空/折…龍/月? 「管理官さん、落し物です。」
はぁい!
ちっちゃい女の子と偏屈なおじさんの組み合わせは最強だと思っているほう、OKOです。
パオリンはそんなにちっちゃくないけど…ユーリさんも偏屈というか、うーん…まぁいいや。
これを空/折SSに入れていいのかちょっと不安ですが。…ギャグです。
とくにハイさんがおかしいです。
パオリンとユーリさんはヘアピン仲間だと気づいた記念です。
ちっちゃい女の子と偏屈なおじさんの組み合わせは最強だと思っているほう、OKOです。
パオリンはそんなにちっちゃくないけど…ユーリさんも偏屈というか、うーん…まぁいいや。
これを空/折SSに入れていいのかちょっと不安ですが。…ギャグです。
とくにハイさんがおかしいです。
パオリンとユーリさんはヘアピン仲間だと気づいた記念です。
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管理官さん、落し物です。
「管理官さん」
愛らしい声に呼び止められ、ユーリ・ペトロフは廊下でその足を止める。
ここはヒーローたちのトレーニングジムのあるフロアだ。面倒ごとでないといいが、と振り向けば黄色いトラックスーツ姿の少女が近づいてきて微笑んだ。
「はい、これ」
小さな、けれど案外ゴツゴツとした手のひらが差し出される。
「……これ、とは?」
「ん? おとしもの」
でしょ、と付け加えて微笑むのはロゥティーンの少女だった。
しかし、このあどけない笑みに気を許してはいけない。
彼女は強大なNEXT能力を持つヒーロー、しかもその能力は電撃という破壊力の高いものだ。
「失礼ですが、ドラゴンキッド」
ユーリは目の前に立つヒーローの名を呼んだ。
「落し物を発見して下さったのでしたら、お帰りの際に受付ブースにいる案内係にお渡しいただけないでしょうか」
小学校の先生ではないのだ。そんな些事に関わってはいられない、と言外に匂わせて言ったつもりだが、ドラゴンキッドことホァン・パオリンは首を横に振った。
「えっ、よく見て。管理官さんのでしょ、これ」
「……これが、ですか?」
ユーリの眉が寄る。
パオリンの手に載っているのは、全体がピンク色の、しかもご丁寧に端にハートの飾りまでついたヘアピンだ。
「だって、ここに出入りする人の中で髪の毛にピンをつけてるの、ボクと管理官さんだけだもん」
確かに自分は髪を伸ばしてはいますし、ヘアピンもつけてはいますがね、とユーリは心の中でひとりごちる。
三十代になった地方公務員が、ダークスーツにピンクでハートのヘアピンはさすがにつけられないだろう。そうはお思いになりませんかね、お嬢さん。
「ブルーローズの持ち物ではないのですか」
ヒーローに女性は二人。ドラゴンキッドでないなら、もう一人の女子高生に決まっている。
「カリーナは、こういうピン使わないの。髪に跡が残るって。メイクのときもヘアバンドだし。もし使っても、こういう…怪獣の口みたいなやつ。挟むの」
そう言いながら両手の指を組み合わせるポーズをとっている。意味はわかった。ブルーローズはU字のピンは持っていない、ということだ。
「ご存じないようですが、このフロアも夜間には清掃スタッフが仕事をしてくれています。その中の誰かが落としたのかもしれませんね」
「えー、管理官さんのじゃないんだぁ」
面倒だが、自分が受付に持って下りるしかないだろう。「ではお預かりしましょう」と手を差し出そうとすると、公共の場にふさわしいとは言えないバカでかい…失礼、マナーをわきまえない声がした。
「お! 折紙くん!!」
危険を感じてユーリは手を引っ込めた。思わず一歩下がる。
「あ、スカイハ……わぁ!」
先輩に挨拶をしようとした少女の手の上から件のヘアピンが風にすっ飛ばされた。廊下でやたらとNEXTを発現させるな、とユーリは喉まで出掛かった。
「折紙くん! どこに行ってしまっていたんだい?! 心配したよ!」
自分の手のひらの上にふんわりと着地させたヘアピンに向かって、ヒーロー歴も長ければ市民からの人気も高いはずのスカイハイが切々と訴えかけている。何なんだ、これは。
