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空/折 「木曜の密航者」 

うっかり酔っぱらった折って、たぶん皆さん色んなところでお書きでしょうが…やってみたかったんです。また、カプと腐向けタグがビミョーです、が、少しは進展、した…のかな…?あっ、車に関しては全然わからないので(車酔いする・乗ってもすぐ寝る)ヘンなところあったらご指摘下さい m(_ _)m ヒーローズがガヤガヤやってるところを書くの楽しいです~


木曜の密航者
   ― Stowaway on Thursday



 木曜の夕方。
 打ち合わせのあと、特に予定がないヤツは食事に行こうぜ、と虎徹の音頭取りでヒーローたちは街に繰り出した。
 テレビ収録の予定があったバーナビーと、オーナー業が忙しいネイサン以外はその店に集合した。
 和食好きがいるからここな、と虎徹が皆を引っ張ってきたのは、和をテーマにしたダイニングらしかった。
 居酒屋と呼ぶのは申し訳ない小洒落た雰囲気だが、ほぼ満席の客たちの盛り上がり方は居酒屋のそれだった。
 店員たちもてんやわんやで、注文したものと違う飲み物が届いたのが事の発端だった。
「ねえ、もしかしてオリ…じゃなかったイワン、お酒飲んでない?」
 カリーナが不審そうな顔になる。その可愛らしい指で差されているのは、いつもより三割増しの大きな声でさっきから同じことを何度も繰り返すイワンだった。頬も何だか赤い。
「へ? 飲んでませんよ! ちゃんと! ソフトドリンクを、頼みましたー!」
 普段ならそんな返事しないんじゃ、と言うカリーナ。アントニオがイワンの前にあるグラスを掴んで一口飲んだ。
「……酒、入ってんな」
 今日はけっこう甲斐甲斐しく注文や料理の取り分けを頑張っていたパオリンに皆の目が向く。
「何を注文してやったんだ?」
「はじめはグレープフルーツジュースを頼んだけど、グレープフルーツサワーが来たんだよね」
「なにぃ? それ飲ませたのかよ?」
「うん。サワー、ってサワードリンクでしょ。健康にいい、お酢の……」
「サワーっちゅうのは焼酎を割ったやつ! おい、どんだけ飲んだんだよ!」
 虎徹がつんのめりそうになりながら、パオリンにツッコミを入れている。
「きゃあ! なんかパパから電話かかってきちゃった! ちょっと静かにしてよ!」
 カリーナが携帯電話を振りかざしながら叫ぶ。結局、みんなを押しのけながら店の外へ出て行った。
「その次も、次もサワーって名前のやつだよ。だって、ジュースの欄より色んな種類があるんだもん」
「お前もサワー飲んでるのか?! もう、今すぐやめろ!」
 ああ、やっぱりこれお酒だったのか、とイワンは緩む口元を隠そうともせず考えた。
 いくらイワンがぼうっとしていても、それくらいはわかる。どれくらい酔いが回るのかまではわからなかったが。
 パオリンのほうはちっとも酔った様子はなく「そういえば酸っぱくなかったな」とケロリとしていた。
「大丈夫かい?」
 向かいの席からキースがわずかに眉をひそめて尋いてくる。
「あはは、大丈夫です、いつもより、なんか楽しいです!」
 そう、と少し笑みを深くすると、キースは虎徹とアントニオに言った。
「私はアルコールを飲んでいないから、何なら彼らを送っていくよ」
「え? 飲んでないの? で、車で来てるってこと? なんで?」
「この後、パトロールをするつもりだからだよ」
 えええ、と年長者二名から感心というよりは非難めいた声があがる。
「習慣だからね。やらないと、落ち着かないだけさ」
「あたしパス、タクシーで帰る。それも今すぐ帰んないとヤバイ。両親のご機嫌が斜めっぽい」
 あちゃー、と自分も娘を持つ虎徹が苦い顔をした。
「悪かったな、遅くまで。明日も学校だったな、すまん」
 虎徹が片手をかざして頭を下げると、カリーナは頬を赤くして「別にいいわよ」と早口で言った。
「ねぇパオリン、一緒のタクシーに乗ってって。お願い」
「いいけど、なんで?」
「ウチに先に回ってもらって、女の子と一緒にいましたって見せないと。次から仕事終わりの食事とかダメって言われそう」
「ふーん、いいよ。じゃあ、ナターシャさんにお迎えはいい、ってメールする」
「よろしく。あっ、そんなワケでごめん。せっかくだけど」
 カリーナはキースに詫びた。
「気にしないでくれ」と応えて、キースはおやっという顔になる。向かいの席を見た。一拍置いて、腰をあげると覗くようにする。
 キースの正面に座っていたはずのイワンはずるずると伸びて、椅子を腹に抱くような恰好で床に沈没していた。


