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空/折 「xxx経由xxx行き」 

インドアいちゃいちゃ。
妬いてしまうキースと、それにピンと来ないイワンというのがマイブームらしく。
そこはソファの上でもあり、別の場所でもあり。

つーか、ソファ、ベッド、バスルーム、カフェ(パブ)でしか話が展開しない…わたしはドコまでインドアなんだ!!


ちょこちょこウェブで思いつきを吐き出しつつ、そこそこ読み応えのあるお話を
8月に向けて書いていきたいです。頑張りまっす!


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 


xxx経由xxx行き



 リズムよく続く、乾いた小さな音が耳に心地いい。
 ノートパソコンの浮き沈みするキーがたてる音だ。
 自分ではこんなに速くキーを叩くことができないキースは、この音を聞いてもこれが文章を生み出す際の副産物だという気がどうしてもしなかった。
 キーの音は、それ自体が話し言葉のように思えた。見知らぬ国の、意味のとれない話し声。意味はわからないが、楽しそうなのか真面目な話かは察せられる。
 ノートパソコンのキーを叩いているのはイワンだ。
 よほどのことがない限り日に一度は更新を欠かさない、日課のブログの文章を生み出している。
 キースの部屋の、ソファの上で。正確にはキースが座っている、その立てた膝の間に体育座り(と日本では呼ぶ座り方)で陣取って「今日のうちに書いちゃわないと」だとか「あともうちょっとだけ」だなんて断りを入れながらファンサービスに努めるのだ。
「ここにもファンがいることを忘れてほしくないな」と口を挟むと小さな笑い声だけが返ってきた。
 この部屋で迎える何度目かの夜に、イワンは非常に申し訳なさそうに持ってきたノートパソコンに触らせてほしい、と訴えてきた。理解してもらえないかもしれないと「ブログを更新する暇がなくて……」と眉を八の字にしていたことを思い出す。
 最初の頃はなぜだか「絶対に見ないでください」と宣言して、キースが「だって数分後には全世界に発信するんだろう?」と尋ねてもイワンは首を横に振って壁を背にしてパソコンをいじっていた。最近ではTVを見るときと同じくソファの上でのくっついたままの姿勢にも慣れたらしい。
 イワンだけでなくキースも慣れてきた。斜め後ろから見る、恋人の真剣な横顔や後ろ髪の跳ね具合に。首筋や耳朶の白さに。明るい場所で間近で見られるまたとない機会なのだ。見慣れてもまだ胸騒ぎがしてしまうけれど。
 話したいことが沢山ある日は指がキーの上を縦横無尽に駆け巡る。あれもこれも聞いてほしいと早口になる子どもみたいだと、本人に伝えたらきっと顔をしかめるだろう。そこが愛くるしいのだと説明しても、たぶん納得してはくれまい。
 以前ほどではないがブログのコメント欄が荒れたときは、これ以上誤解を生まないように、きちんと伝わるようにとキーの音もゆっくりになる。何度も読み返しては次のセンテンスに進み、またはじめから読み返しているらしい間。
 そんなときには、キースは後ろからイワンのウエストにゆるく両腕を巻く。いつまでも、ちゃんとここにいる、と教えるように。
 今夜のイワンはご機嫌のようだ。キーの音も速いテンポで楽しげに聞こえる。
 手を止めたイワンはブログのプレビュー画面を眺めて、文のバランスや写真の位置を決めていた。
「おや、そのカードは?」
 キースが身を乗り出すと、イワンは振り向いて笑顔を見せた。
「電子マネーカードですよ」
「ん……?」
 液晶ディスプレイの中に見慣れた電子マネーカードが映っている。見慣れたもののはずなのに、どこかが違うような気がした。
「私が持っているものより、ロゴが……あっ!」
 イワンが画面をスクロールすると別の写真が現われた。カードをアップで写している。キースが気づいたように、表面のロゴマークが流通しているものより一回り大きい。そのロゴの中に折紙サイクロンがいた。写りこんだかのように、折紙サイクロンの半身が目に入ってくる。
「まさかこの写真、ヒーロースーツを着て撮影したわけでは」
「それはないです」
 イワンが噴き出してしまう。
