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空/折 「愛させる技能」 


R指定なお話を書いたら次は手もつないでないようなのを書きたくなるのはナゼでしょうか。

タイトルはけっこう前に流行った(ような気がする)恋愛ハウツー本から。
原題は英語で「with men / women 」でした。



 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


愛させる技能 ― How to success with HERO.




 ステージをクリアした達成感に浸りながら、イワンが携帯ゲーム機から伸びたイヤホンをはずすと、すぐ横で女性たちがワイワイと話に花を咲かせていた。
 気にも留めなかったが、カフェの隣のテーブルでは随分と話が弾んでいたらしい。
「もうホント面白いんだから。妄想力がハンパないよ、この子」
 目に涙をためて、一人の女性が別の女性を指す。
「既に感動巨編だよね。****との一泊二日の不倫旅行の妄想。待ち合わせからお土産選びまで…あー、おかしい」
 笑い泣きしている女性が挙げた名前は、演技派で知られる四十代の渋い俳優のものだった。
 耳にしたイワンは思わず吹き出しそうになって、どうにか笑いをこらえる。
 面白そうだった。話のタネに聞いておけばよかったとすら思う。
「婚活しなよ、婚活。妄想でも不倫はダメだよ」
 一人が本気なのか茶化しているのかわからないことをアドバイスする。
「ねぇねぇ、じゃあヒーローと結婚する方法を考えてよ」
 半分ほどに減ったアイスティーを啜ろうとして、イワンはグラスにかけた指を滑らせそうになった。
「ヒーローかぁ」
 妄想力を褒められた人だろう、一人が宙を見つめて唸る。
「……マジメな話、バーナビーは難しいと思う。売り出し中で、本人も野心があって。まだ五年はフラフラしそうだよね」
「だよね。三十くらいにならないとね」
「で。知り合えたらそこそこ行けるんじゃないの、っていうのはスカイハイかな」
 その発言に、今度こそイワンは手を滑らせた。滑ったのがイヤホンのコードで、隣のテーブルでも爆笑が起きていたのが幸いしたが。
 ないわ、ないない、と盛り上がる友人たちに発言主は厳かに首を横に振る。
「いや、わかんないよ? 地位も名声もお金もあって、だけど仕事で忙殺されていて恋人も作る暇がないっていうかできても長続きしなくて、友達もあまりいなくて…って人は、ほだされるのよ。何でこんなのに? っていうような相手に」
 それを聞いて一度「えーっ」と声を合わせた友人たちだが、そのうちの一人が「でもさぁ」と口を開いた。
「なんか、そんな話聞いたことあるかも。ほら、芸能人とかスポーツ選手とかで」
「あっ、あの人そうじゃない?」
 別の女性が有名な野球選手の名前を挙げる。
「そうそう、それからあの…サッカーの人も」
 と、また別の名前が挙げられた。
「結婚報道の当時、モデルの何とかさん、って言われてたけど、どこで何のモデルやってたの? みたいな」
「あの人の奥さんも1年に1・2度CMに出てくるくらいで、地味ーにマジメにアスリートのお世話してるよね」
 うんうん、と女性たちはうなずきあう。
「家に帰っても仕事の延長っていうか、余暇だって仕事の準備みたいな生活を長くしてるとさ、何気ない優しさが沁みちゃうんだよ。ね?」
「なるほどね。家族同然の犬を可愛がってくれて……確かスカイハイって犬飼ってるよね?」
「たまにペット雑誌にインタビュー載るよね。あっそうそう、それも元々の愛犬家じゃダメよ。慣れっこみたいな人じゃダメ。犬飼ったことないーって言いながらいきなり懐かれちゃうみたいなのがグッとくるわけよ」
「じゃあ、あとは料理上手とか」
「それだって、レシピ本出してたり料理ブログやってるようなタレントじゃダメ。美味しい料理なんてお金出せば手に入るんだからさ」
 わかった、と一人が被せるように言う。
「家庭料理っぽいやつ? しばらく食べてない故郷の味、的な」