 それからバタバタと精算などを済ませ、食事会は解散となった。
 ふにゃふにゃとしたままのイワンはキースの愛車の後部座席に横たえられた。
「お疲れー」
 虎徹がそう言いながらドアをバタンと閉める。
「出発するよ」
 眠りに落ちたらしいイワンに一応声をかけ、キースは車を出した。
 あとは沈黙が落ちる。聞えるのは、エンジンの音と走行音。街のざわめき。
 イワンはわずかに身じろいだ。目は覚めている。
 キースが車を回してくれている間に、気温の低い路上で待たされていたからか、かなり酔いは引いていた。
 ただ、先輩たちにあれこれ世話を焼かせた申し訳なさと、さらに一人だけキースに送ってもらえるという流れになってどうしていいやらおろおろしているうちに、ぐったりしたフリから抜け出せなくなった。
 仕方ない、家に着くまでこうしてるしかなくなってきた。
 イワンはなるべく体の力を抜くようにつとめた。
 後部座席に横になっていると、映画で見た密航者の子供になった気がした。
 息を詰めて、眠ったふりをする。
 もし振り返られでもしたら、ここからつまみ出されてしまうような気がする。
 もちろん錯覚だ。
 実際のところは、運転席に座っている人は自分の存在を認識しているはずだし、どのみちもう十数分で目的地に着いてしまえば車から降りるのだ。
 薄く目を開けると、サイドウインドウから差し込む明かりが一定のリズムで流れていく。
 街のネオン。対向車のライト。街路樹の影。
 横になった体の上をそれらが流れて消えていく。
 数日前、夜中に目が冴えてしまって、仕方なくテレビをつけた。早く眠りに落ちたいので、一番退屈そうなものを見ようとして映画の専門チャンネルでリモコンをいじる手を止めた。
 今どき珍しいモノクロ映画だと思っていたら、寒々しい荒野ばかりが映るのでそう見えたらしい。
 目論見どおり、あのあとイワンはすぐ眠りに落ちてしまった。
 貨物車輌の隅で背を丸めていた子供は、最後はどうなったのだろう。
 密航して向かう先は、希望に満ちた場所のはずだ。少なくとも、密航者はそう信じているだろう。
 自分はどうだろう。
 向かっているのは、自分の住まいだ。 
 酔ってふらふらになった自分を送ってくれているだけだ。
 家の前に着いたら、起こされて「おやすみ」と見送られて。それだけだ。
 それだけ、って。
 イワンは息を吐いた。運転席に聞こえないくらい小さく、細く。
 一体、何を期待しているんだろう。送ってもらっているだけでも、これまでと比べたらもの凄いことなのに。
 数ヶ月前の自分は、こんなことが起きるなんて想像も、空想すらしていなかった。憧れの大先輩で、口をきくだけで狼狽えて、舞い上がっていたのに。
 話したいのなら、車に乗せてもらったときに狸寝入りなどせず声をかければよかった。会話をすればよかった。
 そう考えて、すぐに打ち消す。
 自分が期待しているのは打ち解けた会話ではない。それくらい、自分でも気づいている。
 欲しがりはじめたら、駄目だ。
 運転席から咳払いが聞こえた。肩が竦みそうになる。
「……オリガミくん」
 キースの少し掠れた声がする。この二十分近く何も喋っていなかったからだ。
「もうすぐ着くよ。……寝てる、かな」
 振り向く気配はなかった。この人は脇見運転などしない人だ、とイワンは思う。
 イワンは眠ったふりを続ける。
 キースはイワンに自宅付近で道案内をしてほしかったのかもしれないが、そんなものがなくても最新のナビゲーションシステムは二人をスムーズに目的地まで運んでくれた。
 車が止まる。サイドブレーキを引き上げる音。ハザードランプが点滅し始めたのがわかる。等間隔のカッチカッチというリズム。
 起きなければ、とイワンは思った。爆睡してました、とでも言って恐縮して見せなければ。
 運転席のドアが開く音。アスファルトを踏む足音。
 瞼くらい開けなければ、と思う。えっもう着いたんですか、と言う準備をしなければ。