「これ、来月発売になる限定版のカードなんです。ようやくデザインが決まって。普通のもあるんですけど、あえて《見切れ》てるのも作ってもらいました」
 そういえばイワンこと折紙サイクロンが所属するヘリペリデス・ファイナンスは電子マネーカードの発行という事業も行っている。
 写真のあとに続く文章には『カードリーダーにかざしたときに拙者の声が出る…なんてことはないから恥ずかしがらずに使ってほしいでござる!』とあった。
「ホログラムみたいになっていて角度によって見えるんです」
「それは恰好いいね! 私もぜひ入手しなくては! イワンくんの声が出たらもっとよかったのに」
「技術的にどうかと…っていうか、あのピローンって音のかわりですよね。何て言えばいいんですか?」
「なんでもいいよ。そしたら買い物が終わっても売店の前から動けなくなってしまうな。大変だ」
「じゃあ絶対却下です。キースさんを足止めしちゃうなんて」
 笑いあいながら、イワンは記事を読みなおすと「投稿」ボタンを押した。パソコンはテーブルの上で閉じられる。
「……仕事は終了?」
「はい、お待たせしまし――」
 キースの指が伸びてイワンの耳をくすぐろうとした瞬間、テーブルの端に置いてあったイワンの携帯電話が震えた。
 イワンは電話を取ると、メール機能を呼び出して届いたメールを確認する。
 いつもなら、またすぐにテーブルの上に放り出してしまう携帯電話を握りしめたままイワンは動きを止めていた。
「どうしたんだい? 何か悪いことでも?」
「え、いいえ。そういうんじゃないんですけど」
 どうしようかなぁ、とつぶやいてからイワンは携帯電話のディスプレイをキースに差し出してきた。
「いいのかい?」
 キースが訊くと首肯が返ってくる。
「……いまから遊びに来ないか、って」
 何の秘密もない二人だが、メールの内容まで見せ合ったことなどなかった。キースが覗き込むと、それは確かに遊びの誘いらしかった。簡潔に軽く、だがそれなりに礼節もわきまえた言葉で、イワンの好きそうな店を見つけたから出て来れないかと尋ねている。
「……これは、誰?」
 キースはどうにかそう尋ねた。発信者には男性名がある。アドレス帳に登録済だということだ。声が冷え込んでしまいそうになる。
「会社の人です。いま、電子マネーカードの限定デザインの話をしたじゃないですか。その新規ビジネス開拓チームのリーダーの人で」
 電子マネーカードって利用者の囲い込みが激しいんです、とイワンは続ける。
「新しいサービス展開やビジネスパートナーの開拓、加盟店を増やす施策などを考えている人で。今回の限定カードっていうのもこの人の提案で、デザインに全身バージョンとあえて《見切れ》も作ろうって押してくれたんです」
 押してくれた、というところでイワンは嬉しそうに大きくうなずいた。
 それはわかった、とキースもうなずき返す。しかし、そのチームリーダーがなぜ夜の遅い時間に遊びに行こうというメールを寄越すのかについて教えてもらいたいところだ。
「他の企業とのタイアップを企画したりもしていて、あの…実はまだGOが出たわけじゃないんですけど、僕だけじゃなくて他のヒーローたちのデザインカードも…って企画が進んでるんです。特定の場所でポイントが貯められるスタンプラリー的なサービスを展開できないか、って模索しているらしくて、僕もそれは一ファンとして参加したいなぁって」
「イワンくん、イワンくん」
 新しいビジネスモデルの開拓だのスキームの見直しだのと言い出したイワンをキースが中断させた。
「……それで、このメールだけど」
「あ、はい。とにかく、そんな色々な企画や営業をしているだけあって、すごくエネルギッシュな人なんです。カードのデザイン会議のあとでヒーロー事業部の人たちも含めて食事に行ったときに連絡先を交換したんですけど。半月前にもお誘いのメールを頂いたんですが、ちょうど緊急出動になってしまって。戻ってから見たら『HERO.TV見たよ。お疲れ様! また誘うから』ってメールが入ってました」
「半月に二度……」
「どう返事したらいいですか? 教えてもらおうと思って」
 えっ、とキースは顔を上げる。
「どう返事をするかって……」
「もちろんキースさんは、そのリーダーの雰囲気とか知らないわけですけど。仕事上でつきあいのある…他部署だけど目上の人ですよね? そういう人に対してはどういう断りかたをしたらいいんですか?」
