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空/折 「Private Eyes」 

夏なので露出度高く…いや、この際徹頭徹尾全裸だ! という思いつきから生まれたSSです(笑)。
でも思いつきの割に甘いちゃ風味かもしれません。



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Private Eyes


 ぎゅっ、ときつく閉じられていたイワンの瞼が緩やかに開くところを見るのが好きだ。
 暗がりでもほのかに光を乗せているような、薄い色の睫毛が震えながら持ち上がって。
 その下に隠されていた瞳が、ほんの少し、またもう少し、その揺らぎを覗かせていくのを見守る。
 ひどく贅沢な眺めだ、とキースは思う。
 瞼が持ち上がっても、その奥の潤んだ瞳はすぐには焦点を結ばないらしかった。
 いつもは、何かの拍子に視線が合うと、ちょっとたじろいでしまうくらい澄んだ色に見えるはずの、紫の瞳。
 それがこの短い時間にだけは、直前までの感覚やら感情やらが溶けたかのように、しばらく揺らいでいる。
 二人がいるのが明かりを絞った部屋だから、という理由だけではないだろう。色味が、深い。
 不思議な色合いをしばらく眺めていると、ふっと見つめ返される。
 その途端に、イワンの表情が変わる。
 大人に悪戯を見つかった子どもみたいにバツが悪そうな顔だったり、忘れていた重要なことを思い出した人のように眉が持ち上がったり、とてつもなく改まった場所にいるのに思い出し笑いを堪えられないみたいな表情になったりする。
 そんな瞬間に出会うと、キースは奇跡にでもぶつかったような気分になる。
 大袈裟だろうか。それとも自分はズレているのか。
 二人はベッドの上にいる。ついさっき、鋭い声をあげてぎゅっと目をつぶったあとに体を弛緩させた恋人の、呼吸が落ち着くのをこちらも荒い息をつきながら待っているだけだ。
 体を繋げたあとの、短い時間。
 身支度をして眠りにつこうとするでもなく、もう一度じゃれあうでもなく、幸せを感じて抱きしめあうでもなく。そのどれにもまだ移行しない、ほんの一時。
 最初のときの、我に返ったイワンの狼狽ぶりは、それはもう見事なほどだった。
 なんでそんなにガン見してるんですか、とわななきながら問われ、『ガン見』の意味がわからなかったキースが言葉を返せないでいるうちに、イワンの体が青白い輝きを放とうとしていた。
 そのときは、NEXT能力を駆使しようとするイワンを力加減も何もなく抱き留めて、きみといたいんだ他の誰かとか何かじゃ嫌だお願いだからそのままの姿で隣にいてほしい、というような趣旨のことをキースは慌てて訴えた。説得に応じてだったのか息が詰まったのか、イワンが腕の中で脱力してくれたのは幸いだった。
 あとから聞き出したところによると、そんなにまじまじと見られているだなんて、自分の態度がとてつもなくおかしかったのだろう、とイワンは軽く絶望して消えたくなってしまったらしい。
 そんなバカな、と笑ってやり過ごせないのがイワンのイワンたる所以で――
 幾度か瞬きをしたあとで、イワンの瞳が焦点を結ぶ。
 眉根が寄って八の字になる眉。小鼻がひくひくと動いて、唇が噛み締められて。この表情は何だろう。キースは記憶を辿る。
 さっき思い出していたあの日見せた絶望の表情よりは軽そうで、悲しいというよりは困っているのに近く、何かを思い出そうとして努力しているみたいでもあって。
「キース、さん…あの」
 イワンはそんな複雑な表情のまま声を出した。
「ごめんなさい……」
 ごめんなさい? キースは耳を疑う。自分のほうはこんなにも幸せな気分を満喫していたというのに、なぜ謝られてしまうのだろう。
「やっぱり、僕は…ええと」
 ああ、そうだ。ふいに閃く。イワンのこの表情、これは――後悔、だ。
「ま! 待って、待ってほしい!」
 何に関しての後悔かと考えるに、体を離してすぐにこんな表情をするだなんて、さっきまでしていた行為へのそれだとしか思えない。
 ごめんなさい、やっぱり僕は……そのあとに続く言葉を聞きたくなくて、キースは慌てて口を開く。
「至らないところがあるのは承知しているよ。きみは今まで不満らしい言葉のひとつも言わないでいてくれて。でも、だからってもう会いたくないだとか、それは唐突すぎないだろうか。私も善処するから、どうか考え直して。このとおりだ!」
