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空/折 「 No Delivery to Lover ! 」 

いわゆるお持ち帰り?な話(笑)。
二人してちょっと不安だったり、でもいちゃいちゃな空/折。
(えー、だって空と折はハッピーエンドが基本です)

黒い菱形(◆)のあとの章がイワン視点、白い菱形(◇)のあとの章がキース視点です。
色々アレですがR指定なしで。そういう描写が書きたいポイントじゃなかったので。ダメかなぁ。

There are no deliveries on Sunday.(日曜日には配送しません)という注意書きを見て題をつけたのですが。
恋人には配達しません。英語合ってるのかな…(汗)。



 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


No Delivery to Lover !




◆◆◆
 CMの撮影なんて、誰か代役を立てられないだろうか。
 勿論、口には出せない。
 しかし、キースからの電話で急な予定の変更を知らされたときに、まずイワンの脳裏に浮かんだのはそんな頭の悪そうなことだった。
 いくらスカイハイがマスクとスーツを着用しているからといって、中身が誰でもいいはずがない。
 中身が誰でも構わないのなら、それは単なる着ぐるみだ。ヒーローではない。たとえ、それがCMの撮影だろうと出演を望まれているのがスカイハイであるのなら、中身が誰でもいいはずはない。
 第一、科学技術の粋を集めた特注も特注品であるヒーロースーツは、キースの体型に合わせて作られているのだ。
 おいそれと誰かに着せるわけにもいかない。
「すまなかったね」
「それ、もう五回目くらいです」
 イワンは苦笑した。
 こじんまりとしたレストランの奥まった席で、キースは見るからにしょんぼりとして、けれど旺盛な食欲を見せていた。
 最後の皿をウェイターが下げ、コーヒーとデザートをお持ちします、と注げた。
 当初の予定では、スカイハイのCM撮影は今日一日で終了する予定だった。夜も遅くならないうちに撮影は終了となって同時にオフに入り、明日一杯は骨休めをするはずだった。
 イワンもそれに合わせて休暇を取っていた。といっても何か計画があるわけでもない。キースの部屋に泊まって、のんびりとした休日を過ごすだけだ。
 その「だけ」が二人には楽しみだった。
 多忙な日々の合間を縫って、一緒に過ごす、それだけのことが。
 予定の急な変更を告げた電話でキースは、もしよかったら一緒に外でディナーにしないかと持ちかけたのだ。
「何を思ってあの監督は夜明けだなんて言い出したものか」
「あ、でも、僕もそれ格好いいと思いますよ」
 イワンは、そこだけは本気で主張する。
 短編とはいえ映画の監督でもあるまだ三十代の男が、今回のCM撮影でメガホンを取った。
 午後一杯を使ってスタジオ撮影、そして夕暮れの中、シュテルン湾を臨むハーバーでロケを行ったあと、監督はモニタの前で頭を抱えていた。
「あのー…やっぱりこのシーン、夜明けでも撮りたいんですけど。でも、というか、むしろ夜明けで」
 ダメですかねぇ、という顔をしながら、でも譲れないなぁと言いたげな声音だった。
 広告代理店の担当者が慌て出し、現場に詰めていたCMスポンサーの企業の社員たちが額をつきあわせ、それを撮影スタッフが固唾を飲んで見守る。
 しかもキースにとっては運悪く…監督にとっては運良く、明日の天気予報も快晴だ。きっと美しい夜明けが撮影できそうだった。
 結局のところ、今のイワンのように監督の意見に賛同して『確かにそっちのほうが格好いいだろうなぁ』という声が多く、広告代理店の社員たちが一列に並んで、スカイハイとポセイドンラインの関係者たちに直角に頭を下げることでカタがついたのだった。
「格好いいCMもいいけれど、予定が潰れて残念だよ、私は」
「僕だって残念ですよ。でも、別に潰れたわけじゃないでしょう、予定」
 確かに今夜はホテルに宿泊することになってしまった。だが、スムースに撮影が終われば、明日キースは午前中のうちに開放されるのだ。
「君は大人だね」
「えええヤダヤダこのまま一緒に帰りましょうよ、なんて僕が言い出したら困るでしょう」
「これ幸いと家に帰るかもしれないよ」
「嘘だぁ」
 ウェイターがやってきて、デザートとコーヒーを運んできた。
「……少し、寄っていく?」
 別れ難くなったのか、キースはそんなことをぽつりと言った。
「え、いいんですか」
 CM撮影の前泊のためにとられた、ホテルの部屋に寄ったりしてもいいものだろうか。
 とはいえ、見張りをつけてあるわけでもない。構わないだろう。
 仕事上のことではアドバイスを求めたり頼ることの多いのはイワンのほうだが、プライベートではときどきこうやって子供じみた甘え方をされることがある。
 遠目から見ているうちは、キースのことをどこまでも完璧に違いないと信じていた。もしも、いわゆるダメなところを見つけたら幻滅してしまうかもしれないとイワンは考えていたのだが、今のところそうはなっていない。
「じゃあ、お邪魔します」
「ここのディナーは随分ボリュームがあったから、散歩しながら行こうか」
「ですね」
 日本式に「ごちそうさまでした」と手を合わせてからイワンは席を立った。