「断り、かた」
「僕の正体ってそんなに大っぴらにできないから、開拓チームでも直接顔を合わせたのはこのリーダーだけで。窓口っていうんですか? 他のヒーローのカードも出せる、ってことになったらキャンペーンとかでまた顔を合わせる人ですよね? 何てメールしたらいいと思いますか? 夜十時には寝ちゃうんです、なんて言い訳できないし。僕のブログも見てくれてるそうだから宵っ張りなの知られてるみたいで。大体、ついさっきブログ更新しちゃったし」
「あ…ああ、そうだね。うん、そうだ」
 キースは半分上の空でカクカクと首を振った。
「ヒーロー事業部って、僕の正体をよそに漏らせないせいもあるのか、なんだか家族みたいな雰囲気なんです。目上の人もそういう感じじゃなくて。部長がヒーローデザインのデコレーションメール送ってくるし。暇だからってたまにCEOがお菓子持って遊びに来ちゃう部署だから、みんなどこか変わってるっていうか……」
 家族的な雰囲気というのは、キースにとってもそうだ。役員たちこそ堅いポセイドン・ラインでさえヒーロー事業部はそういう雰囲気なのだ。ヘリペリデスは後発の会社で社員の平均年齢も若い。社会に出たばかりのイワンを可愛がるのは、参考にならない先輩と上司ばかりだろう。
「この人すごいんですよ。何年か前に開拓チームを立ち上げるときに抜擢されて、その時から体力をつけて仕事への集中力を高めようって理由でマラソンを始めたら、去年の市民マラソンでは入賞しちゃうくらいだとか。プレゼンの前の日に士気を上げようってチームのメンバーとパーティーに繰り出すんだとか。まだ二十代なんですけど、でもすごいなぁ、って。僕なんか半日事件に当たってたら、翌日は昏々と寝てますから」
「確かにすごいね」
 花形部署に一人はいる、スーパーマン的な話題の人物らしい。自信にも意欲にも溢れていて、NEXT能力を持つヒーローという特殊な人気者である折紙サイクロン――イワンとお近づきになりたがっているだけだろうか。
 それとも、イワンという人間自身に興味があるのだろうか。今の話だけではわからない。
「もうちょっと時間を置いてから、『さっきお風呂に入っていました。もう寝るつもりだったので、すでに浴衣なんです。今日はすいません』ってメールしちゃおうかな」
「……それはよくない!」
 思わず強い口調でキースが言うと、イワンは申し訳なさそうな顔になった。
「あ、ですよね。そんな嘘とか、返事を後回しにしたりなんて、いけませんよね。ダメだなぁ、会社の人に友達感覚で……いや、友達すらいないんですけど、僕……」
 キースとしてはそういう意味で注意したのではなかった。気があるかもしれない相手に、風呂上りだの浴衣姿だのといった刺激的な文面を送ることについてダメ出しをしたつもりだったのだが、イワンがその文案は没にしたようなので、結果オーライとする。
 イワンはキースの胸に寄りかかるようにして天井を見上げる。
「返信なんですけど、まず……『明日早いので申し訳ありません』とかで?」
「まぁ、そうだね。無難かな」
「それから『ブログに限定カードの記事をUPしました。今後ともよろしくお願いします』とか……」
「ああ……」
 今後ともよろしく、と言ってしまったら、次も誘ってほしいみたいではないか。そんな隙は見せるべきではない、と思う。
 しかし、危険で多忙な生活を送っているイワンを単純に弟のように思って、楽しいことを教えてやろうとしているだけなら大きなお世話というものだ。イワンには友達らしい友達がいたことはエドワードを除くとないらしい。今後のこともある。キースだって、イワンは広いつきあいをするべきだということくらいわかっている。それでも、やはり仕事のできる恰好いい人物なんて遠ざけておきたいような気もする。だったら、どんな友人なら許せるのか。思考のループに嵌りそうになって、キースはメールの文面に意識を戻した。
「……『今どこにいるの?』って書いてあるね」
 ディスプレイに表示させてある一文がキースの中に引っかかった。
「書いてありましたね」
 イワンは体重を預けきっている。彼の背がキースの胸にぴったりとくっついていた。お互いが呼吸をするたびに震えの伝わる距離。
「……『膝の上』、かな」
「えっ」
「きみが今いるところ」
「えええ」
