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空折 「 BUBBLE OVER with U 」 

バスルームでいちゃ…いちゃ?
Bubble over (with-) ではしゃぐ、興奮する、の意味だそうで。
×イワン(小悪魔)と「空折ったー」さんに言われたのですが、難しいー。
これは小悪魔? 違うだろうな、たぶん。 

 ・ ・ ・ ・ ・  

BUBBLE OVER with U



 バスタブに湯の落ちる音が響く。
「洗っていい?」
「あ、はい」
 もうすぐ日付が変わるという時刻の、バスルーム。
 何度目かの夜を過ごしたあと。ある程度リラックスしてそれなりにスムースに事を運び終えて。
 余韻を引きずって、蕩けたようになったイワンは、一緒にバスルームを使おうか、とキースから提案されてもさほど抵抗なくうなずいていた。
 それから、二人はときどき一緒に入浴するようになった。ただし、それは日付が変わる頃合い、つまり、行為の直後に限る。
 甘ったるい雰囲気の真っ只中にあっても、する「前」に一緒にバスルームを使おうとすれば、そのときのイワンたるや声を裏返して、ダメですムリですちょっとホントにおかしいからこれ――だのといった言葉を発するし、翌朝であっても勘弁してくださいと顔を真っ赤にして土下座しかけるのだから。
 だから、この二人での深夜の入浴は、あけっぴろげなキースと照れ屋のイワンとの妥協案なのかもしれない。
「あくび」
「え?」
「また、あくびをした」
「そうですか?」
「そう。温まったら、早く寝なさい」
 イワンが手を伸ばして、頭にシャンプーの泡を広げている間に、肩から下をボディソープの泡を生み出すスポンジが往復する…キースの手によって。
 イワンが自分で髪を洗っている間に、キースに体を洗ってもらう、というおかしな取り決めがいつの間にかできていた。
 バスタブに張った湯に浸かる習慣のないキースは、入浴時間がかからない。イワンはバスタブで体を伸ばしたい派だ。そんな二人が一緒に過ごしたいがために編み出した方法らしかった。
「キースさんは」
「ん?」
「切り替えが早い」
 先輩の顔から恋人の顔に。熱っぽく攻め立てられていたと思ったら、いつの間にか保護者みたいな優しさで微笑みかけられて。
「切り替え?」
「いまの言い方、引率の先生みたいでした」
 ボディソープを泡立てたスポンジが背中を往復する。肩甲骨のあたりを、これは両手の平でマッサージみたいにこすられる。強張りが解れて気持ちいい。
「先生みたいだったかな?」
「先生が一緒にシャワー浴びませんけど」
「浴びないだろうね。それは、とてもよくない」
 スポンジを持った手が、尾てい骨を越えていく。
「あ…自分、で」
「先生じゃなくて、恋人になら…させてくれる?」
 シャンプーを泡立てていたイワンの手が止まってしまう。
「も、それ、いいです…」
「すぐだから」
 さっき押し広げられた場所を、同じ人の同じ指が往復する。今度はひどく緩やかに丁寧に。
「……っ」
「もう終わり」
 息を詰めるイワンの耳元でそう言って、キースはフックからシャワーヘッドを取り上げた。
「自分で…するって、言うのに」
 シャワーヘッドを持ったキースの手を軽く押し戻しながらイワンは唇を尖らせる。といってもじゃれかかっているようなもので、本気で押しのけようとしているわけではない強さだ。
「いつも言われるね……何というか、つい。痛かった?」
 さっき、ベッドの中で聞いた『痛かった?』と全然違う声のトーン。
 いつもされてしまうのに。
 いつも、そこにはもうさっきまでの色合いはない。
 シーツの間でだったら感じられる、あの艶っぽくて、挑戦的で、執拗に探るような動きではないことを、毎度知らされる。
 切り替えが早いのだ。
 ひと眠りすれば、隣の善良なお兄さん然とした顔で、朝食はちゃんと摂らないとなんて、世話を焼いてくる。
 イワンが首を左右に振ると、髪を包んだシャンプーの泡が小さく千切れて飛び散る。わざとだ。意趣返しとも呼べない反撃に、キースは「わぁ」と小さく言って笑う。
「髪、もう平気?」
 イワンがうなずいたのを見て、最後にシャワーで洗い流してくれる。
 キュッ、とコックをひねる音がして湯が止められる。
 イワンの髪は濡れると真っ直ぐになった。普段より長く見える髪をイワンは指で束ねるようにして、水気を絞る。
 バスタブはちょうどよい湯丈になっている。湯を止めて、バスタブに浸かることにする。