◇◇◇
 撮影の前泊のためのホテルに寄って行かないかと言い出したことに、キースは自分でも驚いていた。
 イワンはといえば、少し目をぱちぱちさせただけで、軽く「いいんですか」と応える。
 その反応に、キースはなぜだか叱られているようなバツの悪い気分になった。
 あまり上手いとはいえない、ほとんどあからさますぎる誘い文句だ。
 イワンが含み笑いでもして了解してくれていたら、少しは胸のつかえが拭われるだろうか。
 しかし、そんな姿は想像できずにキースは苦笑してしまう。
 ロビーでエレベーターを呼ぶと、扉が開いて無人の箱が現れた。広く、大きい。
 キースの指が押した階数ボタンを見て、イワンが言う。
「ああ、僕、耳がキィーンってなるほうなんですけど」
「弱いんだね、耳」
「耳っていうか、三半規…管……」
 広い箱の中。もっと離れて立っていてもいいはずなのに、キースはイワンの左後ろにぴったりくっついていた。
 キースの手がイワンのウエストに回って、唇が耳に近づいて、そこに押し当てられた。
「え……」
 わざとらしく音をさせて離れていった唇。離れ際にふぅっと耳の中に息を吹きかけられる。
「わぁ」
「弱いんだよね、耳」
「……ここ、カメラついてますよ」
「さすがは見切れ職人。でも、こういうところの映像は事件でも起こらなければ再生なんてされないよ」
 今度はもっと大胆に首筋にキスを落とす。
 イワンは振りほどこうとはしなかった。わずかにではあるが、恋人がキスしやすいように頭を傾げさえしている。
「寄って行かない、ってこういうのだったんですか……」
 ほんの少し悔しそうにイワンはつぶやいた。こういうの、という言い回しにキースが低く笑う。
「嫌なら、ロビーまで送ろうか」
 キースの指が階数ボタンを指す。
「……今の結構ひどいです」
「……じゃあ、キスしながら行く?」
「え、廊下を?」
 ダメですよそんなの、とイワンが早口で言っている間に、エレベーターは目的の階に着いた。ポーン、という間の抜けた音が響く。
 広い廊下には、誰の姿もない。
「やった」
 キースが言うと、イワンは思わずその背中をはたいた。
「あーもう、何ですか、それ」


