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空/折 「とりあえずビール、じゃなくて手を」 


無自覚だけど小悪魔なイワンとかどうかなーと。
空→折です。
こういうノリ楽しいかも。でもどうやったらくっつくんだろう、この二人…。




 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


とりあえずビール、じゃなくて手を



 1.気味悪がられる。脱兎のごとく逃げられる。
 2.お気持ちは嬉しいですが、と渋い顔で断られる。
 3.僕には他に好きな人がいるんです、と聞かされる。



 キースが予想していた反応は、その程度だった。
 イワンに対して恋心を告げたときに返ってくるリアクションのことだ。
 ポジティブ思考が服を着ているようなキースにだって、さすがにOKが貰えるとは思えなかった。
 それでも、一度気づいてしまった気持ちを隠し通せそうにないのも、またキースの特性だ。
 イワンから返ってくるのは三通りの反応のうちのどれかだろう、とキースは考えた。
 そのどれでも、きっと目の前で行われたら辛いだろうが、耐えられないほどではないと自分に言い聞かせた。
 そして、いざイワンに告白をした。
 そのどれでも、なかった。
 イワンは驚いた顔は見せたものの、次に考え込む様子になった。
 顔をしかめることもなければ、逃げ出しそうな様子も、他にいる好きな相手の話も返ってこない。
「……イワンくん?」
 あまりの予想外の出来事に思考停止してしまったのだろうか、とキースは危ぶんだ。
「はい」
 考え込んだ顔のまま、イワンは返事をする。
「あの、今すぐに返事を貰おうとは」
「今すぐとか来週とか、そういうことじゃないと思うんです」
「あ、はい」
 思わずキースは居住まいを正した。
 カレーを注文してフルーツパフェが出てきたら、人間はこういう顔になるだろうか、とキースはふいに突飛な想像をしてしまう。
 ウェイトレスも『お待たせしました、シーフードカレーでございます』と涼やかにフルーツパフェを持ってくるとしたら。同席していた人たちも『あら、おいしそうなカレーね』『魚介類が豊富だね』とそのパフェを眺めたら。
 いや、そんなことはどうでもいい。
 あまりに予想外の反応に、キースの脳は現実から逃避しかけているのかもしれない。恐る恐る尋ねた。
「ああ、もしかして、どう断っていいか言葉を探しているのかい?」
「断る?」
 眉を寄せたまま、イワンは訊きかえす。
「違います。そういうことじゃないんです」
「ち、違うのかい?」
 キースは裏返りかけた声をあげた。
 これは少しは期待を持っていい状況なのだろうか。
 違うんです、ともう一度イワンは唸るように零した。
 イワンは顔を上げる。
「……このあと、お時間ありますか」
「えっ」
「じゃあ、って言うの変ですけど……ちょっと僕からもお話ししたいことがあって」 
「時間だね! あるよ、あるとも!」
 キースは慌てて言う。言って、イワンの様子を見た。イワンは、何とも言えない表情をしている。
 怒っていそうにも悲しんでいそうにも見えない。どうにか喩えるなら、試験に際して難しすぎる問題、しかもその一問だけしか書いていない答案用紙を前にして途方に暮れている学生のようだった。
「どこかで、お茶でも?」
 キースがそう切り出すと、イワンは無言でうなずいた。


