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空/折 「何にでも君は、いつでもあなたは。」 


まどろっこしい二人ですみません。。。擬態能力に興味ありまくりです。孔雀とか蛸とか(なぜその二つ)今の自分とかなり違うカタチのモノになってみたいなーと思って書きました。あ、あとジョン様には深く謝りたいです。。。


何にでも君は、いつでもあなたは。



 イワンの背をゆっくりと撫でるキースの手。
 半ば目を閉じ、イワンは身じろぎをした。
 イワンの顎が乗ったキースの膝が軽く揺すられる。
 意外な気持ちのよさにイワンは内心で苦笑する。
 何だかおかしなことになっているなぁ、と。
 偉大な、憧れの先輩とさして親しくはないはずが、彼の脚に乗り上げてその背を撫でられている。
 上目遣いにキースの表情に視線を投げれば、微笑みが返ってくる。
 元に戻ったときは、どんな顔をしたらいいんだろう。
 そうしている間にもイワンの背中を、そこを覆う麦の穂の色をした毛並みをキースの手が撫でる。
 そう、イワンは今、擬態しているのだ。
 それも大型犬の、キースの愛犬そっくりな姿に。



「オリガミくん」
 よく通る声にオリガミサイクロンことイワン・カレリンは振り向いた。
 スカイハイことキース・グッドマンがそこにいた。
「やあ」
 微笑むと覗く白い歯、細められる青い瞳、軽く片手を挙げての挨拶。
 いつもと同じように見えて、何かが少し違う。
 どうも、と聞えるかどうかの声を返してイワンは瞬きを繰り返した。
「あの…こっち、じゃ……」
 トレーニングルームで姿を見かけてはいた。そこからの帰り道は、二人は別方向のはずだった。
 さっきのイワンの言葉ではそれが通じたかどうか微妙だったが、キースはうん、と一つ頷いた。
「お見舞いに行くのでね」
「お見、舞い」
 鸚鵡のように同じセリフを繰り返してしまう。
「ジョンが入院しているんだ」
「ジョン?」
「ゴールデン・レトリバーの、ジョンさ」
「あ、ああ!」
 そうだった。その口から聞いたことがある、愛犬の名前だ。
 納得しかけたイワンの眉根がきゅっと寄せられる。
「……って、ええ? 入院なんて……どうしたんですか?」
「まったく。彼は大したヒーローだったよ」
 一つ息をついて、キースは少しばかり困り顔になった。



 昨日の散歩の途中。
 いつものコースを、キースを率いるように元気に歩いていたジョンが突然走り出した。
 大きく首を振って主人の手からリードを引き離すと、全身をバネのようにして駆けていった。
「まさか、予知ができたとは思えないのだがね」
 その時の様子を思い出したのか、キースは曇り顔になった。
 小さな曲がり角で、小学校にあがるかあがらないかという少女が道を渡ろうとしたところに、角からバイクが突っ込んできたのだ。
「そこに、ジョンが……?」
「ああ。女の子を弾き飛ばしてね。ライダーは青ざめて『どちらにも当たってないと思います』と繰り返していたよ」
 少女は膝を擦りむいただけだった。バイクも横転したが運転手にも怪我はなかったようだ。それでも警察を呼び、彼女の親が駆けつけてくるまで落ち着かせたりしなければならなかった。
 騒動がおさまってみれば、ジョンの様子がおかしい。
「慌てて病院に連れて行くと、骨にヒビが入っていたんだ」
 我慢強いにも程がある、と苦笑するキースにイワンもうなずく。
 昨日は緊急の呼び出しが入ってしまい、ジョンを動物病院に預けることになったのだという。
「二ヶ月もすれば普通に歩けるようになるらしい」
「それは、よかったですね」
「うん。ドクターから説明を受けたのだが、犬の場合は粉砕骨折でも数カ月できれいに治ることが多いそうだよ」
 と、キースは至極真面目な顔で「バラバラになった骨の中に髄内ピンという細いステンレスの棒を入れて……」と増えた知識の披露を始めた。
 しかし、痛々しい説明にイワンは唇を噛みしめて呻き声を漏らす。
 その様子にキースがしまった、という顔になった。
「動物は無用の悲観や絶望感にとらわれず生きていくために全力で取り組むのだという話に感動してね」
 それで治療の詳細も語りだしたらしい。イワンは首を左右に振った。
「あ、いえ、こちらこそ……救助活動とかしてるのに、僕、痛そうなのダメで……」
 やけに快活に話すキースと、正反対にもそもそと喋るイワンは並んで歩いていた。
 さきほどのキースの笑顔にいつもと違う雰囲気を感じ取ったイワンは的外れではなかったらしい。
 ジョンの命に別状はない、病院が預かってくれているとわかっていても、キースは昨日一日をソワソワと過ごしたそうだ。
 何せジョンと一緒に暮らし始めてから、お互いに家を離れることなどなかったそうなので、それも当然かもしれない。
「深夜に帰宅した部屋が、あんなに味気なく感じたことは今までなかったな」
 そうポツリと零したキースの横顔を眺めていたイワンは、ジョンのお見舞いに同行したいと言い出していた。これには本人が一番驚いた。
 迷惑ですよね、と慌てて付け加えるが「とんでもない、嬉しいよ」と笑顔を返されてしまうと「はぁ……」などとモジモジと呟くしかなくなっていた。