 仕事のために宿泊する部屋で抱き合うことについてはイワンも了解したようだったが、いま入ってきたばかりのドアに背中を押しつけて深いキスをはじめると、イワンは両手でキースの胸を押し返してきた。
「やっぱり嫌?」
「じゃ、なくて」
 自分のジャケットを脱いで放り捨て、イワンの上着についても同じことをしようとすると、腕がひょいひょいと逃げ回って、袖を抜かせようとしない。
 どっちみち上着なんてどうでもいい。その下に着ているタンクトップを捲り上げ、そこから手を入れてその下の肌に性急に手を這わせると鋭い声があがる。
「時間、ないからですか」
「それもあるけどね」
 ちょっと寄り道してもいいかな、という感覚でついてきてしまうイワンを無性に欲しくなったのだと教えても、わかってもらえるかどうか。
 他の誰も、自分のような目で彼を見ていないといいけれど、とキースは強く思う。
 キスの合間にベルトのバックルを手荒く外し、ついでジッパーを引き下げてしまうと、イワンは抵抗らしい抵抗を見せなくなった。
 上半身は着込んでいるのに下衣は膝のあたりまで下ろした格好を、もう恥ずかしいとか考えるまでもないくらいには蕩けかけているらしい。
 期待感で形を変えはじめているものにキースは指を伸ばす。 
 吐息に隠し切れない熱っぽさが混じって、膝がふらつきかけているイワンをくるりと反転させる。ドアを向いてそこに手をつかせた。キースは背中から覆いかぶさる。
 キースも自分のジーンズを寛げる。さっきからその下にあったものを、イワンの腿に押し当てる格好になってしまっていたはずだ。
「ねぇ、あの……せめて」
 体温が上がって、けれど脱ぎたがらなかった上着のせいで額に汗を浮かべて、イワンは弱々しい声で訴える。
「……ベッド、に…行きましょう、よ……」
「幾らなんでも、そんなひどいことはしないよ」
 いつだって、イワンのほうが焦れてしまうくらい準備に準備を重ねて慎重に受け入れてもらっているのだ。ほとんど慣らしてもおらず、しかもこんな体勢で最後までしようとは思っていない。
「ちが…い、ますよ」
 イワンが後ろに手を伸ばそうとしてくる。その途端に上半身がずるりと滑ってしまいそうになった。キースはその手を取って、ドアに押しつける。
「僕が、ちゃん…と、したい、から…」
 聞こえないふりをして、首根っこを甘く噛む。
 膝を閉じさせて、内腿の間に自分の熱を押し込んでいく。
「これ…や、だ……」
 じれったい刺激にイワンの腕にサッと鳥肌がたつ。
 キースは前に手を回して、天を仰いでいる器官に指を絡めて上下させた。
 イワンは金属の冷たさにすがるように、右のこめかみと頬をドアに押しつけると目を閉じた。キースの動きに合わせて揺れはじめる。
「……あ、っ」
 その姿勢のまま、イワンが助けを求めるように視線を向けてくる。
 視線の意味は、すぐにキースにも理解できた。
 誰かが廊下をやってくる物音がするのだ。その人物は、別の誰かを呼び止めて会話をはじめる。何を話しているかまではわからないが、会話の雰囲気からして客と従業員か。
 かすかに首を左右に振るイワンが顔を歪める。
 動かないで。声をあげたくない。聞かれてしまう。そういう意図だろう。
 ドアに耳を押しつけているイワンには、もっと二人の声がクリアに聞こえるのかもしれない。
 キースは背を丸めると、イワンの耳元でささやくように言った。
「……噛んで」
 ドアの上でイワンの左手をその上から包んでいた左手をほどく。
 キースはそれを短く荒い呼吸を繰り返すイワンの口元に差し出した。
「え……」
「噛んで」
 指の太さには足りないほどの隙間を開けている唇の間に、爪の先を挿す。
 イワンがきゅっと目をつぶった。数秒経ってから目と口をゆっくりと開ける。
 指の関節にふわふわと鼻息がかかるのがわかった。舌と唇で手繰り寄せるようにして、イワンは人差し指と中指を第一関節まで飲み込んでいく。
 まだ眉を寄せたままの顔で、イワンが視線を背後に向けてくる。
 泣き出してしまう一歩手前のような、それでいて何かを諦めて手放したような表情。
 ひどいことをしている、と思う。いつも、そう感じる。
 いつでも、彼は快楽に没頭する寸前にこれに似た表情を見せる。
 その度にキースは、自分が世界で一番悪い人間になったような錯覚をおぼえた。
 本当はこんなことをしたくない? そう訊いたら、彼はきっと首を横に振るだろうけれど。
 そんな恐ろしいことを尋ねた試しがない。いつも、うわ言のように繰り返してくれる『好き』という言葉だけを信じるようにして事を進めてしまう。
 指先にイワンの歯が食い込んでくる。指紋の上あたりを舌先がぴちぴちと叩く。
 指の一本や二本、食いちぎられても構わないような気分だ。
 癖のある白銀の色の髪をキースは鼻先でかきわけていって、覗いた耳朶を柔らかく食む。イワンの背が跳ねた。
 それが合図になったかのように、動きを再開する。
 廊下から立ち話の声はもう聞こえなかった。
 それでもイワンは口の中にキースの指を残したまま、くぐもった声をあげ続けた。


◆◆◆
 いま、ドアを見上げたら、その真ん中あたりに額の汗と頬の脂がべったりと模様を残しているだろう、とイワンは荒い呼吸を繰り返しながら考えた。
 どうして、こんな場所ではじめてしまったのか。
 二人してほとんど同時に弾けて、膝からも腕からも力が抜けきったイワンはずるずるとその場にくずおれてしまった。
 入り口から一歩どころか半歩くらいしか入っていない場所で、ぐったりと横倒しになっている自分の姿に笑いがこみあげてくる。
 笑えそうなのに、荒い息のせいでしゃくりあげる子供のような声が少し漏れた。
「イワン……」
「あ…平気、です……」
 キースはこめかみにキスを落とすと、イワンを背後から抱き上げるようにして立ち上がらせた。
「……ベッドに、行こうか」
 そういえばさっき自分がその提案をしたことを思い出して、今度こそイワンは噴き出してしまった。