「それよりもさぁ、頑張って作りました、みたいなほうがいいんじゃない? 逆に初心者丸出しで」
 その発言に女性たちはわかるわかる、と前のめりに頷きあう。
「一生懸命自分のためにやってくれました、みたいなのね!」
「失敗しても、そこはカウントしないでくれそう! 『ちょっと失敗しちゃったんだ』って出したほうがウケそう!」
 きゃははは、と笑いあう女性客の一人が視線を感じて首を横に向けた。
「え?」
 隣のテーブルからまだ十代のような男性の<お一人様>が自分たちを見つめていたのだ。
「……え?」
「あ、す、すいません」
 <お一人様>こと、イワンは慌てて顔を戻す。
―――だって……。
 ケータイを取り出して、ニュースのインデックスを眺めてみる。重大事件は起きていないようだし、第一どの見出しも頭に入ってはこない。
―――だって…それ、もう全部やっちゃったし。
 たまたま隣り合わせた女性たちが冗談半分に語り合っている『スカイハイと恋に落ちる方法』のことだ。
 そう、まずはジョンだ。
 嬉しそうに愛犬の話をするキースに、「ペットを飼ったことってないんです」「子供の頃は憧れてたんですけど、逆に今はもうムリだなぁ」と言ったら、「ジョンに会ってみるかい?」と誘われて。
 ジョンの散歩につきあって。はじめはリードを持つのもおっかなびっくりだったのに、いつの間にか平気になっていて。「やってみる?」ってフリスビーだのロープの引っ張りあいだのをやらせてもらったら、思いのほか楽しくて、息を切らせて転げまわっていたりして。
 顔を上げると、少し離れた場所で笑って見ていたキースから「きみはそんなふうに笑うんだね」なんて言われて。返そうとしていたはずのフリスビーを、イワンは硬直してなぜだかしばらく背中に隠してしまったのだった。
―――いや、そんなの可愛い動物と遊べば誰だってそうなる。
 イワンは小さく首を振った。
 コワモテのギャングのボスが、くりくりした目のかわいい犬を撫で回していたり。それを見て、みんなプッと吹き出したりしてしまう。それだけのことだ。そう、よくあるよくある。
 それから。
 隣のテーブルをチラリと見る。女性たちは届いたデザートに舌鼓を打っていて、会話は止んでいた。
 そうだ。料理。……あの、料理とも言えない料理。
 あれは一体どういう流れだったのか。
 皆で食事に行った帰りに、酔った虎徹を、酒を飲んでいなかったキースとイワンで送ることになって。そう、キースとイワンはアルコールを摂取していなかったのだ。
 ご機嫌でかなり飲んだ虎徹の話はしっちゃかめっちゃかで、二人では彼の家までの道順を聞き出せず、相棒のバーナビーも電話に出ずに仕方なくキースの家に泊めてやろうかという話になって。
 足元もふらついているのに、もう一軒行こうぜとごねる先輩をようやっと二人でキースの家の玄関まで運んだところで、バーナビーが登場したのだ。散々電話をしても出なかったので、念のためにと入れておいたメールをようやっと読んでくれたらしい。
 ご迷惑をおかけしました、と憮然とした表情で、しかし慇懃に言うバーナビーの車に、今度は虎徹をなだめすかして乗せて。
 二人が去ってしまうと、残されたのは素面の二人だった。
 酔って歩けないわけでも自分の家がわからないわけでもない。イワンが「お疲れ様でした」と言って立ち去ろうとすると、キースが「もう夜遅いから泊まっていったら」と言って。
 確かに終電はなくなっていた。しかし、お金が勿体ないとはいえタクシーだって拾えたはずだ。さっきバーナビーの車に乗せてもらってもよかった。(そんなことが言い出せる雰囲気ではなかったのも事実だが。)
 もう一度確認するが、イワンはまったくの素面だった。なのに、その数十分後にはなぜか先輩の家の客間で横になっていた。シャワーを借りて、ブカブカのスウェットまで借りて。
 あまりよく眠れなかったが、かなり早朝に物音で目を覚ました。どうやらキースが日課のジョギングに出ていくところらしかった。「ジョン、静かに」と犬を叱っている声のほうがよほど大きい。一人で広い部屋に住んで長いのだろう、とイワンは思った。眠っている人を起こさないようにする心配りに、欠けているというか方法がわからないのだ。