 到着した病院は都会的で明るく、待合室などはカフェやヘアサロンだと言われても不自然ではないほどだった。
 ジョンは大型犬専用室に入れられており、麻酔は切れているらしいが不慣れな環境にしょげているようだ。
 特別犬好きではないイワンから見ても、毛並みの綺麗な犬だった。犬に容貌の美醜があるのか知らないが、何だか他の犬より整った顔に見える。
 キースが伸ばした手に鼻を押しつけていた。えらいぞ、もうちょっとだから。わかってるよ、頑張る。そんなアフレコをしたくなる画だ。
 一人と一頭のブロンドヘアのせいか、黙って見つめあう主人と犬はよく似て見えた。
 初対面のイワンにもジョンは物怖じせず興味津々という目で見上げてくる。そういうところも主従は似ているな、とイワンは胸の内でほほえんだ。
 そっと撫でるとそれに合わせるように目を細めてくれた。ずっと触れていたくなるような毛ツヤだった。



 快活に「よろしくお願いします」と一礼して病院を辞したキースだったが、足取りは重くなっているのがわかる。
 わからなくないな、とイアンは考えていた。
 自分は一戸建ての日本家屋に一人で暮らしている。その前は学生寮にいた。
 あまり話す相手もいない。一人で目を覚まし、一人で食事をし、一人で明かりを消して休む。
 そんな生活にもう慣れてしまった。
 が、そこに一頭の犬をプラスすると、今よりも随分と賑やかな雰囲気になるだろう。
 それを数年続けたころに、その犬がいなくなってしまうことを想像する。たとえそれが一時的な状況でも、きっと寂しいに違いない。
「すぐ、よくなりますよ」
「ありがとう。心配はしていないよ」
「あ、ですよね。でも」
 でも、ちょっとだけ寂しいですよね、今。
 こんなに内面が表れる人だとは思わなかった。
 いつも満面の笑顔をたたえているキースが、ほんの少し、けれど見るからに寂しそうだった。
 イワンは小さく唾を飲み込むと「あのぉ」と声に出した。