 結局、次に向かった先はベッドでなくバスルームだった。
 バスルーム特有の妙に白々とした明かりの中で、イワンはキースの左の指先に目立つ歯型を見つけてしまう。しかも、片方にはうっすらと血が滲んでいる。
 謝ろうと開きかけたイワンの唇に、キースの人差し指の先が押し当てられた。傷のないほうの。
「君に謝られたら、私は向こうの窓から飛び降りでもしなきゃならなくなる」
「そんなこと……」
 言いかけて、イワンはキースの指をどけた。
「いやいや、キースさん飛べるじゃないですか」
「ああ、そうだった。じゃあ今のは無意味だね」
「そうだった、って」
 冷蔵庫の中身を思い出したような言い方に、イワンは笑う。
「……ええと…もしかして」
 笑い終えたイワンが神妙な顔で口を開いた。
「あの……ああいうことしたがってるの、自分だけだと思ってます?」
 自分のつけてしまった、あからさまな歯型を見下ろしながら続ける。スーツは着るのだが、明日の撮影のときに誰かに見咎められはしないだろうか。
「何ていうか、僕にはそういう欲求がないみたいに、考えてません?」
 ムードの作り方も、その読み取り方も、誘い方もわからないだけだ。いや、それってつまり全部分からないということか。
 ただ、イワンは不安にも感じていた。この年上の恋人が、自分のそういう初心なところを気に入っているのだとしたら。
 黙っていても歳はとるし、可愛げなんて薄れてしまう。照れが減って、羞恥や大胆さにも耐性がつくだろう。そうしたら、自分たちはどうなるのだろう。
「そうかな……」
 キースは、ぴんと来ないらしくて遠い目をしている。
「考えてみて下さいよ。キースさんの目の前にいるのは、セックスを覚えたての頭の悪いガキなんですけど」
 普通、やりたがって当然だろう。雨乞いみたいに、天に向かって次の機会を与えてくださいとお願いするくらい。その上、イワンにはすぐそばに多忙とはいえ恋人までいるのだ。
 意外なことを聞いたという顔で、キースが顎を引いてイワンの顔をまじまじと眺める。
「そうか…でも、頭が悪いとも子供だとも思ったことはないよ」
「論点はそこじゃないです」
「最初のは否定しないけど」
 覚えたて、ということか。イワンは唇を尖らせた。キースが笑い出す。
「だから、論点はそこじゃないですって」
 キースが笑い止もうとしないので、イワンはシャワーの湯を浴びせてやった。


 次に抱き合ったのは、ベッドの上でなくて大きな窓を背にしたソファの上だった。
 したことがない場所でしてみたい、とイワンがリクエストしたわけでは、勿論ない。
 ふかふかと柔らかすぎる高級なベッドと寝具は眠るのには最適そうだったが、恋人どうしの愉しみに使うのには適さなかったからだ。
 ここは街の中心部に建てられた高層ホテルの上層階だ。星屑を、それも密に敷き詰めたような街の明かりが窓の外には広がっている。
 イワンは眼下の夜景に目を奪われる。恋人の腰を膝ではさみつけながら。
「……イワンくん」
「え、あ、はい」
 キースの肩に手をかけた姿勢で窓のほうに首を伸ばしていたことに気づいて、イワンは上体を元の位置に戻す。
「景色を見てたの?」
「キースさんの部屋って見晴らしは最高ですけど、寝室の窓って海に面してるからこんなじゃ…、って、……ちょ、っ…あっ……」
 じわじわと侵入してきていたはずが、急に突き上げられるような動きをされて、イワンは息を詰まらせる。
「んん……ゃ…め……キース、さん!」
「君は抱き合っているときでも他所事ばかりしているくせに」
 埋まりかけていた熱を少々雑に引き抜かれて、イワンの体が支えを失ったようにしなる。
「え、何ですか、怒っ……」
 怒ったのかとキースに尋ねようとしたら、軽々と体を持ち上げられて、ソファとローテーブルの間の空間、ラグの上に仰向けにされた。
「な、何……」
「望んでしているって言うなら集中して欲しいね」
「それで景色を見えなくしたんですか?」
 イワンは首を巡らせる。ローテブルの脚と向かいに置かれたソファの脚くらいしか視界に入らない。あとは、見上げると苦笑しているキースくらい。
「集中しますから怒らないでください」
「怒ってない、拗ねてるだけだ」
「真顔で拗ねてますって言う人、はじめて見……っ、ん…ん……」
 話は終わりとばかりに両脚を抱え上げられて、さっきより深い侵入がはじまる。
 こんな狭いところでするなんて、痣だらけになっても知りませんよと言おうとしてやめて、イワンはキースの首に手を回した。
 別に夜景なんて見なくても幸せな気分になれることを証明するために。


