじめて口きいたのがアレでしょうが!」
 思わずイワンはそちらを向いてしまう。
「折紙さん、すいませんもうちょっと我慢してて下さーい」
 肩のパーツをいじっていたツナギの男が声を上げ、イワンは「あ、すいません」と首をすくめた。
「折紙さんもそっちで聞いててくださいよ。うちのチーフ、キング・オブ・ヒーローに向かっていきなり『ところでお宅の冷蔵庫にいま何入ってます?』って尋いたんですよ? ありえないじゃないですか!」
 イワンも思わず吹き出してしまった。
「だってあの時、うちのミスで夜も遅くなっちゃったじゃない。申し訳ありませんばっかり言ってるのも何だなぁと思って、口を開いたらお腹空いてて」
「で。まさかの『ミネラルウォーターとスポーツドリンク、そしてヨーグルト』!」
「チーフもまさかの『あ、うちはスポーツドリンクがワインに変わったら同じです』! 意気投合するなって!」
「さらにキングから『ああ待って、チーズとバターはあったはずだ』とか。真面目に。みんなそこらじゅうでしゃがみこんじゃって、笑って」
「スカイハイさんはみんながツボに入ってるのがわからなくて。『大丈夫かい? 少し休憩したらどうだろう』……で、また笑いのスパイラルが」
 いまだに手を止めて思い出し笑いをする人も数名いるようだ。
 イワンもマスクの下で口元が緩んで仕方がなかった。
「あのあと社内で流行りましたねー、冷蔵庫の中身を挨拶がわりにするの」
「いやぁ、スカイハイさん、気を悪くしないでよかった」
「まぁどこに住んでるんですか、とか愛車の車種を尋いたんじゃないから。罪がなかったんですよ」
「オレはアレですっげー親近感湧きましたよ! 寂しい独身男の冷蔵庫で!」
 握り拳を作って言った青年が「でもなぁ、その後まさかの……」とぼやいた。
 その声にイワンは耳をそばだてようとしたが、耳元で別の声がして遮られてしまう。
「折紙さん、ちょっとこのまま待って下さい! チーフ、あの、ここなんですけど!」
「ああ、こういう場所はこう……あ、いいわ。代わる」
 組み立て済みではないヒーロースーツのパーツごとの換装にはコツがいるらしく、ツナギの男は女性チーフに場所を譲った。
「そうそう。愛犬の分はオヤツも常備してあるのに自分の食べ物はない、って言ってた人が、次のメンテで会ったら、誰かの作ってくれたシチューが冷蔵庫に入ってるって。……なんて言うんでしたっけ、りあちゅう?」
「……リア充、ですか?」
 イワンが助け船を出す。
「そう、それ。ヒーローなんだから元々リアルは充実してるでしょ、と思ったら、恋人ができることを言うのね、あれ。うちのチーム、みんな色めき立ってましたよ」
「色めき立つの当たり前でしょう! こいつなんか恋人がいることぐらいでしか勝ってなかったのに!」
「オレを引き合いに出すな! しかもアレでしょ、スカイハイって俳優みたいな顔してるんでしょ、チーフ?」
 技術者チームでも素顔まで見たことがあるのは、中心メンバーだけらしい。白衣の女性はうなずく。
「ああ、ハンサムよ。でも俳優にするには毒が足りないかもしれない。爽やかで誠実な顔立ちね」
 ガチャガチャと工具の音をたてながら、恋の話をする口の動きも滑らかだ。
「恋人も綺麗な人なんですって。自分なんか足元にも及ばないくらい全部のパーツがキラキラしてる、って」
「え?! え、そ…そうなんですか」
 ひっくり返りそうな声をイワンは発してしまう。
「すごく素敵な人なんだって。特に中世や近世の日本趣味があるんだとかで、それで日系の私に色々話してくたんでしょうね。本当に嬉しそうに話されるの、」
 そこで一度言葉を切って、チーフは声を落とす。
「……『彼』のこと。ああ、やっぱりご存知でしたよね。ここでもあんなにはしゃいで話すんだもの。ヒーローどうしだったらご存知でしょうね。それ以上おっしゃらないほうがいいですよ、って何度かこちらが言うくらい」
「は、はぁ」
「右は終了です。手を動かしてもらえます?」
 大型モニタの前に立つ白衣姿が手で大きく丸印を作る。
「あれも面白かったですねぇ。チーフ、キング・オブ・ヒーローから『恋人が和食を振舞ってくれると言うんだ。チョップスティックス…箸、の扱い方を監修してもらえないだろうか』とか頼まれて」
「すごい絵柄だったなぁ。手首から先だけスーツ外して、あの細ーいチョップスティックスをちょこちょこ動かすスカイハイさん……」
「そ、れで――」
