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空/折 「 Grenade Body 」  

もしもイワンにタトゥがあったらなぁ、というお話。

刺青! 痛そう! という、お嫌いな方はご遠慮下さいませ。

先月はEURO2012見て、今月は五輪見てましたらキャラクターに合った面白いタトゥをしている選手たちが沢山いらしたので。
でも、刺青しててもどこか垢抜けないイワンくんだし、内容的にはいつもながらの甘ったるー…です。

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Grenade Body



 最初に触れたのは、手でもなければ髪でもない。
 それは、ゆるく弧を描いたセイフティ・レバーだった。
 本物と寸分違わぬサイズの、けれど濃い藍色だけで描かれたハンド・グレネード。
 彼の肌に刻まれたその武器のレバーを指先でなぞっていた。
「これは何?」と尋きながら。
 ふいに皮膚を指の腹で辿られ、くすぐったさに彼は身をよじる。その肌の上でセイフティ・レバーも形を変えた。
―― かちっ。
 どこか遠くで、そんな不穏な音が響いたような気が、した。


「やあ!」
 トレーニングセンターのロッカールーム。その奥からキースはシャワーを浴びて戻ったところだった。
「……あ、お疲れ様、です」
 イワンがロッカーの扉を引いたところで、ぺこりと頭を下げて寄越す。
 上目遣いにこちらを伺い、聞こえづらい声でモソモソと挨拶する様子に、嫌われているのだろうか、何が気に入らないのだろうかと悲しく思ったのは、もう以前のことだ。
 ヒーローとして活動するときはハイテンションなキャラクターを演じているが、普段は物静かな…と言うのは贔屓目に見た評価かもしれない、彼はスーツを脱ぐと人と接するのが苦手な部類で極度のあがり症でもあった。
 そんなイワンが、キースのような常に明るく、時々はもう少し声を抑えてくれと周囲から言われるような先輩相手におどおどしていたのは当たり前のことだった、と今になれば思う。
「これからトレーニングかい」
「はい。あの、キースさんは、これから会社ですか」
「ああ、冬に出るコラボレーション・グッズとやらの会議でね」
「こっ、コラボグッズ、ですかっ」
 ぴょこん、と飛び上がりそうになるイワンに思わず吹き出しそうになる。
「詳しく決まったら知らせるよ」
「う……す、すいません」
 どうやらイワンは子供の頃から《スカイハイ》のファンだったらしい。キースには尊敬する先輩という態度で接してくれているが、内心は複雑な気分かもしれない。TVの向こう側にいたと思っていた相手と背中合わせに着替えて、世間話をしたりするのだ。
 あんまり幻滅していないといいけれど、とキースは思う。ファンが同僚になるだなんて、自分も随分長いこと仕事をしているんだな、と年寄じみた感慨も浮かぶ。
 二人は向かい合わせに位置するロッカーを割り当てられている。
 キースが濡れた髪をザッと拭いて、かぶっていたタオルをはずすとその瞬間に、着替え中のイワンの姿が目に入った。
 スカジャンをハンガーにかけてロッカーの中に収め、タンクトップも同じようにして、カーゴパンツに手をかけたところだった。
「……それ、どうしたんだい?」
「えっ」
 ロッカーの扉の内側に取り付けられている鏡ごしに、二人の視線が合う。
 キースは振り返ると、一歩足を踏み出した。
「これは何? こんなところに」
 カーゴパンツのホックは外れていて、白い腹の真ん中に細長い臍がある。問題は、その横だ。
 随分と深い傷だ、と一見して思った。臍の並びに、三日月型の黒い痕が見える。近づくと、何かが汗で貼りついているようにも見えた。
「……っ、ん」
 イワンは身をよじった。腹を急に指先でなぞられたのだ、こそばゆかったのだろう。
 その途端、キースの瞳の中でイワンの肌の上の傷のような何かも形を変える。
 一体、これは何だ。
 イワンは上半身を仰け反らせて大きく一歩下がった。ロッカーに背中の当たるバン、という音が弾けてキースも我に返る。
「す、すみません、あの」
「あ! いや、こちらこそ、その」
 色の白いイワンの頬にカッと血がのぼって、その指がズボンのホックをはめようとしているのを見て、キースは慌てた。自分は随分と不調法なことをしてしまっていたようだ。
「すまない、その、傷かと思って…いや、そうだとしても急にするべきことではなかったね、すまなかった!」
「い…いいんです。あの…僕のほうこそ、びっくりして……」
 イワンは床に向かってつぶやいたあとで、赤らめたままの顔を上げた。
「ほんとに、平気です。見つかっちゃいましたね」
 そう言って、背中をロッカーに寄り掛からせたままキースを見上げてくる。
 そして、キースに見咎められた部分を隠していた手をどけると、カーゴパンツのウエストに手をかけて腰骨のあたりまで下ろした。
 キースは眩暈をおぼえかけた。いや、実際に眩暈に襲われていた。喉が鳴りそうになったのを、どうにか耐える。
 何を考えているんだろう、と薄っすらと思う。後輩に傷があるのかと訊いたら、それを見せようとしているだけだ。
 混乱するキースの目に晒されたそれは、傷ではなかった。
 パイナップルのように中央部が膨らんだボディ、ボディに沿って弧を描くセイフティ・レバー、それを押さえるための丸いセイフティ・ピン。
「手榴弾……」
 それも、針と染料で皮膚に直接描かれた……つまり、刺青だ。
 一度全体像を見せてしまうと気が楽になったのか、イワンは微笑むと手のひらでレバー以外の部分を隠してみせた。自分で上から覗き込んで言う。
「ここだけ見ると、確かに傷みたいですね」
 顔を上げて笑うと、くるりと背を向けて着替えを続ける。
 トレーニング用のTシャツを着てから、カーゴパンツを下ろして足を抜く。いつもこういう手順で着替えていたから、今まで目に入ることはなかったのだろう。
「それは、故郷で入れたの?」
「いえ、こっちに来てからです。学生の時ですね」
 ハーフパンツを穿いて、ウエストの紐をしばる。Tシャツの影になっていたせいか、今度はタトゥは見ることはできなかった。
『見ることはできなかった』。咄嗟にそう考えた自分自身に、キースは驚く。
「何か、意味が?」
「いえ別に。カッコいいかな、って」
 振り向いてイワンは笑うと、「じゃあ行ってきます」とトレーニングシューズに履き替えてロッカールームを出て行った。
「ああ、頑張って」とキースも見送る。
 気がつくと、自分は腰にタオルを巻いたままの恰好だった。ろくに拭いてもいないのに、もう肌は乾いて冷えている。
 けれど、何だかそれも大して気にならなかった。