 カフェのオープンテラスの席にキースとイワンは並んで座る。
 どうして今どきのお洒落な店は、席が横並びになっているのだろうとキースは不思議に思う。
 テーブルを挟んでいないだけ距離の近さを喜ぶべきか、まじまじと顔を見るわけにもいかないのにどこに視線を遣ったらいいのだと悩むべきか。
 注文の品がやってくると、イワンは一口口に含んで、それからおもむろに携帯電話を抜いた。
 何アクションか操作をして、画面をキースのほうに向けてくる。
 ディスプレイにはイワンと同い年くらいの少女が笑っていた。
 長い黒髪。ほっそりした肩、華奢な肩紐のサマードレス。愛らしい笑顔。
 どうやらプロの撮った肖像のようだ。親しい相手に向けるような表情を作ってはいるが、画面全体が完璧な雰囲気すぎる。
「彼女は……」
「あ、別にそういう子が好みのタイプってわけじゃなくて。はじめの推しメンは違ったんですけど、ちょっとファニーフェイスかなとは思うんですけど、面白い子なんでその子」
 やはり彼女はアイドルか何かのようだ。好きなタレントを批評されることを恐れてか、イワンは途端に舌が滑らかになる。
「いや、可愛いと思うよ」
「あー、ええと、もし、もしもですよ。僕がその子から告白されたとしたら、嬉しいとは思うんです」
「……それは、そうだろうね」
 歳が十も離れた男の先輩より、ずっと嬉しいだろう。それは自然な考えだ。
「でも、無理だと思うんですよね」
「無理?」
「続かないと思うんです」
「それは、二人の仕事のせい?」
 タレントの女の子と、こちらもタレントの一種のようなヒーローと。
「あ、じゃなくて。僕の性格っていうか」
 イワンは携帯電話をカーゴパンツのポケットにモソモソと仕舞う。
「いまは、好きな時にDVDとか引っ張り出してきてその子を眺めてるから、可愛いなぁって思えるけど……。だって、あっちも人間でしょ、こっちが忙しいときに連絡欲しがったりされるんだろうし、僕が一方的に癒されるなんてありえないし、お疲れ様とか頑張ってねとかこっちも言ってあげなきゃいけないだろうし。すぐ面倒臭くなるんだろうなぁって」
「はぁ、それは」
「相手がどんな美女でも、普通の人でも、当たり前のことですよね。わかってます。何ていうのかな、僕って性格が悪いっていうか」
「そんなことはないよ!」
 思わずキースは声のボリュームをあげてしまう。
「きみは今、自分の仕事を必死でこなしているところだ。余裕がなく感じられるのは、とても理解できる。私だって、はじめの頃はそうだったよ」
「え、ほんとですか」
 イワンはそう言って、少し表情を緩めた。
「心強いお話ですけど、やっぱりちょっと僕の言いたいこととは違うかな。考え方が子どもっぽいのかもしれません。ええと、気味悪がられるかもしれないですけど、人を好きになるのとか、ちょっとよくわからないんです」
「え?」
「さっき見せたアイドルとか、可愛いなぁとは思うんです。でも、実際につきあうってなったら、お互いの時間をやりくりして会って、興味ないかもしれない場所に行かなきゃいけないかもしれないし、そんなの僕にとっても相手にとってもそうだろうし、だからって趣味が一致する人ならいいかっていうと、それなら恋人じゃなくていいじゃん、ってなりそうだし」
 どんどんと声が小さくなっていくイワンが「あっ」と声を出して顔を上げた。
「その、わかりますよ。誰かが誰かを大事に思う、ってことは。理解できます。だから、街の人みんなに幸せになってほしいって思うし」
 そう言って、イワンは一度キースと視線を合わせた。キースも微笑む。
 事故や事件が起きれば、家族や友人、恋人がそこに巻き込まれていないようにと祈る気持ち。もしその中に大切な人がいたら、無事に戻ってきてほしいと願う想い。
 それは、ヒーローとして働く自分たちには、とても身近なものだ。純粋で必死で強い気持ちに、一般の人々よりずっと頻繁に接しているのだ。
「人を好きになったら、顔を見たいとか声を聞きたいとか、そういう気持ちは。わかるっていうか、たぶんそうなんだろうな、って。僕には、あんまりそういうの、なくて」
「……そう」
「おかしいですよね。この歳で、そういうの」
「誰かを好きになったことは? 四六時中、誰かのことを考えてしまうとか」
「うーん、ないかなぁ」
「誰とも、つきあったことがないの」
 いまの訊き方は、ちょっとおかしかっただろうか。
 誰とも、だなんて。念を押すような言い方になってしまった気がする。
 そんなつもりはなかったが、何というか、経験の有無を尋ねているような厭らしさがにじんでいたかもしれない、とキースは内心でヒヤリとする。
 イワンはそうは受け取らなかったようだ。
「ないですねぇ」
 あ、でも、と少し明るい声を出す。
「一応デートくらいは」
「へぇ」
「周りにセッティングされて、映画に行ったりとか……でもなんでこんなことしてるのかなぁって思っちゃうんです。映画なら、好きなのを一人で観たい」
 思わずキースは吹き出した。
 普通は、好きになった相手ともっと早く親しくなりたいのに、それを堪えて並んで映画を観たりするのだ。それで、どうしてこんなことをしなくちゃいけないのだろう、なぜこんなステップを踏まなくては仲良くなれないんだろう、とやきもきするものだ。
「だって、僕が好きなのってマニアックなんですよね。たとえばホラーとかでも……あ、今はこの話はどうでもいいですね」
「それなのに、女の子も気分が悪くならないような映画を選ばなきゃいけないしね。人気俳優が出ているアクション映画とか?」
「そう、そうなんです! あーこれ何々の焼き直しだよ、大したことないな、って思いながら観終わって、感想を聞いたら『○○の着ていたドレスが素敵だった』って言われたりして。うわぁ何だそりゃ、って腰が抜けそうになって」