 二度寝するわけにもいかないので、イワンはベッドから抜け出した。洗面所を借りてからキッチンへ行く。
 キースはいつも同じものを食べているのだとか言っていた気がする。目玉焼きが好きだとか、それも半熟がいいとか何とか。目玉焼き。社員食堂とインスタント食品にばかり世話になっている自分だが、目玉焼きくらい作って作れないことはないだろう。
 フライパンに油を引いて…どれくらいの量を引くんだろうか…次に、卵を割って…ああ、その前にある程度鍋を温めないと…そして肝心な半熟というのは、眺めていたらわかるものなんだろうか。
 目玉焼きに合うのはシリアルかパンか…そうだ、ジョンと散歩に行くついでにバケットを買っていた。あれはどこにしまってあるんだろう…パンは切ってあるのかな…それとも毎日切るのか…パンを切るのに特別なナイフを使ったりするんだろうか。
 それからコーヒーだ。それくらいはできる。あの窓の近くにあるのが豆の入ったキャニスターで…ええっ、豆って本当に豆だ…コーヒーミルがないと……使い方はすぐわかるものなんだろうか…どっちかっていうと自分は取説を熟読してからじゃないとケータイも家電もスイッチ入れないほうなんだけどな。
「あっ、その前にお湯を沸かさないと」
「やあ、おはよう! 早起きなんだね!」
「うわぁぁああ、キ…キースさん!!」
 絶叫とともにイワンが振り返ると、そこにはジョギングで汗を流して帰宅したキースが立っていたのだった。
 頭の中で朝食を作るシュミレーションをしてウロウロしているうちに、本人が考えているよりも随分と時間が経過してしまったらしい。
 キースに教わりながら生まれて初めてコーヒーミルを動かして、「トースターの前で見張っていなくても大丈夫だよ」と笑われながら、しかし焦がすわけにはいかないからと気張ってパンを焼いて、あとは皿とカップを運んで。
 向かい合って朝食をご馳走になった。
「すみません、朝ご飯くらい作ろうとしたんですけど……かえって、時間をとらせてしまって」
 イワンがそう言って肩を落とすと、キースはフォークを宙に浮かせたまま微笑みを浮かべた。
「いや、素晴らしい朝食だよ」
「まぁほとんどキースさんが作ったようなもんですし」
「そういう意味じゃない。きみと一緒にテーブルを囲んでいるのが嬉しいんだ」
「はぁ…」
「マグカップに入ったコーヒーだけど、乾杯したいくらいだよ」
「え? しますか、乾杯?」
「しようか? じゃあ、乾杯!」
 楽しそうにキースがそう言うから、釣られてイワンも口元をむずむずさせるような微妙な笑顔を浮かべて。
―――でも、まさか。
 イワンは考える。
 隣のテーブルでは、女性たちがお互いのケーキをつつきあっている。そっちのほうが美味しいとか、ソースももっとつけていいよ、とか。
 女性同士ならこういうのってアリなんだろうな、と思う。しかし、これまで親友と呼べるような親友を作って来なかったイワンには、普通のつきあい方というのがいまいちわからない。エドワードという例外はいたが、あれは短期間だったし寮暮らしだったし。
 だから、時々考える。こういうのって、普通なんだろうか、と。
 地位も名声もお金もあって、だけど仕事で忙殺されていて、友達も恋人も長いこといない人がクラッといくシチュエーションだと、隣の席の女性たちは言う。
 地位と名声とお金というのを除けば、多忙で親しい相手もいないというのならイワンにも当て嵌まる。
―――自分なら、どうなんだろうか。
 あの、泊まった翌朝に向かい合って朝食を食べた日以来、キースと二人で食事をすることが増えた。
 気のおけない、とまではまだ呼べないが、他愛のない話をして食卓を一緒に囲んで笑いあう。
 美味しいですね、と言うと、そうだね、と返ってくる。笑顔を向けられて、こっちも笑顔になる。それは、嬉しい。楽しい。自然に湧く気持ちだ。
「……あっ」
 気配を感じて顔を上げると、カフェに一人の女性客が入ろうとしているところだった。いや、一人ではない。押しているベビーカーの中に、もう一人赤ん坊がいる。