 その日からだったような気がする。
 キースが、イワンを後輩としてではなく意識するようになったのは。
 いや、無意識に彼の姿を目で追っていたり、彼について思いを巡らせることはそれまでにもあった。
 けれど、一人の人間として、もっと言うと身体を持った、手を伸ばせば触れられる相手だと気づいたのはあの時からだ。
 あれを、もう一度見たいと考えていた。
 薄く割れ目のついた腹筋の下、臍と腰骨の間に位置を占める深い藍色の手榴弾。
 細身とはいえ、それなりに筋肉のついた鍛えられた同性の体を、もう一度見たいと思っていることにキースは驚いていた。驚いたが、不快ではなかった。
 少なくとも、きみを好きだとイワンに告げたのは、あの刺青があったからだ。
 今にして思えば偏見でもあるし狡いことだが、ああいうタトゥを彫っている彼なら、たとえ拒絶してくるにしてもあっさり、すっきりと振ってくれるだろうと考えた。
 もし運良く受け入れてくれるとしたら、それなりにスムースに事が運ぶのだろうと思っていた。
 あのタトゥを見たときから、キースの中でイワンのイメージは更新されていて、彼は人づきあいが『苦手』なのであって、まったく何もかもが未経験だとは思わなかったのだ。
 キースが想いを告げると、イワンは顔を伏せた。
 しばらく待ったが、返答はない。イワンは俯いたままだ。
 キースは半歩、前に踏み出した。距離を詰めても、イワンに逃げる様子はない。手を伸ばし、背に巻きつける。
 抱き締めようとして、キースは気がついた。イワンは硬直して、小さく震えてさえいた。
「……イワン、くん?」
 名前を呼ぶと、イワンは唇を開く。
 けれど、ほんの少し開閉されるだけで何を言っているのか聞き取れない。
 キースは少しばかり唖然としながらも、腕の中にイワンを留めたままで見守るしかなかった。
「あ、の……ごめ…ごめんなさ……」
 イワンがようやく声に乗せたのは、謝罪の言葉だった。
「こ…こういうの……はじめて、で、体が、動かな……」
 自分を覗き込んでくる青い瞳を真っ直ぐに見られないらしい。床の上を視線がさ迷っている。
「それは、その……悪かった、ええと――」
 頭が追いつかないのはキースもだった。とにかく腕の中に閉じ込めておくのはマズイと察して、手を離そうとすると、イワンは俯いたままパッと手を伸ばしてくる。
「ちが、違うんです、あの……」
「えっ、イワンくん?」
「……う、嬉しい、ん…です、けど……」
「本当に?」
 キースが尋くと、イワンはカクカクと首を縦に振る。キースはほっと息をついた。
「それは、よかった。ええと、できたら、手を少し緩めてもらえるかな? その、爪が」
 行かないで、とばかりに手を伸ばしたイワンは当たるを幸いに、キースの腕に爪を立てるくらいに強く掴んでいたのだった。
「……うわぁ! す、すいません!!」
 慌ててバックステップをして、今度はひっくり返りそうになってしまう。キースがその背中を抱き寄せた。
 目を真ん丸くして、イワンは動きを止めた。ああ綺麗な紫色の瞳がよく見えるな、とキースは妙な感心をした。この様子では、さっき口走っていた『こういうのはじめてで』というのは真実らしい。
 背を丸めて、そっと唇を寄せた。
 はじめて触れたイワンの唇は、冷たく乾いていて微かに震えていた。
 唇を離す。小さくて薄くて柔らかくて、どれもが全部心地いい。
 キースは下ろしていた瞼を上げると、そのままぎょっとした顔になった。
 イワンの綺麗な紫の瞳は大きく見開かれ、急速に潤んでくる涙で揺れていたからだ。
「……すい、ま…せ……び、びっくり、して……っ」
 嫌じゃないです、嫌なんかじゃないですから、と訴えてくるイワンにおろおろとしなければならないのは、今度はキースのほうだった。