無意識に、自分より低い位置にある少女と目を合わせると、彼女は小首を傾げた。
「あれはスカイハイさんのピンで、『折紙くん』って名前をつけてるのかな」
確かにそれは選択肢その1だ。
「どうして元の姿を見せてくれないんだい?! 謝るよ、この通りだ!」
この男はどうして声のボリュームも落とさなければ、顔見知りの自分たちに挨拶も寄越さないのだろうか。
「あれっ、折紙さんがピンに擬態してるの?」
パオリンはスカイハイの一人芝居を聞いていて、その可能性に気づいたらしい。
「でも、なんで?」
確かに疑問は残るが、ユーリには他にも予定が詰まっている。受付に立ち寄る手間が省けた、と思いながら踵を返した。
「では失礼します」
パオリンにだけ挨拶をして廊下を去ろうとすると、再び大きな声が廊下に響いた。
「待ってほしい! そして手を貸してください、ペトロフ管理官!」
それにしてもこの声の大きさは何とかならないか。この男はヒーローになる前、駅員をしていたという噂は本当なのだろうか。だからこんなに声が通るのか。発車オーライ、だ。
「スカイハイ、どうしたの?」
「ああキッドくん! 大変なんだ。折紙くんの擬態が元に戻らなくなったのかもしれない」
「ええ? そのピン、折紙さんなの?」
「そうなんだ! 実はさっき、これとそっくりのヘアピンで前髪を上げている折紙くんにばったり遭ってね。洗顔のときに髪を上げたのかな、そのあとで喉が渇いたんだろうね、トレーニングウェアのまま自動販売機に向かって歩いていたところでね」
「へぇー、かわいいー」
「その通りだよ! 実に可愛らしかった!! 挨拶を交わして、彼も機嫌がよさそうで、一言二言話をしてね。どうやら折紙くんはピンで前髪を止めたままなのに気がついていないようなんだ! そのうちに私はどうしても口がムズムズしてきて、それを指摘してしまったんだよ!」
「折紙さん、恥ずかしがったんじゃない?」
「キッドくんは冴えているね。そうなんだよ。飛び上がらんばかりに驚いて、それから真っ赤になってごめんなさい、なんて言うんだ。なぜ謝るのかと聞けば、見苦しいものをお見せしてしまったからだという! ブルーローズくんがいらないからと言って置いて帰ったピンのようだね。似合わない物なんてつけて不気味な姿を目に入れてしまって、なんて謝ろうとするんだ! そんなことないよ、と言っても慌てて顔を隠す。ダメだよ、可愛い姿をもっと見せてほしいと訴えて、私は彼の両手を取ると顔を覗きこんでしまった」
「うーん。それ、泣いちゃわなかった?」
「な! 泣いてはいなかったよ! ……でも、目を潤ませて、ごめんなさいとか本当にもう許してくださいとか顔近いですからとか何これ夢かもとか裏返った声で色々言っていたよ。それを見ていると何だかとても胸が締め付けられるようで」
「ハラスメントじゃないんですか」
ユーリがポツリと言った。
「ペトロフ管理官?! なぜ、そこに!」
お前らが廊下で立ち話をしているから退路が塞がれていたんだと言うわけにもいかず、ユーリはげんなりした顔で立っていた。大体、手を貸してくれと言ったくせに、なぜそこに、と叫ぶとは恐れ入る。
「後輩の両手を拘束して去ろうとするのを留めるなど、ヘリペリデスから訴状が届いてもおかしくないレベルです」
「ええ?! 嫌がらせのつもりなんてなかったとも、誓って! ただ、いつもと違って額が見えて、あの綺麗な瞳もくっきりと見えたものだから、それで!」
「ボク習ったよ。セクハラってねぇ、したほうじゃなくて、されたほうの捉え方で決まるんだって」
ユーリもうなずいた。ドラゴンキッドはさすが情報産業の大企業の所属なだけはある。立派な社員教育だ。
「ととととにかく! 可愛いなぁ可愛いなぁと眺めているうちに、急に折紙くんの体が青白く光って、彼はこうしてヘアピンそのものに姿を変えてしまったんだよ!」
「……それで?」
「私も突然のことに驚いてしまったんだ! 思わず彼から手を離してしまうと、折紙くん…が姿を変えたピンは、すーっと自動販売機の下に!」
「……それで?」
「出ておいで! と呼びかけたさ! ……薄暗い機械の下、きっと埃がたまっていたりもして不快な場所に違いない。けれど、彼は姿を現さない。そんなに機嫌を損ねてしまったのかと私は何度も何度も謝った」
