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空折 「客観的に見て、彼らのほうが正しくても」 


つきあいたてな二人。
ぐるぐるするイワンと、天然なのか傍若無人なのか…なキース。
でもイワンは逆ギレしたら怖そうかな、と(笑)。美人は無表情だと怖いですよね…。


 ・ ・ ・ ・ ・ 

客観的に見て、彼らのほうが正しくても
 Viewed objectively, they seems to be right, right, but …



 日付の変わった街を歩くのは、はじめてではないがほとんどしてこなかった経験だった。
 その経験というのも、イワン・カレリンとしてではなく、ヒーローの折紙サイクロンとしてだったのではないか、と記憶をたぐる。
 世間で言うところの、いわゆるオタクな趣味を持つイワンは、今日から、つまり深夜0時から発売だという商品の購入ためにここまで足を延ばしていた。
 それもおまけ目当てに、自分の住むシルバー・ステージの店ではなく、ブロンズ・ステージの店に。
 といっても層を降りるだけで、いつも行く店と距離としてはさほど変わらないのだが。
 一仕事を終えて、冷えた体を暖めようと思いつく。
 路地を覗いて、目についた適当なカフェに入った。
 天井から吊るされたTVではアメフトの試合が流れていた。それを見上げてビールのボトルを手にしているお客も多いが、遅い食事を楽しんでいるグループも、コーヒーとマフィンか何かをつついている女性もいる。
 人々がそれぞれに楽しんでいるざわざわした空気が、悪くなかった。
「コーヒーだけでも大丈夫ですか?」とイワンが尋ねると、店員は「ええ」と答えた。
 さっきのお客を見て小腹が空いてきたイワンは、「やっぱり追加で」と小さなサイズのパンケーキも注文した。
 買ってきた店のロゴが入った手提げ袋をテーブルの上に置いて、それを満足そうにながめつつ、雑誌をめくりながらコーヒーとパンケーキを平らげる。
 きりのいいところまで読んだら出ようとしていると、何か予感を感じたものか、イワンはふっと顔を上げた。
 すぐに「うわ」と小声を零して、イワンは読んでいた雑誌の角度を変えて顔を隠す。
 ひとつテーブルを挟んでいるが、すぐ隣のカップルの、その向こうに通されたメンバーが問題だった。
 二十代後半らしい、男ばかりが四人。
 そのうちの一人は、どう見てもキース・グッドマンなのだ。
 しかし、考えてみれば彼にもヒーロー業以外での友人がいてもおかしくはない。
 イワンはこっそりとその様子を伺う。
 長い付き合いなのか、同い年くらいの男どうし、打ち解けた様子だった。
 キースは……スカイハイは、恒例のパトロールを終えてから合流したのだろう。
 時間帯を考えても当然だろうが、キース以外の面々はもうかなり出来上がっているらしい。
 とりあえず、の一杯目の飲み物が出てきて、ナッツやチーズを齧りながらわいわいと会話が始まる。
「最近も相変わらずかよ」
「キースは仕事が命だからな」
「せっかくいい男なのに、有効活用しようぜ」
 どうやら恋愛面について尋ねているらしい。
 いつもならキースはよく通る声なのだが、このざわざわしたカフェの中、酔いの回った友人たちとの会話では、キースの声はあまり聞こえてこない。
 キースが頭を掻いて何か答えた。
「え、うそ!」
 一団はざわめきだす。
「おお、やったな! どんな子?! 写真ある?!」
「いつから?! 長いの?!」
 どうやら恋人がいると告白したらしい。
 イワンは固いスチールのイスの中だったが、ずるずると沈み込みたくなった。
 だって、キースの言う『恋人』というのは、ここにいる自分のことなのだ。