 イワンは顔をあげるとキースを見つめ返した。一拍おいて驚いた顔になる。
「……えっ?」
「いやだから、私も努力をすると誓――」
「すいません、僕もしかして話の途中で寝ちゃったとか? これ、何の話ですか?」
 イワンは不安げな表情を滲ませた。
「つまり、その……きみが急に『ごめんなさい、やっぱり』なんて言うものだから、もうこれっきりにしたいだとか、そういう類いの話なのかと……」
「な!? なんでそういう理解になっちゃうんですか?! ありえないですよ、逆ならともかく……僕の後ろ向きなのが感染しちゃってるんですか?」
「感染するのかはわからないけれど……だったら何を言いかけたんだい?」
 どうやらキースもイワンも恋人の心情を推理することは苦手らしい。
 まだ口の中でモゴモゴと言いかけているのを遮って尋ねると、イワンはさっきと同じ、キースが<後悔>だと感じた表情を浮かべた。
「あの…僕はその……全然、恋人っぽいこと、できてないなぁって」
「え?」
「だから……いまさっきだって……」
「い、いま?!」
 キースは声を裏返らせる。あんなに贅沢だとか奇跡みたいだとこちらは思っていたのに。どこでそんな齟齬が生じるのだろう。
 イワンは続きを口の中だけでむにゃむにゃと転がす。キースが耳を寄せると、か細い声がようやっと聞き取れた。
「……駄目とか嫌だとか、そんなことばっかり言ってるし……つい、さっきも」
「それは、その――」
 確かに。いまだに彼は慣れきることができないらしくて、触れかたによっては竦みあがるし、顔をそむけたがるし、体のほうは素直に反応を返してくれる頃になっても、まるで自分自身に裏切られているかのように切なくなるような声で否定の言葉を繰り返す。
「でも、本当に嫌なわけじゃ、ないわけだから」
 イワンはうっ、と言葉に詰まる。
 考えてみれば本気で抵抗されたらどうこうできるはずがない。接近戦を得意とするイワンに、ヒーロースーツもNEXT能力もない状況のキースがしかも至近距離で抑え込むなんて不可能だ。
 はじめの頃は本当に逃げ回られて、一度などはベッドからずり落ちかけたイワンに、危ないと声をあげてしまったくらいだ。
 最近はそれとは違って、つい今し方だって、力なく首を左右に振りながら「やだ…っ」なんて上擦った声で訴えてきたり、寄せられた眉の下で潤んだ瞳をさかんに瞬かせて「それ、駄目…です、って」だとか掠れた声をあげたりして。
 思い返すだけで口元が緩みそうになるのを隠せているのかどうか、キースは自信がなかった。
「でも……僕なら、嫌な顔されたら、もう金輪際近づかないでおこうって思っちゃいそうだし」
「え? 私が、きみに?!」
 こくん、とイワンは顎を沈める。
「た、たとえば…キス、しようとしたら、顔が曇ってたら、もう無理っていうか」
「そんなこと、今までにあった?」
 返事を待たずに、かすめるだけのキスを贈る。顔を離すとイワンの目元が赤らんでいるのがわかる。
「ないですけど。だから」
 だから僕は本当にどうしようもないなって気がついちゃったんです、とイワンは肩を落とす。
 恋人らしいことが出来てない、と反省しているなんて、それを教えてくれるだけでもひどく幸せな気分にさせてくれるというのに。
「……そうだ。じゃあ、こうしようか」
 キースは眉をあげて微笑んだ。
「駄目って言いそうになったら、二回に一回はかわりに名前を呼んでくれるっていうのは?」
 へ、とイワンは力の抜けた声をこぼす。
 ああいう、半分裏返ったような甘く掠れた声で名前を呼ばれたら、どんなにか幸せな気分になるだろう。想像しただけでも、少しばかり体に悪いような気分になる。
「そんなんで…いいんなら……努力します」
 イワンは神妙に宣言してくれる。
 ふふふ、とキースは笑う。人の悪そうな笑みになっていないといいけれど、と思う。
 今からその約束を確かめてみようか。そう提案したらどんな顔をするかな。
 ようやく息をついて、枕に頬を載せたイワンを間近に見つめながらキースはそんな想像を巡らせた。


■ E N D ■

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Posted on 2012/08/19 Sun. 23:18 [edit]

category: SS(空折)

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