 この人がお酒を控えたのは、後輩を送るためだけではないのだから。この後、自宅に戻ってパトロールに出掛けるのだ。早く解放してあげなくては。
 けれど、目は開けられなかった。体も起こせなかった。頭に浮かんだのは胸が苦しい、という自分への言い訳だ。
 何だそれは。僕はこんなに馬鹿だったのか、と自分に落胆する。でも、まだ、ここで横になっていたい。見つかりたくない。馬鹿だ。どうしようもない。
 バックシートのドアが開いた。こんなに車のドアが鋭い音だったとは知らなかった。
 開いたドアは、運転席の後ろの、イワンの頭に近いほうだった。
 イワンは眠っているふりを続けた。いや、寝ているようには見えないだろうな、と自嘲する。肩やら首やらに力が入りすぎている。
 屈み込んでくる気配があった。揺すられて、起きなさいと言われるんだな、とイワンは思った。
 イワンのこめかみの脇に、手が置かれた。シートが沈む。
 声は聞こえなかった。
 シートの上から手の重みがどけられて、その手は次にイワンの髪を梳いた。
 声は聞こえない。名前を呼ぶ声も、着いたから起きなさいという声も。
 長すぎると女性陣から不評の前髪を、大きな手がそっと脇へ撫でつける。
 そんなに間の抜けた顔をしているのかな、と思う。だいぶ酔いは醒めたつもりだけど、まだ顔は赤いままなのだろうか。
 また、こめかみの脇に置かれた手。シートが、さっきよりも沈みこむ。ざり、とアスファルトとスニーカーの底が擦れる音がする。
 自分の上に乗り上げるようにして屈みこんでくる気配がする。
 何かが額に触れた。
 額に触れる、柔らかく、暖かい何か。声ではなくて、小さな息遣いを漏らした何か。
 ふっ、と笑うような音をこぼして、イワンの額からその感触が離れた。
 イワンは目を開けた。暗がりでも、朝を思い起こさせる青い瞳がごく近くにあった。
「……着いたよ。起きたかな」
 唇が動くのが見えた。つい数秒前、たぶん自分の額に押し当てられていた唇が。
 驚かそうとしたのか。からかうつもりだったのか。それとも親愛を示してくれたのか。そのどれも、誰に対してもそんなことをするのを今まで見たことはなかった。
 いまのは何ですか? どういう意味ですか? 口が開かない。声が出ない。目が回るみたいだ。もう横になっているのに、ぐらぐらする。
 欲しがっては、駄目だ。そう考えようとした。
 でも、少しくらい欲しがってはいけないだろうか。新しい土地を目指した、映画の登場人物みたいに。
 イワンは手を宙に伸ばした。指先が布地に絡みつく。フライトジャケットの袖。
 指を握りこんだ。袖の布地がかすかに鳴る。
 キースは腕をとられたまま、微笑んでいる。
 イワンは指を開かず、また瞼を閉じた。だって、ぐらぐらして、目を開けていられない。
「眩暈がする?」
 うなずく。当たり前だ。ぐらぐらする。世界が回っている。
 目が回る。胸が痛い。でも、さっきよりこの痛みはずいぶん楽になった。 
「起こしてあげよう。手を、放してくれたら」
 イワンはかすかに、けれどはっきりと首を横に振った。
 指を動かす。フライトジャケットの腕を、さらに巻き込むように指をきつく握る。
 キースの腕に指を絡めたまま目を閉じて、イワンは思う。想像する。空想する。
「もう、少し……待ってください」
 これは、新天地へと引き上げてくれる腕だ。
 息をひそめ背中を丸めて縮こまっていたイワンを、新しい世界へ。
 ゆっくりと目を開ける。
 そこには始まったばかりの朝の空の色をした瞳が待っていた。


 《 E N D 》
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Posted on 2011/11/22 Tue. 22:06 [edit]

category: SS(空折)

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