◇◇◇
 もう一度シャワーを浴び直して。ソファに足を投げ出し、いささかぐったりしているように見えるイワンの髪にキースはドライヤーを使っていた。
 さっきまで転げまわっていたソファとラグを向かいに見ている位置に可笑しさがこみあげてくる。
 ドライヤーの騒音に負けないようにイワンが声を張りながら言う。
「もうそろそろ寝ないとやばいですよ」
「眠い?」
「僕のことじゃないです。夜明けに撮影でしょ。ってことは何時起きですか? 一発OK出さないと、明日の夜も泊まりですよ、きっと」
「昨日から、そのシーンCG合成じゃダメなのかな、とずっと思ってるんだけどね」
「ダメですよ! あの監督の映画観たことないんですか? 自然描写がほんと上手いんですから」
 へへへ、とイワンは頬を緩める。
「絶対カッコいいですよ、夜明けのハーバーとスカイハイ」
 自分の背後で髪を乾かしてくれているのがそのスカイハイだと知らないかのように、イワンはうっとりと壁の隅を見つめている。
「ときどき私は、自分に嫉妬しそうになるよ。不毛だ、実に不毛だ」
「だったらキースさんもバリバリ仕事してカッコいいところ見せてください」
 ドライヤーのスイッチを切って、おしまい、とキースが軽く肩を叩いてやると、イワンは立ち上がって大きく伸びをする。
「私が頑張って仕事をしたら、また株が上がるのはスカイハイのほうじゃないのかな」
「はいはい。僕は帰ってジョンと留守番してますから」
 イワンは元の服を着ようとして、下衣がドアのそばに積み重なっていることに気づいて「うわ」とつぶやきながら、そちらへ移動する。
「本当に帰るのかい?」
「キースさんこそ、本当に眠ってください」
 はじめからヒーローとしてのキースに憧れを感じていたせいなのか、イワンはこういうところはドライだった。
 帰ると決めたからにはくっついてもこない。普段とは違って、余韻みたいなものはサッと振り払ってしまう。
 ああだから、ゆっくりと家で抱き合いたかったのだとキースはその背中を眺めた。
「……悪かったね」
 キースが言うと、イワンがようやく振り向いた。
 少しばかりぽかんとした顔をしている。
「あー、いや、だから」
 キースが何か言いかけたのを封じるようにイワンは首を横に振った。
「キースさんは……僕があと何をしたら、そういう罪悪感みたいなのがゼロになりますか」
「……さあ」
 咄嗟にそう言い返してしまって、その返事はないだろうとキースは頭を抱えたくなった。
「ああ、いや、だから」
 イワンは神妙な顔をしている。ため息を吐き出されないうちに言い切ってしまおうと思う。
「今日の、こんなことは…まるでデリバリーみたいだ、から」
「デリバリー?」
 電話帳を開くと(なぜホテルにはいまだに電話帳が置いてあるのだろう、聖書は理解できるとして)真ん中あたりに必ず載っている、セクシーなイラストつきの広告。
 寂しい人に愛をお届けします、なんていう誘い文句の。
「……セックスのデリバリー?」
 何を言わんとしているか思い至ったらしいイワンは、しかしキースの予想に反して怒り出しはしなかった。
「キースさんは人が好いですね、ほんとに」
 それどころかくすくす笑ってさえいる。
「僕らって恋人どうしですよね?」
「……ああ」
「見知らぬ人ならデリバリーになりますけどね。こういうところに来て、こういうことをして、サッサと帰っちゃう恋人のことを」
 イワンは言葉を切った。
 まだわかりませんか、と尋ねるように見つめられている。キースは押し黙った。
「そういうの、ヤリ逃げっていいません?」
 くるりと背を向けて、床に放り出してあったバッグを拾い上げる。
「じゃあ、お休みなさい」
 文字通り逃げ出すようにイワンは部屋を出ていく。笑い出したキースを置き去りにして。
 夜が明けるまで、あと6時間と少し。



There are NO DELIVERIES to LOVER !! ―― END


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Posted on 2012/02/17 Fri. 10:21 [edit]

category: SS(空折)

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