 適当に話を合わせることもできただろうが、キースは言葉を選びながら話し始める。
 欲目ではないはずだ、とイワンは思う。キースも誰かに話したかったのだろう。
 その様子は本当に嬉しそうで、同席している面子はにやにやした顔になった。
「付き合いたてかよー、一番楽しいだろ、今」
「仕事ばっかしてるとフラれるぞ」
 などと、羨ましいと言わんばかりだった友人たちが、キースが話を進めるにつれて顔を曇らせていった。
「……なぁ。それ、重くない?」
「あー…そういう子、合わないんじゃない?」
「で、お前がはじめての恋人なワケだろ。えー、きっついわ」
 そのたびにキースは、そんなことはない、というような声を上げるのだが、友人たちは揃ってイヤイヤイヤと首を振った。
「そんな美人で今まで誰からも告られたこともないとか…逆に問題あんじゃないの、なんか」
 おお、とか、ああ、とか同意の声があがる。
「美人でもそういう子、オレはムリだわ」
「つーか不感症っぽいカンジする」
「そうそう、詰まんなそう。協力する気ゼロでさ。はいどうぞ、お好きなようになさって、みたいな」
 酒の入った若い男たちの会話だけあって、段々とあけすけな内容になってくる。
 ああ、もう無理だ、とイワンは唇を噛んだ。
 ここでキースが一言でも「そうだなぁ」なんて応えてしまったら。うなずくのが見えてしまったら。
 そう思うと、ここから早く離れたくて仕方がない。
 イワンのほうでも、ちゃんとキースを好きなのだけれど。
 まるで押し切られて付き合っているように見えるかもしれないが、イワンだって以前からそうなれたらと思っていたのだ。何の行動も起こせなかったが。
 話しかけられても、まともな受け答えができるようになったのもつい最近で。手を握られたら飛び上がりそうになるし。
 ほんの数日前、はじめてキスをした。
 頭が真っ白になってしまって、何か話しかけられていたのだが(たぶん「好きだ」とかそういった甘い言葉なのだろうが)ぽかんと見つめ返してしまった。
 懸命に努力した結果で、この状態なのだけれど。
 あの日。キースは小さく笑って、身体を離すと、友人にするみたいに軽くハグをしてくれた。
 確かに他人様から見たら、そいつホントにお前のこと好きなの? と聞きたくなるレベルだ。