そして今。
 やっぱり、こんなこと変だったかな、とイワンは思う。
 そう思って視線をあげる。すると、嬉しそうに細められた青い目にかち合ってしまう。
 能力を使って、愛犬の姿になってみようかと提案したのだった。
 僕の練習にもなりますし、おかしなところがあったら指摘してくださいね、と。
 人気のない公園。物陰に移動すると青白い光に包まれて姿を変えたイワンに、はじめのうちは驚きとおっかなびっくりというような調子で距離を取って見ていたキースだったが、ベンチに腰を下ろすとふいににっこりと笑いかけてきた。
 ジョンには、いつもこんな風に笑うのか。そんなことを考えているうちに、頭を撫でられている。
 大きくて、厚みのある広い手だな、と思う。犬のサイズになったからそう感じるだけではないだろう。
 長い指。割と平たい指の先の形。
 短く切りそろえられた爪。こするように長い毛並みを撫でていく。
 こんなふうに背をさすられるのは、いつ以来だろう。
 丸一年は会っていない家族にだって、子供の頃ならともかく最近は撫でられたりしない。
 学生時代にいつでも後をついていっていたエドワードにだって、肩をはたかれたりはしたが背中をさすられるなんて記憶にない。
 触れられたところが暖かかった。当たり前のことだが、そんなことは忘れていた。
 イワンの背を離れた手がぽん、とジーンズに包まれた膝を叩く。
「あっ」
 キースがしまった、という顔になった。
「いや、すまない。いつものクセで」
 いつもはこんなふうにしてジョンを呼んでいるのだろう。
 人間の姿をしていたらイワンはくすっと笑っただろうと思う。
 気にしてませんよ、と応えたつもりで、膝に顎をちょんと乗せる。
「尾は動かせるの?」
 キースが尋ねた。さっきのイワンの説明を思い返しているのだろう。
 鳥の姿になっても急に飛ぶことはできない。元々の能力以上の行動は不可能なのだ、と。
 そういえば、どうなのかな。
 イワンはしっぽを意識してみる。元は持っていない器官だ。
 しっぽが少し持ち上がり、下ろされる。振る、というほどの動作ではなかった。
「お、すごいね」
 わしゃわしゃと撫でられた。
 すごくはないだろう、と思ったが、この姿では苦笑を浮かべてもわからない。
 キースが急に屈みこんできたので、イワンはびくっとしてしまう。
 それに気づいた様子はなく、キースはイワンの手を……いや今は前足と呼ばれる二本を両手で掴んだ。
 そうして、自分のほうにひょいっと引き寄せる。イワンはよろよろと前に進んだ。脚……後ろ足となってしまった二本ではバランスを取るのが難しい。
 ジーンズに包まれた腿の上にほとんど腹のほうまで乗り上げた姿勢になっていた。
「犬を体の上に乗せてはダメだと教わったんだ」
 彼らは元々群れで生活する種だからね。体の上に乗るということは、その者のほうが立場が上という認識になってしまうらしいんだ、とキースは語る。
「だから、こんなふうにしたことはなかったなぁ」
 そう言って笑うのだが、愛犬と同じようにして貰わなければおかしなところを指摘などできないんじゃないか、とイワンは首をひねる。内心で、だが。
 覗きこまれている。キースの腰骨にイワンは胸を押しつけて寄りかかるような恰好になっている。
 いいのかなぁ、とイワンは愛犬そっくりの後輩を撫でているキースを眺める。
 人間どうしなら……体型が違うから一概には言えないが、なんだかとても失礼なポーズじゃないだろうか。
 顔が近い。愛犬とじゃれているように錯覚してくれているようだけど、その笑顔に申し訳なくなってくる。
 耳の後ろをかいて、顎から喉へと撫でていたキースは何か思いついたように、人差し指をイワンの顔の前に差し出してきた。
 立てられた指がちょん、と鼻に当てられる。
「寄り目になってるよ」
 笑ってキースは人差し指をイワンの目の前で振った。
 屈みこんで、コツンと額と額を合わせる。
 青い瞳がすぐ目の前にある。近すぎて、ピントが合わないくらいの距離。
 輪郭が定かではない青い瞳が「ああ!」という声とともに大きく開かれた。
「あったよ、君とジョンの違い。ハッキリとした違いがね」
 イワンは小首を傾げる。その首元を引き寄せると顔をうずめるようにしてキースは告げた。
「ああ、ほら、やっぱり。……シャンプーの匂いがする」
 きゅっと細まる、深い青色。
 息がかかる。ほとんど、こちらの口に注ぎ込まれるくらいの近さで。
「……っ!!」
 声にならない声をあげると、イワンの体が青白い光に包まれた。
「え?!」
 ギョッとするキースの腕の中で元の姿に戻ってしまう。
 人間と犬では体型が違う。重さも。
 イワンはキースの胸にしがみつくような体勢になっていた。しかも、脚はずるずると後方に滑っていくからイワンの突っ伏した顔はキースの胸から腹へと落ちていくようになった。
「あああ! すっ、すみません!!」
 腰骨の上に乗った顎がようやく止まって、イワンは裏返った声をあげた。
 どこにつかまったらいいかわからないので、滑っていった脚の位置が立て直せない。
「大丈夫かい?」
 キースはイワンの両脇に手を入れて、じたばたとする体を抱き起した。
「どこも痛めていない?」
「ごごごごご無礼をぉぉっっっ!!!」
 ブンブンと音のしそうなほど首を左右に振る。テンションがおかしくなって、折紙サイクロンな口調になってしまう。
「擬態が解けたのは、どこか捻ったとか痛めたとかではないんだね?」
「ちっ、違います」
「それならいいんだ。失礼なことをしたのは私のほうが先さ」
「そんな…ことは……」
 イワンは視線を逸らした。ジーンズを穿いた脚が見える。逆を向く。同じようにジーンズの脚。
「……う」
 キースの腕は抱き起されたときから背中に回ったままだった。抱き寄せられるようにして、腕の中にいたままだとようやく気づく。
 硬直しているイワンの膝や腿についてしまった砂埃をキースの手がはたいていく。
「驚かせてすまなかったね」
「驚かせちゃったのは、僕のほうか、と」
 地面に向かってそうつぶやくイワンにキースは小さく笑い出した。
「いや…でも……よかったよ、誰にも見られていなかったみたいだ」
「――え? あ、ああ……!」
 擬態を解いてしまったときに目撃されていなかったか。そんなことに今まで思い当たらなかった。
 イワンは地面を向いたまま、青くなったり赤くなったりした。