 イワンは口を挟んでしまい、慌てて閉じる。
「あ、ヒーローたちにも披露したんですかぁ。まぁすごく器用で、すぐ上達してたからなぁ」
「パーツの換装とかご自分でやってみません? と言いたくなるくらい器用だったものね」
 ふう、とチーフはひとつ息をついた。
「……あんなに手放しで自分の恋人を褒める人ってはじめて見たわ。容姿端麗、性格も大人しくて控えめなところが可愛らしくて申し分ないし、って」
「へ…ぇ……」としかイワンは言いようがない。そこに横槍が入る。
「またぁ! チーフだけはそれ言っちゃダメでしょ! この人、スーパーモデルとつきあってるんですよ! 一昨年のミス・シュテルンビルトですよ! スペック高すぎでしょ!」
 えっ、という形にイワンは口を開けた。この可憐な白衣のチーフもあのCMに出ている美女も、女性だ。偏見は持っていないつもりだが、衝撃的すぎて声が出なかった。
「恋人の美醜を競ってるんじゃないでしょ。真正面から手放しで褒めるかどうか。あのねぇ、モデルなんて一年の三分の一は海外に行っちゃうの。やれファッション・ウィークだ、やれ来年のコレクションのイメージショットの撮影だ、って」
「……それで冷蔵庫…あ、すみません」
 またもやイワンはモゴモゴと口を閉ざした。
「そう。恋人が地球の反対側にいるんじゃ、ガランとした部屋に帰って眠るだけだし。私なんて、美人の恋人がいても愚痴を言ってばっかりで。あ、折紙さん、左手も動かしてみて下さい」
 言われたとおりにイワンは左手を握ったり開いたり、肘を曲げ伸ばしする。
「って、私が言ったらね。『でも、その人が恋しいんだと気がついた瞬間があるだろう?』って。『この人がそうだ、って。雷に打たれたみたいに、花が開くみたいに、全部理解できた瞬間の感覚を思い出したら、不安や不満なんて消えてしまうだろう?』なんて、真顔で言われたんですよ」
「そう…言うんですか……」
 腕を振ってみる。スーツ的には問題がなさそうだったが、イワンには感覚がよくわからなくなってきた。いま、マスクを被っているのが非常にありがたかった。
「すごいでしょう? 『絶対にこの人がそうだ、と気づいたらどんなことがあっても自分ならその手を離さない』なんて。ものすごく真剣に。……両手を同時に動かして下さい」
 チーフがモニタ係とやりとりをしている。くるりとイワンを振り向いた。
「折紙さん」
「は、はい。あの左側も問題ないようで」
「……顔、にやけてますよ」
「……え?!」
 思わず両手で顔を覆ってしまう。チーフの唇がほころぶ。
「はい。瞬発性にも問題なし、と」
「え?! ええ?!」
「私たちでもさすがにマスクの上から表情はわからないですよ」
 声を落として言われた台詞にイワンはしゃがみこみそうになる。
「あ、っ……うわわわわわ」
「前髪が長めのプラチナブロンド。珍しいアメジストみたいな色の瞳。背はこれくらいだとか肩はこれくらい細いとか……あの話を聞いて、スーツを着ていないあなたを見たことがあればすぐわかります。……マスクの集音機能もよさそうですね」
 恨みますよキースさん、とイワンは胸の内でつぶやいた。 
「ああ、あと……連れ立って帰るとバレるかもと思ってたのかもしれないけど、片方が出てからきっかり5分経って出てくるのって、逆にものすごくおかしいと思いますよ。常識的に」
「はい!? な、なぜそれを!!」
「ジャスティス・タワーに行く用事があって、私は道の向かいのカフェにいたんだけど。スカイハイさん、普段でも、それに遠目からでも目立つから。しかも正面入り口でソワソワ待ってるのなんて、人目を引くし。折紙さんだって、自覚はないみたいだけど本当にキラキラした容姿よ。そんな人が嬉しそうに走り寄ってきて二人で見詰め合って帰って行くの……道行く人も驚いてましたからね」
 二人して職場恋愛スキルが低すぎるらしい。イワンは肩を落とした。
「はい、気を取り直して」
 非情な科学者はパン、と手を打って言った。
「じゃあテストを始めましょう」


≪ E N D ≫
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Posted on 2011/12/09 Fri. 00:48 [edit]

category: SS(空折)

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