 キースの友人たちがああ言うのも、仕方がない。
 イワンはそろそろと席を立った。
 タイル張りの床にスチールのイスはガリガリと嫌な音をたてそうだ。
 なるたけ、そっと立ち上がろうとする。
 その時、肘に微かな違和感があった。咄嗟にテーブルの上に目をやる。コーヒーカップは無事だ。荷物も手の中にある。
 カシン、と硬い音をたてて床に水のグラスが転がった。溶けていない氷が床の上を跳ねる。
 ヒーロースーツを着て現場に出ていれば、万が一にもこんな失態はしないだろう。
 いまはプライベートで、夜遅くまで起きていて、しかも聞くべきではないようなことまで耳にして平静でないとはいえ、お粗末な行動だ。
 グラスを拾い上げるか、そのまま出て行ってしまうかイワンが躊躇しているうちに店員が駆け寄ってくる。
「お客様、大丈夫ですか? お怪我は?」
 酔っ払いの多い時間帯の仕事に慣れているのだろう。店員はイワンが酔っていないとわかると、周囲の客に迷惑がかかっていないか、備品が壊れていないかと視線を走らせる。
「す、すいません」
 屈みこんでグラスに手を伸ばそうとするイワンを店員が押し留める。
「片付けはこちらでやりますから。グラスも無事ですし」
 グラスは厚みのあるプラスチック製のようで割れてはいない。イワンが荷物を持って立ち上がったことを確認して、帰ろうとしていると判断した店員は笑顔で送り出そうとした。
 そこに、降ってくる声。
「――大丈夫かい?」
 イワンの心臓が止まりそうになる。呼吸は数秒間、完全に停止した。
 思わずしゃがみこんだ。視界の端で店員が「え?!」という顔をしている。それはそうだ。つい数秒前に見たイワンは素面だったのに急に倒れたのだから。
 拾ったグラスで手が塞がっている店員の前に回り込むようにして、イワンに近づいてきたのは、黄色味の強いブロンドの人物だった。
 立ち上がりたくない、とイワンは強く願ったが無駄だった。
 実用向けにビルドアップされた腕が、背後からイワンを抱きこむようにしてその両肩に手を添える。
「……ずっとここにいたんだね」
 後ろから耳元に囁きかけられた。
 聞きなれた、だが、こんな近くで抑えた声音を聞くのははじめてかもしれない。
「キース、さん……」
「聞いてたの?」
「すいま…せ……」
 謝る必要はないのかもしれない。たまたま同じ店にいて、たまたま近くの席に座っていた。イワンのほうが先に席についていたのだ。そこにキースが来て、友人たちとの他愛ない話を耳にしたくらいでは、謝る必要はないはずだ。でも、内容が内容だ。イワンの謝罪の言葉は曖昧で、さっきの友人たちの批評を裏付けるものみたいに、自分でも思えてしまう。
「おーい、どうした?」
「その子、平気?」
 キースの友人たちが騒ぎ出した。
「酔っ払っちゃってんの? 店の人に任せとけって」
「前もそんなんあったなー。みんなで出掛けた先で、具合悪くなった人を病院に運んでってこいつだけフェードアウトって」
 あったあった、と皆で笑いあう。
 その時、イワンの背後で小さくキースが息を漏らした。ふっ、と。
 どうしたものか、と躊躇うように。迷っているみたいに。
「……あの」
 次の瞬間、イワンは顔を上げると、キースの友人たちに視線を向けた。
 長い前髪の下から覗く、珍しい紫色の瞳。
「関係ないんじゃないですか」
 小心者なのを知っていればいざ知らず、初対面でこの瞳で睨みつけられたら結構腰が引けてしまう、目つきの悪さ。
「この人の、恋人の話なんでしょ。それ、あなたたちには、関係ないんじゃないですか」
「え? なに?」
 友人の一人がどうにか、といった感じで聞き返す。
 見ればイワンは、そこら辺にたむろしている不良少年じみた服装をしているし、相当酔っ払って、足元もフラついていると思っているのだ。まともな勤め人たる彼らは関わり合いになりたくないという表情になっていた。
「だから。この人が」
 イワンは背後を見ずに、親指を立てて、そこにいるはずのキースの顔のあたりを指した。
「自分で決めて、好きだって言ったんでしょ。なら、他の人には関係ない。実は、そいつが滅茶苦茶イヤなヤツでも、どうしようもなくても……ヤッてみて詰まんなくても、向こうが絶対別れてなんてくれないかもしれないし」
「……はぁ」
 毒気を抜かれたような顔で友人の一人が相槌を打つ。
 イワンは腕を下ろした。その手首を掴んでくる手に気づいて、飛び上がりそうになる。
「そうだね」
 キースは言った。
「うん、この彼の言うとおりだ」
 イワンは腕を振って、キースの手を払いのけようとしたが、すでにガッチリと握りこまれている。
「いいことを言ってくれた。でも、君は酔って足元も覚束ないみたいだから、私が送っていくことにしよう」
「……え」
 とつぶやいたのはイワンだが、その目の前でキースの友人たちも口々に同じような声を漏らす。「やめとけって」とハッキリ言う者もいた。
 キースは片手はイワンの手首を掴んだまま、もう一方の手でポケットを探る。一杯だけの金額には多そうな紙幣をテーブルに乗せると、その手を顔の横で軽く振った。
「じゃあ、また。連絡するよ」
 唖然としている友人たちを置き去りにして、キースは店を出ていく。手首を掴んだイワンを引きずるようにして。
 二人の姿が消えてから、友人の一人がぽつりと言った。
「プラチナみたいな色の髪に、小ちゃくて整った色の白い顔に、紫色の目に……って、今の子、キースの言ってたカノジョの特徴そっくりなんだけど」
 とりあえず、とキースの置いて行った紙幣を自分のポケットに捩じ込む。
「……怒ってたよな、あれ。もしかして、その弟、とか?」