「……それを、誰かに見られたりしませんでしたか?」
「バーナビーくんが通りがかったようだったよ。『ようだった』というのは、私は屈んでいたからね、彼のブーツらしきものが見えたんだけれど、ものすごい勢いで取って返したみたいだったよ。急用でも思い出したのかもしれないね」
「あー」とパオリンが残念そうな声を出す。
「そのあとで、ロックバイソンくんが通りがかってね。なんだか懇々と説かれていたなぁ。何だっけ、金というのは天下の回りものだとか、大事にしてたって呼んで出てくるものでもないとか……しまいには、何か長細いものを持ってきてやる、と言ってどこかへ」
「……それで?」
「私もようやくそこで、折紙くんは擬態が解けなくなってしまったのかもしれないと思い至ってね。ロックくんは工具を持ってきて自動販売機をどかしてくれたんだ。埃まみれのお金が何百ドルも出てきたりしたけれど、ついに折紙くんは姿を消していた。私の心配の意味がわかってもらえただろうか……」
ユーリとパオリンは顔を見合わせる。
「折紙さんさぁ…二人がバタバタやってるうちに逃げたんじゃないのかな?」
「私も、そう思います」
二人は小声で言い交わした。
「ペトロフ管理官、どうかNEXTの専門医を紹介してほしい! 私が何としてでも彼を…!」
握り拳を作って涙目で訴えているスカイハイの背後を、見覚えのある紫色のスカジャンが小走りに通り過ぎていった。
「あ、折紙さん」
パオリンがぽつりとこぼした言葉に反応して、スカイハイはもの凄い勢いで振り向いた。
「なんだって?!」
たぶん今、彼はNEXT能力は使っていなかったはずだ、とユーリは思う。しかし、何やらゴウッと風が襲ってきた。
折紙サイクロンは廊下の端にあるエレベーターに飛び込んだようだ。がちゃがちゃがちゃがちゃと連打の音がする。きっと怯えた形相で『閉』ボタンを連打しているのだろう。
「お、折紙くん! これ! 忘れ物だよ!」
「わぁあああああ」
スカイハイが飛び込むのと同時にエレベーターのドアは閉まった。叫び声が遠ざかってゆく。
「あ、ピンは持ち主に戻ったね」
パオリンがポン、と手を打ち合わせる。
「……そうとも言えますね」
自分こそが、あの下りのエレベーターに乗るはずだったのに、とユーリは眉間に皺を作った。
■ E N D ■
管理官さん、落し物です。
「管理官さん」
愛らしい声に呼び止められ、ユーリ・ペトロフは廊下でその足を止める。
ここはヒーローたちのトレーニングジムのあるフロアだ。面倒ごとでないといいが、と振り向けば黄色いトラックスーツ姿の少女が近づいてきて微笑んだ。
「はい、これ」
小さな、けれど案外ゴツゴツとした手のひらが差し出される。
「……これ、とは?」
「ん? おとしもの」
でしょ、と付け加えて微笑むのはロゥティーンの少女だった。
しかし、このあどけない笑みに気を許してはいけない。
彼女は強大なNEXT能力を持つヒーロー、しかもその能力は電撃という破壊力の高いものだ。
「失礼ですが、ドラゴンキッド」
ユーリは目の前に立つヒーローの名を呼んだ。
「落し物を発見して下さったのでしたら、お帰りの際に受付ブースにいる案内係にお渡しいただけないでしょうか」
小学校の先生ではないのだ。そんな些事に関わってはいられない、と言外に匂わせて言ったつもりだが、ドラゴンキッドことホァン・パオリンは首を横に振った。
「えっ、よく見て。管理官さんのでしょ、これ」
「……これが、ですか?」
ユーリの眉が寄る。
パオリンの手に載っているのは、全体がピンク色の、しかもご丁寧に端にハートの飾りまでついたヘアピンだ。
「だって、ここに出入りする人の中で髪の毛にピンをつけてるの、ボクと管理官さんだけだもん」
確かに自分は髪を伸ばしてはいますし、ヘアピンもつけてはいますがね、とユーリは心の中でひとりごちる。
三十代になった地方公務員が、ダークスーツにピンクでハートのヘアピンはさすがにつけられないだろう。そうはお思いになりませんかね、お嬢さん。
「ブルーローズの持ち物ではないのですか」