「あ、の……」
 イワンはなるべく柔和な表情を心掛けて、その若い母親に声をかけた。
「この席なら広いから、よかったら」
「あっ、ご親切にありがとうございます」
 通りが見渡せるイワンの席は、一番端で一番余裕を持ってテーブルが置かれていたのだ。ここならベビーカーを置いても邪魔にならないし。
 イワンは荷物をポケットに突っ込むと、飲みかけのグラスを持って席を移動した。ベビーカーの中からまだ髪の毛がぽやぽやした赤ん坊が見上げてくる。
 左右に他の客のいない席を探して、そこに腰を下ろすのとほぼ同時に後ろから声がかかった。快活な声。
「やあ、遅くなってすまない!」
「あ、どうも……こんにちは」
 振り返る前からわかる。キースが満面の笑みで立っていた。
「仕事を離れても、きみが優しいのは変わらないんだね」
 イスに腰を下ろしながらそんなことを言う。母子連れとのやり取りを見られていたらしい。
「いや、あの、別に……すみません」
 もそもそと、なぜだか謝ってしまうイワンをキースはにこにこと見つめる。二人はこのところ恒例になったランチの待ち合わせをしていたのだ。
「そうだ! 遅くなってしまったのはね、会社でこれを探し出したからなんだよ」
 キースが紙袋から引っ張り出したのは、ポセイドンラインのロゴの入ったグッズだった。そのどれにもスカイハイがいる。
 何度か話をするうちに、イワンがヒーローグッズのかなりのコレクターだということを明かしていたのだ。それを覚えてくれていたらしい。
「こ…これは! スタンプラリーの景品じゃないですか?! うわ、全駅制覇してさらに当たりが出ないともらえないヤツとか!」
「キャンペーン期間中に配りきってしまえばいいのに、みんな鉄道マンだけあって堅いところがあるんだね。その上、もう使わないのに本社でも捨てないときている」
「ももも持ってません、これも…これとか……」
「そんなものでよかったらどうぞ。でも、これなんて端のほうの色が変わってしまっているね。何年前のだろう」
「七年前ですよ! スタンプラリーの第一回目です! 僕も親にねだったけど、我慢しろって言われて!」
「へぇ……」
 イワンが興奮してひとしきりグッズを眺めまわしていたところに、ボーイがメニューを持って現れた。さすがに恥ずかしくなって元の紙袋にグッズを納めなおす。
「す…すみません、気持ち悪いですよね」
「いや、嬉しいよ。そんなに喜んでもらえて」
「でもあの…じ、自重します」
「本当だよ。きみが楽しそうにしているのを見るのは、楽しい」
 イワンが上目遣いでチラリと目を遣ると、キースがにこにこと笑みをたたえている。
 微笑まれたら、こちらも笑顔になる。楽しくなる。嬉しくなる。自然に。たやすく。
「……チョロいな、僕」
「え?」
「な、なんでもありません。き、気をつけます」
「うん?」
「あ! ああ、そうだ」
 イワンは膨らんだ紙袋を自分の足元に引き寄せながら提案をした。
「こんなにすごいものを沢山もらっちゃったので……何かお礼をさせてもらえませんか?」
 メニューを見ていたキースが顔を上げる。
「僕にできるお礼なんて限られてるとは思いますけど、何かできることがあれば」
 一拍置いてからキースが聞き直す。
「お…礼?」
 お礼をしたい、っておかしな言葉づかいだっただろうか。イワンは内心で首をひねった。
「はい。お礼を」
 キースは再びメニューを広げた。顔を隠すようにしながら応える。
「か……考えておこう、うん」
「よろしく、お願いします…?」
 キースもうん、と言ったのだしまぁいいか。
 イワンもメニューを広げると、このアッシェパルマンティエって美味しそうだなぁ、などと関心は胃袋のほうに移っていった。


 ≪ E N D ≫


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Posted on 2012/05/24 Thu. 12:24 [edit]

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