 日付が変わっても、繁華街は賑わいを見せていた。
 さっき出てきたばかりの店に似た、スペイン風のバルは満員らしく、表のテラスでも何度目かわからない乾杯をする人々がいる。
 クラブのハシゴをする少女たちが、次はどこへ行こうかと上気した頬をつきあわせていたり。そこにナンパ目当ての少年グループが声をかけたり。
 あまり夜の街に慣れていなさそうな大人しい風采の少年たちが、イワンの下げているのと同じマークの手提げ袋を持って話し込んでいたり。
「ああ、今日は何かの発売日だったんだね」
 すれ違った少年たちの手提げを眺めて、キースは言った。
「そう、です。……あの、キースさん、手を」
 イワンの手首はまだキースと繋がったままだ。もう店を出ていく時ほど強くは握られていないが、離す気はないというように指が巻きついている。
 キースと手を繋いだ(と呼べるか疑問だが)まま歩いているという状況は、イワンを落ち着かなくさせた。
 ここはブロンズ・ステージで知り合いはいそうにないが、それでもあまり居心地はよくない。
 夜の街をうろついている人々は、みんな自分の楽しみに夢中らしくて二人の繋いだ手に視線を落とす人はまだいないが。
「さっきのは、謝ります」
 イワンが小さな声で言ったが、キースの返事はかなり経ってからだった。
「『いいことを言ってくれた』と私は言わなかったかな」
「え?」
「君の言うとおりだと思ってね。あの日、『自分で決めて、好きだって言った』んだ、私は」
 キースは怒っているわけではなさそうだった。
「続きはなんだっけ?」
 どちらかと言えば、どこか楽しそうな色のついた声。
「『そいつが滅茶苦茶イヤなヤツでも、どうしようもなくても』……それから」
 自分の発言を思い出して、イワンは頬に血をのぼらせる。
「……『ヤッてみて詰まんなくても』?」
「……っ」
 イワンは首を曲げて、道の反対側を見た。カップルが長々とキスをしていた。慌てて首の位置を戻す。
「口が滑ったんです。うっかり、僕は」
「あれは、本心じゃなかった?」
 キースが足を止める。手を繋いだままなので、イワンも歩みを止めることになった。
 他人から酷評されて。でも客観的に見たらあれが事実だろう。呆れてしまうようなのが自分だ。
 ショックを受けて。それで、ついあんなことを言ってしまった。だけど。
「嘘では…ないです」
「『向こうが絶対別れてなんてくれないかもしれないし』?」
「嘘じゃ……ない、です。それも」
「嬉しくて、聞いたらすぐ覚えてしまったよ」
「今から嫌われても、別れてあげる気なんて、ないです」
 こっちだって、前から好きだったのだ。好きだと告げられても、どうしていいかわからないくらい。
 自分の爪先を見たまま、言い聞かせるようにイワンは言う。
 途端にキースの手がパッと離れて、イワンは思わず顔を上げてしまう。
 けれど、それは杞憂だった。キースは腕を伸ばすとイワンを抱き寄せた。
 友人にするハグではなく、しっかりと腕を背に巻いて抱き締める。
「君はイヤなヤツどころか、沢山魅力がある。どうしようもないどころか素晴らしい人間だ」
「え、あ、はい?」
「じゃあ、心配の種はあとひとつだね?」
「……え」
「詰まらないなんてこと、きっとないと思うよ」
 自分のセリフを思い出そうとする。何だかとんでもないことを言わなかっただろうか。
『そいつが滅茶苦茶イヤなヤツでも、どうしようもなくても……ヤッてみて詰まんなくても』
 そういえば、キースはもう覚えてしまったなんて、言っていたし。
 イワンは自分を見つめている青い瞳を覗く。いつもより、少し潤んだように見えるのは、一杯のビールのせいだけではないらしい。
「さっき買ってきたのはゲームソフトか何か? それで遊ぶのは少し待ってくれないだろうか」
「あの、ちょ…今から?」
「できることなら空を飛んで帰りたいよ」
「それだけはやめてください! 人通りがありすぎます!」
「じゃあ、ゆっくり帰ろうか。一緒にね」
 キースが体を離して、今度はきちんと手と手が繋がれる。
「……ほんとに、口が滑りました」
「でも、本心だったんだよね?」
 キースは呑気そうに笑っている。
 イワンはうなずいて、細く熱い息を吐いた。
 キースの家まで所要時間はどれくらいだろう。イワンが覚悟を決めるために費やせる時間は。


 ■ E N D ■

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Posted on 2012/02/07 Tue. 23:30 [edit]

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