ヒーローに女性は二人。ドラゴンキッドでないなら、もう一人の女子高生に決まっている。
「カリーナは、こういうピン使わないの。髪に跡が残るって。メイクのときもヘアバンドだし。もし使っても、こういう…怪獣の口みたいなやつ。挟むの」
そう言いながら両手の指を組み合わせるポーズをとっている。意味はわかった。ブルーローズはU字のピンは持っていない、ということだ。
「ご存じないようですが、このフロアも夜間には清掃スタッフが仕事をしてくれています。その中の誰かが落としたのかもしれませんね」
「えー、管理官さんのじゃないんだぁ」
面倒だが、自分が受付に持って下りるしかないだろう。「ではお預かりしましょう」と手を差し出そうとすると、公共の場にふさわしいとは言えないバカでかい…失礼、マナーをわきまえない声がした。
「お! 折紙くん!!」
危険を感じてユーリは手を引っ込めた。思わず一歩下がる。
「あ、スカイハ……わぁ!」
先輩に挨拶をしようとした少女の手の上から件のヘアピンが風にすっ飛ばされた。廊下でやたらとNEXTを発現させるな、とユーリは喉まで出掛かった。
「折紙くん! どこに行ってしまっていたんだい?! 心配したよ!」
自分の手のひらの上にふんわりと着地させたヘアピンに向かって、ヒーロー歴も長ければ市民からの人気も高いはずのスカイハイが切々と訴えかけている。何なんだ、これは。
無意識に、自分より低い位置にある少女と目を合わせると、彼女は小首を傾げた。
「あれはスカイハイさんのピンで、『折紙くん』って名前をつけてるのかな」
確かにそれは選択肢その1だ。
「どうして元の姿を見せてくれないんだい?! 謝るよ、この通りだ!」
この男はどうして声のボリュームも落とさなければ、顔見知りの自分たちに挨拶も寄越さないのだろうか。
「あれっ、折紙さんがピンに擬態してるの?」
パオリンはスカイハイの一人芝居を聞いていて、その可能性に気づいたらしい。
「でも、なんで?」
確かに疑問は残るが、ユーリには他にも予定が詰まっている。受付に立ち寄る手間が省けた、と思いながら踵を返した。
「では失礼します」
パオリンにだけ挨拶をして廊下を去ろうとすると、再び大きな声が廊下に響いた。
「待ってほしい! そして手を貸してください、ペトロフ管理官!」
それにしてもこの声の大きさは何とかならないか。この男はヒーローになる前、駅員をしていたという噂は本当なのだろうか。だからこんなに声が通るのか。発車オーライ、だ。
「スカイハイ、どうしたの?」
「ああキッドくん! 大変なんだ。折紙くんの擬態が元に戻らなくなったのかもしれない」
「ええ? そのピン、折紙さんなの?」
「そうなんだ! 実はさっき、これとそっくりのヘアピンで前髪を上げている折紙くんにばったり遭ってね。洗顔のときに髪を上げたのかな、そのあとで喉が渇いたんだろうね、トレーニングウェアのまま自動販売機に向かって歩いていたところでね」
「へぇー、かわいいー」
「その通りだよ! 実に可愛らしかった!! 挨拶を交わして、彼も機嫌がよさそうで、一言二言話をしてね。どうやら折紙くんはピンで前髪を止めたままなのに気がついていないようなんだ! そのうちに私はどうしても口がムズムズしてきて、それを指摘してしまったんだよ!」
「折紙さん、恥ずかしがったんじゃない?」
「キッドくんは冴えているね。そうなんだよ。飛び上がらんばかりに驚いて、それから真っ赤になってごめんなさい、なんて言うんだ。なぜ謝るのかと聞けば、見苦しいものをお見せしてしまったからだという! ブルーローズくんがいらないからと言って置いて帰ったピンのようだね。似合わない物なんてつけて不気味な姿を目に入れてしまって、なんて謝ろうとするんだ! そんなことないよ、と言っても慌てて顔を隠す。ダメだよ、可愛い姿をもっと見せてほしいと訴えて、私は彼の両手を取ると顔を覗きこんでしまった」
「うーん。それ、泣いちゃわなかった?」
「な! 泣いてはいなかったよ! ……でも、目を潤ませて、ごめんなさいとか本当にもう許してくださいとか顔近いですからとか何これ夢かもとか裏返った声で色々言っていたよ。それを見ていると何だかとても胸が締め付けられるようで」