 それから何か月かが過ぎた。
 二人で過ごす時間を重ねて。
 はじめの頃よりはガードの緩んだ、それでもひどく敏感なままのイワンの肌に触れる。
 臍の斜め下、深い藍色で彩られた…はじめて触れた場所も、あのときと同じように指先でなぞる。
 いまは汗に濡れて、呼吸とともに揺れるセイフティ・レバー。
 刺青を入れたくらいで皮膚の感度が変わるわけではないだろう。きっと、そこに触れるときのキースの態度によるものだろうと思う、イワンはいつもその場所に触れられると身をよじった。
 もうホックを外されてしまったカーゴパンツがだらしなく腰骨に引っかかっている。 
「……はれつ、しそう」
 声というよりほとんど息遣いだけで、そんなことを言う。
「まだ全然、そんなことないみたいだけど」
 声を低めて言い返しながら、カーゴパンツの中心に手を持っていく。触れるか触れないかの微かさでそこを掠めるとキースの手はすぐに引き返したけれど、イワンの背は電流でも流されたみたいに震える。
「そう、いう…意味じゃ……」
 目の縁を赤くして熱い息を押し殺そうとしている様子に、こちらのほうが堪らなくなってしまいそうだ。
 だからキースは、いつもどおりに理性をほんの少し脇に押しやって、衝動に身を任せることにした。