 ははは、とキースは笑い声をあげてしまう。何年前の話だか知らないが、光景が目に浮かぶようだ。
「趣味が中途半端に合うとさらに良くなくて。感想を言い合ったら解釈が分かれてですね」
「相容れないところが目につくわけか」
「心が狭いんでしょうね、僕はきっと」
「そんなことはないよ」
 真剣に向き合いすぎるのだろう。価値観が隅々まで一致する相手になんて、そう簡単に出会えるわけがないと現在のキースは思うが、それを口にしてしまうのは躊躇われた。嫌な大人に見えるだろうから。
「エドは、あの、アカデミーで仲が良かった…クラスメイトなんですけど」
 イワンは少しばかり言いにくそうに喋る。事件を起こした同級生の話は、概略だけは知っていた。キースは先を促す。
「恰好いいし、クールだし、女の子が束になって向こうから寄ってくるんですよ。で、僕も誘われて一緒にどこか行ったりして。まぁ僕はさっきみたいなカンジで気まずくなっちゃうんですけど。でもエドはすぐ彼女ができて」
 と、そこで言葉を切ってイワンは笑みを見せた。
「でも、ちょっとすると、エドがまた僕とつるむようになって。『あの子は?』って訊くと、『さぁ』って。アイツすぐに飽きちゃうみたいで、女の子放り出しちゃうから、全然続かなくて」
「『さぁ』はすごいな」
「本当に名前も忘れちゃってましたからね。一度は僕まで女の子に詰め寄られたんですよ。『あなたは私のこと覚えてるでしょ?!』って。怖かったなぁ」
「それは気の毒に」
 とは言ったものの、キースは笑い出してしまった。親友と激高した少女に挟まれてオロオロするイワンが容易く想像できる。
 イワンも笑っている。ひとしきり笑ってから、ふいに真顔になった。
「あの、キースさん」
「何だい」
「今の話聞いたら、呆れましたよね?」
「まさか」
「……僕のこと、まだ好きですか」
 尋いておいて、ゆっくりと瞬きをする。
「さっき、言ってましたよね。四六時中、誰かのことを考えてしまう、みたいな」
 それって、とイワンは眉根を寄せた。
「僕のことも、ですか」
 キースは僅かにたじろいだ。
 真っ直ぐに見つめられて。最短で最速の質問を投げられて。
「……きみのことを、だよ」
 けれど、尋かれたら自分なりの真実を伝えようとするのも、またキースだ。
「何をしてるのかな、ってよく考えるよ。会えない日が続くと、顔を見たくなるし、声を聞きたくなる」
 本音を言えばもっと他にも、たとえば抱きしめたいだとか、それから昼日中のカフェの席では言うべきではないことも考えてしまう。
「あの、手を」
「手?」
 イワンは手相でも見せるみたいに手のひらを突き出した。
「たとえば。手、つなぎたいとか、思います?」
「え? いいの」
 しまった、とキースは慌てる。いいの、だなんて。そんな物欲しげな。うっかりでは済まないレベルの失言だ。
「えーと、ああ、はい」
 けれどイワンは、特に気にした様子もなかった。
 くるりと手の天地を返すと、それをキースとの並んだ席の間のスペースへと降ろす。
 信じ難いものを見ているような目つきでいたキースだったが、我に返って手を伸ばした。イワンの差し出してきた手を、取る。
 通りに向いている二人の席だが、テーブルの陰は通行人からはあまり目に入らないだろう。そう確認をして、キースはどうにか気を落ち着けた。
 イワンも不思議な生物でも見ているように、二人のつながった手を見下ろしていたが、気を取り直して飲みかけのお茶を飲もうと顔を向けた。
「あ」
 イワンは利き手を差し出してしまっていたのだ。
「すまない、手を」
「平気です」
 キースが手を解放してやろうとすると、イワンは小さく首を振って、逆の手でカップを取り上げた。
「これくらいなら、こっちでも」
「ああ、そう」
 何という間の抜けた返事だ。キースは自分自身を叱りたくなった。それなのに、まだ後生大事に隣から伸ばされた手を握っている。
「あったかいですね」
 カップを元に戻して、イワンは空を眺めた。来週にはあったかいというより暑いくらいの陽気になるだろう。
「やばいな」
「やばい?」
「眠くなってきちゃいそうで。手があったかくなって」
 さっきの『あったかい』はキースの体温のことだったらしい。手を離すべきかとキースが考えていると、イワンはくるりと首をめぐらせてきた。
「デートみたいですね、これ」
「……イワンくん」
 思わずキースはテーブルに突っ伏しそうになった。好きだと伝えたら、カフェについてきてくれた。しかも手をつないでいるのに、デート『みたい』とは珍発言にも程がある。
「ごめんなさい。これ、デートか。ですよね」
「どっちでもいいさ」
「す、すいません。怒ってます?」
「怒ってなんかいないよ。怒れるわけがない」
 やばいな、か。
 キースは、さっきのイワンの発言を胸の内でなぞる。
 もっと好きになってしまいそうで。手をつないだくらいなのに。
 ふざけ半分どころか、からかいの色すら見えない。何の気なしに手を伸ばされただけなのに。
「あの、でも、僕史上最高にデートっぽいです、いま」
 イワンは笑った。肩の力が抜けたように。
 手は、つないだままだ。


 《 E N D 》
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Posted on 2012/07/20 Fri. 00:17 [edit]

category: SS(空折)

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