「ハラスメントじゃないんですか」
ユーリがポツリと言った。
「ペトロフ管理官?! なぜ、そこに!」
お前らが廊下で立ち話をしているから退路が塞がれていたんだと言うわけにもいかず、ユーリはげんなりした顔で立っていた。大体、手を貸してくれと言ったくせに、なぜそこに、と叫ぶとは恐れ入る。
「後輩の両手を拘束して去ろうとするのを留めるなど、ヘリペリデスから訴状が届いてもおかしくないレベルです」
「ええ?! 嫌がらせのつもりなんてなかったとも、誓って! ただ、いつもと違って額が見えて、あの綺麗な瞳もくっきりと見えたものだから、それで!」
「ボク習ったよ。セクハラってねぇ、したほうじゃなくて、されたほうの捉え方で決まるんだって」
ユーリもうなずいた。ドラゴンキッドはさすが情報産業の大企業の所属なだけはある。立派な社員教育だ。
「ととととにかく! 可愛いなぁ可愛いなぁと眺めているうちに、急に折紙くんの体が青白く光って、彼はこうしてヘアピンそのものに姿を変えてしまったんだよ!」
「……それで?」
「私も突然のことに驚いてしまったんだ! 思わず彼から手を離してしまうと、折紙くん…が姿を変えたピンは、すーっと自動販売機の下に!」
「……それで?」
「出ておいで! と呼びかけたさ! ……薄暗い機械の下、きっと埃がたまっていたりもして不快な場所に違いない。けれど、彼は姿を現さない。そんなに機嫌を損ねてしまったのかと私は何度も何度も謝った」
「……それを、誰かに見られたりしませんでしたか?」
「バーナビーくんが通りがかったようだったよ。『ようだった』というのは、私は屈んでいたからね、彼のブーツらしきものが見えたんだけれど、ものすごい勢いで取って返したみたいだったよ。急用でも思い出したのかもしれないね」
「あー」とパオリンが残念そうな声を出す。
「そのあとで、ロックバイソンくんが通りがかってね。なんだか懇々と説かれていたなぁ。何だっけ、金というのは天下の回りものだとか、大事にしてたって呼んで出てくるものでもないとか……しまいには、何か長細いものを持ってきてやる、と言ってどこかへ」
「……それで?」
「私もようやくそこで、折紙くんは擬態が解けなくなってしまったのかもしれないと思い至ってね。ロックくんは工具を持ってきて自動販売機をどかしてくれたんだ。埃まみれのお金が何百ドルも出てきたりしたけれど、ついに折紙くんは姿を消していた。私の心配の意味がわかってもらえただろうか……」
ユーリとパオリンは顔を見合わせる。
「折紙さんさぁ…二人がバタバタやってるうちに逃げたんじゃないのかな?」
「私も、そう思います」
二人は小声で言い交わした。
「ペトロフ管理官、どうかNEXTの専門医を紹介してほしい! 私が何としてでも彼を…!」
握り拳を作って涙目で訴えているスカイハイの背後を、見覚えのある紫色のスカジャンが小走りに通り過ぎていった。
「あ、折紙さん」
パオリンがぽつりとこぼした言葉に反応して、スカイハイはもの凄い勢いで振り向いた。
「なんだって?!」
たぶん今、彼はNEXT能力は使っていなかったはずだ、とユーリは思う。しかし、何やらゴウッと風が襲ってきた。
折紙サイクロンは廊下の端にあるエレベーターに飛び込んだようだ。がちゃがちゃがちゃがちゃと連打の音がする。きっと怯えた形相で『閉』ボタンを連打しているのだろう。
「お、折紙くん! これ! 忘れ物だよ!」
「わぁあああああ」
スカイハイが飛び込むのと同時にエレベーターのドアは閉まった。叫び声が遠ざかってゆく。
「あ、ピンは持ち主に戻ったね」
パオリンがポン、と手を打ち合わせる。
「……そうとも言えますね」
自分こそが、あの下りのエレベーターに乗るはずだったのに、とユーリは眉間に皺を作った。
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Posted on 2012/08/14 Tue. 15:56 [edit]
category: SS(空折)
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