「どうして、こういう絵を入れたんだい?」
 ずっと前から気になっていたことを、キースはようやく口にのぼらせた。
 抱き合ったあとの、少し無防備になってくれる時間帯のイワンにそれを訊けば、答えはあっけないものだった。
「前からちょっと憧れてて。せっかく都会に来たんだし、って」
「それだけ?」
「ショップに行ったら、怖そうな人もいなかったし。別にセールスされるわけじゃなくて。僕を案内してくれたのは三十歳になるかどうかっていうモデルみたいなお姉さんで、作品集を見せてくれて」
 彼女と仲間の職人たちが彫ったという誰かの肌のアップの写真を、イワンは夢中になってめくり続けていたらしい。一時間近く経って、イワンがようやく顔を上げると、美しい彫り師は一枚の図案を持って戻ってきた。
「それが、ハンド・グレネードの絵で」
 鏡の前でTシャツを持ち上げてみて、と言われて恐る恐るそうすると、白い肌の上に本物そっくりの兵器の絵をかざされた。
「『うん、似合うと思う』って。僕もそういう気がして」
 翌日、金を持って同じ店に行き、『やっぱり来たね』と微笑んだ彼女に、その絵柄を彫ってもらったそうだ。
「会社の人は見て、ちょっとびっくりした顔をした人もいましたけど。CEOとか重役とか、知ってるんだろうけど何も言われなかったし」
「痛くなかったの?」
「少し。でも怪我のほうが痛いですよ。痛さの、ジャンルが違う」
 ジャンル、か。面白い言い方にキースは笑った。
「なんですか、唐突に」
 以前から気にされていたとは思わないらしい。
「……キースさんだって、痛いことするくせに」
 うん? とキースが顔を向けると、冗談を言おうとして中途半端に戸惑ったような表情のイワンがいた。
「――…う」
「う?」
「う、嘘です、ごめんなさいっ、今のなしで!」
 ガバッと枕に顔をうずめてしまう。こちらに向けた耳の後ろも、首筋まで赤い。
「痛いこと、してる?」
「あの、だから、嘘ですって」
「……いつも、ちょっと痛い?」
「ちが、ごめんなさい、発言は訂正します取り消しますっ」
「イワンくん」
 枕の縁を両手で引っ張って耳を塞ごうとしている、見ようによっては無邪気にも思える後ろ姿にささやく。
「少し痛くて、気持ちいいこと、もう一回しようか?」
 手榴弾の仕組みについて、他の一般的な武器とともに講義を受けたことがある。
 ピンが抜かれ、レバーが外れてしまうともう爆発は免れない。
 人間が覆いかぶさることで被害を多少抑えることはできても、戦闘用ヘルメットもボディアーマーさえ貫通する。それに立ち向かう人間は命を落とすしかない。
 レバーが外れても爆発までにかかる時間は種類によって異なるそうだ。
 <あの>ハンド・グレネードの、着火時間はどれくらいなのだろう。
 たぶん、そんなに長くはなかったはずだ。
 彼の、白い肌に直接描かれた精緻な武器。
 一度触れてしまうと、もう制止は効かなかった。
「んん……」
 躊躇っているのか、焦らそうとしているのか。判断のつきかねる声が返ってくる。
 背中を向けたままのイワンに覆いかぶさる。
 シーツと肌の間の隙間に、キースはほっそりとしているとは言えない指を捩じ込んだ。
「ねぇ、ダメかな」
 片手は胸元へ、もう片方の手の指は腰骨を越えて、あの兵器の絵の上に。
 抱き締めたまま、命を落とせたらいいのに。そんな不穏な考えさえ浮かぶ。
「……いそう」
「え?」
 しんじゃいそう。イワンが甘く掠れた声でつぶやく。
 まさか、とキースは低く笑った。
 抱き合ったまま、二人して死ねるなんて。
 そんな幸せなことは、もう少し先延ばしにしたい。
「いいよね?」
 うなずくのを待って、イワンの体をあおむけにする。
 濡れて震える紫の色をした瞳。上気した肌。ひくりと震える、濃い藍色のハンド・グレネード。
 たぶんこれは世界で一番、自分にとって脅威的な兵器だ。
 その持ち主の唇に、キースは恭しく口づけた。


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Posted on 2012/08/14 Tue. 00:37 [edit]

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