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空/折 「安全でも安心でもない乗り物」 

前作「木曜の密航者」 の空視点ver.です。
タイ/バニSSをネットで漁り出してから「両片思い」という用語を知りましてソレハステキ!とうきうき書きました。
しかし腹黒っぽい空になってしまいました。折紙さんピンチ(笑)。タイトルは公共輸送機関/public transport(=ポセイド●ライン)の逆、というこ とで。




 
安全でも安心でもない乗り物
   Private Transport



「お疲れー」
 虎徹がバックシートのドアをバタンと閉めた。
 バックミラーには軽く手を挙げてみせる虎徹とアントニオが映っている。運転席のキースも振り向かずに軽く手を挙げた。
「出発するよ」
 キースはバックシートに声をかけた。
 そこには、虎徹とアントニオによって横たえられた、酔いつぶれたイワンがいる。


 スカイハイの所属するポセイドンラインの今期のスローガンはこうだ。
『安全・安心・快適・環境・省エネを追及します』
 駅や街中にポスターが貼られ、ウェブを眺めれば広告バナーが踊る。
 出社するたびに本社ビルのいたるところに貼り出してあるので、キースはいつの間にか覚えてしまった。
 大抵の広告物では二行になったスローガンの、特に『安全・安心・快適』は少し大きな字で上の行に書かれている。
 前方の信号が青から黄に変わる。キースはゆっくりと車を止めた。
 赤になる前に突っ切れただろうが、そうはしなかった。
 安全運転はいつものことだ。今日は同乗者もいる。
 バックシートに横たわっている、酔いつぶれた後輩。彼の自宅に彼自身を送り届けようとしている。
 ナビゲーションシステムが百メートル先を右折するようにと指示していた。
 目的地までの距離が画面の隅に表示されている。到着予測時刻も。
 バックシートに横になっているイワン。
 彼が、その場所から消えてしまう時刻。
 イワンは大柄とはいえない体格だが、それでもバックシートは狭いだろうと思う。
 たしか膝を曲げて背を丸めて寝かされていたはずだ。酒のおかげでうつらうつらしているから狭さに気づかないのだろう。
 快適なのではなくて、不快なことに気づいていないだけ。
『安全・安心・快適』のスローガン。
 信号が青に変わる。キースはゆっくりと車を出した。
 眠るイワンを起こしたりしないように。
 後ろを振り返って大きな声で言ってみたかった。
 これは、安全でも安心でもない乗り物だよ。
 そう、大きな声で。
 彼は考えてもみないだろう。親切心から送ってくれる先輩は元からの性質もあって慎重に運転をしてくれていると信じているのかもしれない。
 安全じゃないって、なぜですか。そんなふうに尋いてくるだろうか。
 それともさっきの食事会の間みたいに、酔いの回った赤い顔で笑ってみせるだろうか。
 これは、君の運転する乗り物ではないからだよ。
 地下鉄やバスもそうだけれど、他人が運転する乗り物は、乗客にとって100パーセント安心で安全とは言いがたい。
 君がハンドルを握っているわけじゃない。
 今、この乗り物を運転しているのが誰だかわかっているのかな。どんな人間か。本当に、どんな人間なのか。
 定時に到着する保証もないし、目的地が突然変わることだってある。
 君はバックシートで眠っているだけだ。気づいているのかな。
 唯一の乗客である君が、君の家で降ろしてもらえる保証はないんだよ。
 それを聞いたら、彼はどうするだろう。
 怯えるだろうか。冗談だと信じて笑うだろうか。
 もちろん、そんな馬鹿げたことをするつもりはない。
 でも、運転席の人間がそんなことを考えていると知っただけで、彼は飛び上がるだろう。気の毒なくらいパニックに陥るだろう。
 キースはバックシートのイワンに聞こえないくらい細く、小さく息をついた。
 二人を乗せた車は、イワンの自宅のそばまで来ていた。
 キースが声をかける。その声は掠れていた。自分の考えのザラついた感触が現れたようだと思えた。
 返事はなかった。本当に眠っているんだろうか。
 振り向いたら、イワンなどいないのではないだろうか。
 眠る彼を送っていくというのは自分の空想で、一人でもやもやと詰まらない考えを巡らせていただけなのではないだろうか。
 いっそ、そうだったら楽しいかもしれない。
 ナビゲーションシステムが示した場所に到着する。
 豪邸ではないが、庭のついた和風の一戸建てがあった。
 車から降りる。数歩歩いて、バックシートのドアに手をかける。
 イワンはそこに横たわっていた。
 キースはイワンのこめかみの脇に手を置いた。屈みこむとシートが沈む。
 呼吸音が聞こえた。ああ、生きている、というおかしな感慨が胸を浸す。
 シートについていた手を持ち上げる。プラチナブロンドを指で梳いた。長すぎる前髪を、額のほうへ撫でつける。
 顔を隠すように伸ばされた前髪をどけてしまうと見える、あどけなくも思える小さな顔。
 その額に覆いかぶさるように、キースは体を折った。
 少し熱を帯びた額を唇に感じる。唇が震えているような気がして、キースは自嘲ぎみに小さく笑った。
 おかしな感触に気づいたのか、イワンが目を開けた。
「……着いたよ。起きたかな」
 まるで言語がわからないような顔つきで、こちらの顔を見つめてくる。
 イワンは手を伸ばした。その指は、キースのフライトジャケットの袖に巻きつく。
 指を開かないまま、イワンはまた瞼を閉じた。起き上がれないらしい。
 眩暈がするのかと訊けばうなずいた。
「起こしてあげよう。手を、放してくれたら」
 そう言うと、彼は弱々しく首を横に振った。
「もう、少し……待ってください」
 かすかに震えながらイワンの瞼が開く。
 腕一本分の距離に、薄闇のなかでも目立つ紫の瞳があった。
 イワンの指はキースの腕に絡みついている。
 押しのけるのでも、引き寄せるのでもない指。
 強いて言えばすがりつくような切実な感じがした。
 この安全でも安心でもない乗り物にまだ乗っていようと言うように。 
 もう一度、バックシートのドアを閉めて、どこか別のところに向かってしまうかもしれないのに。
 どうしたいのか。この期に及んで、キースは自分でもよくわからなかった。
 唯一の乗客の要望も読み取れない。
 じっとその目を覗き込む。
 返ってくるのは、ゆっくりとした瞬きだけだ。
 キースはもう一度、彼の上に乗り上げるように体を折った。


《 E N D 》

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Posted on 2011/11/23 Wed. 00:11 [edit]

category: SS(空折)

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