 すみません、と何度も繰り返すイワンにキースは笑って言った。
「それより、ジョンが治ったら一緒に遊んでやってくれないかな」
「……あ、はい!」
「もちろんそのままの姿で構わないから」
 一拍の間があって、イワンが噴き出してしまう。
 キースを見るといつもの笑みが浮かんでいるだけだ。皮肉のつもりもなければ、冗談のつもりでもないらしい。
「ジョンも驚くだろうしね」
「そ、それは……絶対、そうします」
 イワンは笑いをこらえながら答えた。
 公園でキースと別れた帰り道。
 歩きながら、頭に手を置いている自分に気づく。
 さっき撫でられていた手を、再現するように。
 シャンプーの匂いがする、と言われた。
 まさかよくすすいでないってことはないよな、と思う。表情はわからなかった。近すぎて。
 シャンプーの匂いがして当たり前だ。トレーニングのあとにシャワーを浴びたのだし。
 それを指摘されて、どうしてあんなに動揺してしまったのだろう。
 イワンは歩みを止めて、小さく息をついた。
『ああ、ほら、やっぱり』
 どうして、あの人は。イワンは手櫛で髪を梳いた。
 当たり前のことをあんなに嬉しそうに言ったのだろう。
 いつでもそうだ。
 いい天気だとか、綺麗な花が咲いたとか。
 当たり前のことを。普通の、他愛ない小さな発見を、本当に楽しそうに教えてくれる。
 何に対しても、いつでも。
 接触しさえすれば、イワンは触れたものそっくりに姿を変えられる。
 何にでもなれる。
 何になっても、あの人は他愛のない小さなことを見つけてくれるのだろうか。
 イワンの手がいつの間にか乱暴に自分の白銀の色の髪を乱していた。
 さっきまで撫でられていた手の感触を消し去ろうとするかのように。



 公園でイワンと別れた帰り道。
 キースはなぜだか自分の手を持て余していた。
 フライトジャケットのポケットに入れてみたり、ジーンズのポケットに入れてみたり。
 歩くとき、普段は手をどこにどうやってぶら下げていたのか。思い出すまでもないことが思い当たらない。
 さっきの、イワンの顔を思い出す。
 耳まで赤くなって。今度は首筋まで真っ白になるほど青ざめて。
 どうして彼に、あんな気の毒な思いをさせてしまったんだろう。
 愛犬の姿になってくれたイワンと遊んでいる間は、親しみが増したように思っていたのに。
 いつでも、尊敬して信頼してくれてはいるが、どこか硬いままのイワンが打ち解けてくれたように感じていたのだ。
 それが突然、こちらまで緊張してしまいそうなほどに逆戻りしてしまった。
 寄せられた眉。力のこもった瞼。震える頬。噛みしめられた唇。
 悪かった、すまない、もういいんだ……そう言って抱きしめてしまいそうになるくらい張りつめた顔をしていた。
 何がいけなかったのだろう。
 キースは自分の掌を眺める。
 抱きしめるも何も、その前にイワンの頭や背を散々撫でまわしていたのに。
 姿を変えていたとはいえ、あれはイワンだ。
 不器用に尾を動かして見せ、やはり犬とは思えないような首の傾げ方をして。
 引き寄せるとシャンプーの匂いがした。
 腕の中に、彼の匂いがしていた。
 何にでもなれる彼の、けれど、彼自身の匂いだ。
 キースは顔を上げる。気がつくと、さっき見つめていたはずの両手に唇を押し当てるようにしていた。
 慌てて手を解放する。
 歩き出しながら両腕をゆっくりとさすった。
 さっきまでイワンを閉じ込めていた腕を、ゆっくりと。


《E N D》
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Posted on 2011/11/15 Tue. 20:18 [edit]

category: SS(空折)

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