 イワンはのけぞった。キースは面白がって、握ったままのイワンの携帯電話を操作しているフリをする。
「えーと、返信……本文は『いま、ひ・ざ・の』……」
「えっ、ちょっと、ダメですよ! 社会人の先輩としての対応を聞いてるんじゃないですか! そんなの、いくら何でも!」
 訴えながら、イワンはキースの手の中から自分の携帯電話を取り上げると、ぴょんと飛び降りてしまう。両手で携帯電話を庇うように胸に押しつけて、ソファの前にしゃがみこんだ。
「あーあ」とキースが落胆の声を上げる。せっかくリラックスしたムードだったのに。
「それに、膝の『上』じゃなかったですから!」
「ああ、正確には『膝の間』?」
「あいだ……って」
 何かやらしい、とイワンは口を尖らせた。
 イワンがいてくれないのなら仕方がない、とキースはゆるく立てていた膝を伸ばして、足の裏を床に下ろす。
「じゃあ今なら……『脚の間』? 正確には」
「もう何なんですか、それ」
 イワンは目尻を赤くして、膝立ちの姿勢でソファの脇まで逃げて行ってしまう。
「ごめん、悪かった! 戻ってきてくれないか、お願いだから」
 ソファの肘かけを掴んで覗き込むようにすると、イワンも向こう側から同じように顔を覗かせた。それからスッと立ち上がって歩み寄ってくる。
 口を尖らせたままだったが、イワンはソファに座ったキースの上に横向きに腰を下ろすと、両腕を首に回した。
「……『膝の上』は、こうです」
「ありがとう」
 キースも両手をイワンの背に巻くとゆっくりと引き寄せる。
 抱き寄せられたまま、キースの頭の後ろでメールの返信をしていたイワンが小さくつぶやいた。
「あ」
「なに?」
「……なんでも、ないです」
 思い出し笑いのような表情になって、イワンはそろそろと視線を逸らせる。
「下らないですよ」
「何だい?」
 ついムキになって聞いてしまう。えーっ、と唸ってからイワンはボソッと告げた。
「『腕の中』だな、って今」
「そう書いてくれるの?」
「まさか。却下に決まってるでしょう。嫌がらせメールじゃないですか」
「そうかな」
 ノートパソコンのキーを打つほどではないが、それでもかなりのスピードでカチカチと小気味良い音がする。
「何て返事したんだい?」
 しつこいかな、とも思うがやはり気になった。
「『今から人に会うから、今日はすいません。さっきブログに限定カードの記事をUPしました。よろしくお願いします』」
 日付が変わろうかという時間に人に会うのだという。親しい相手の存在をほのめかしたつもりらしいが、どうだろう。夜遊びを知っている奴だと思われるか、それとも親しい相手がいると気づいて逆に猛アタックされるなんてことはないだろうか。
 今は、そんな杞憂かもしれないことを考える必要はなかった。甘えを滲ませた声で問い直す。
「……今から人に会うの?」
「……さっきまで先輩と会ってたんですけど。今から恋人と会うんです」
 イワンの声が耳元から聞こえる。甘いセリフを言い慣れていないイワンの声が、ふにゃふにゃと少しくぐもっている。
「他の先輩には、さっきみたいな座り方をさせちゃいけないよ」
「わかってます」
 キースは首を曲げると、自分の肩口に額を押しつけたままのイワンに唇を寄せる。後ろ髪をかきあげてやって、恥ずかしさからか少し熱を帯びている首筋やうなじにキスを落とした。
 イワンは顔を上げて、携帯電話を持った手を伸ばしてくる。キースが受け取ってテーブルの上に置いてやると、今度は空いた手を背中に回してきて、それが合図になったかのように二人の唇が重なった。
「ベッドに行こうか?」
 唇を離して、その隙間にささやくように尋ねる。イワンもささやきみたいな声で言う。
「バスルーム経由でもいいですか?」
「了解」
 ソファ始発、バスルーム経由ベッドルーム行き――。
 下らないフレーズがキースの頭の中に浮かんだが、笑い出したら今度はイワンに何を考えたのかと聞き出されてしまいそうだ。
 ムズムズする唇は、キスで隠すことにした。


 ■ E N D ■

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Posted on 2012/06/10 Sun. 00:20 [edit]

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