 バスタブの中で、イワンは血色のよくなった肩から腕へ、肘から手首へと、手のひらで片腕ずつなぞっていた。
「どこか痛めた?」
「違います」
「さすってるから」
「これは」
 自分の気持ちを表すなら……勿体ない、だろうか。
 トレーニングだのメディカルチェックだのと、裸が他人の目に触れることの多い日常だから、みっともない痕なんて肌に残すのは厳禁だ。そうしたら、あとは、お互いの触れ合った感触だけが、抱き合った証拠なのに。
 さっき触れられた場所は全部ボディソープの泡に包まれて、シャワーの湯で洗い流されてしまった。さぁ、もう寝る時間だよ…と急き立てられるみたいに。まるでデータを上書きされるように。
 もちろん、感覚が上書き保存なんてされるはずはないことくらい知っている。
 二人で夜を過ごした翌日。その昼休みに、自分でも驚くような感覚をふいに思い出してしまったようなことだって、経験済みだ。
 とある昼下がり。
 ちょうど十二時間前の真夜中、既に皺くちゃになったシャツ一枚きりをだらしなく、もう着ているとは呼べないような程度に引っ掛けて、恋人の膝の上で体を揺すっていたときの感覚が、なぜかありありと甦ってきたのだ。それも、カフェのオープンテラスで。
 ソイラテの注がれたペーパーカップを取り落としそうになって、寸前でその失敗からは免れて、誰も自分に注目しているはずなんてないのに、恐る恐る周囲を見回してから大きく息をついたことをよく憶えている。
 ソイラテを一口、口に含んで。まったく味はわからなくなっていた。ただ、ラテ特有の滑らかな感触が舌を覆っているのだけはわかった。
 オープンテラスのイスの上で、イワンはゆっくりと視線を下げた。
 自分のウエストにキースの骨ばった指がかかっている気がして。いま、そこにあるはずがないのに、もしかしてジャケットの裾をめくったら手が置かれているんじゃないだろうか、と思うくらいに(もしそんなことが起きていたらホラーだかオカルトだかになってしまうけれど。)あの時、はっきりとした感触があった。
 蘇った感触にひどく驚いて、胸が騒いだ。欲望が沸騰したのとも違う。恋しい、ってこういうことでいいのかな、と思った。 Miss you はこういうときに使う言葉なのかな、と。
 バスタブの中で立てた膝の輪郭をそっと指先で辿る。
 さっき、別の指が包み込んで、押し開いていった場所。
 唐突に暴かれたことに驚いて声を詰まらせると、今度は宥めるように唇を押し当てられた。
 いまは、記憶として引き出せるけれど。もしかしたら、さっきのあれが、とてつもなく場違いな瞬間に甦ってくるかもしれない。
「眠い?」
 考え事をすると半眼になるイワンの表情は眠たげに見えるらしい。あくびを二度もしたようだし、そう見られて当然だった。
「そんなには」
「温まったら先に戻っていいよ」
「眠くないですって」
 こういうことは、誰にでもあるんだろうか。例えば、いや例えばではなくて、イワンが気になるのは、ただひとりについてだけだ。
 一緒にバスルームを使いたいと言ってくる。もっと一緒に過ごしたいから、と。だけど、さっきまでとは別の立場に立っているみたいな声で。触れ方で。それは、切り替えが早いから、だけだろうか。
 好きなのに、面と向かうと逃げ回るようなことばかりしてしまう自分が、キースと離れているときにありありと、その愛されていたときの感覚を思い出すなんて、知らせても信じてもらえるかどうか。
「何か気にさわることをしたかな」
 イワンは顔をあげた。壁の方を向いたまま、キースが訊いてくる。
「私は君に、気にさわることをしたかな」
「え、してないですよ」
キースも、自分と同じように、抱き合っていたときの感覚が、まったく別のときにフラッシュバックすることなんてあるのだろうか。
「あー…気にさわる、とかじゃ、なくて」
「うん?」
「……僕を、思い出します…か?」
 湯気の向こうの背中に問いかける。
「え?」
「何でもないときとかに、全然関係ないときのこと……ああ、いいです、やっぱり」
 会社のデスクでコーヒー飲んでるときに、セックスしてるときのことを思い出しますか、とは言えそうにない。たとえ、その行為が終わった直後でも。
 キースは髪を洗う手を止めて、言った。
「いつでも、君を思ってるよ」
「いつでも、は嘘です」
「嘘じゃない」
「そんなのグリーティング・カードに印刷された文章です」
 イワンは言いながら、自分で笑ってしまった。この人には似合いのセリフだ。でも、そういうのとは違うことが言いたかったし、聞きたかったのだけれど。
 頭の上を泡だらけにしたまま、キースは振り返った。
「いつでも、君が欲しいよ…あ、痛」
 目にシャンプーの泡が入ったらしい。イワンは思わず噴き出した。
「しまった。せっかくいいことを言ったのに」
 キースが真面目な口調で言う。イワンはバシャバシャとバスタブの湯を跳ね散らかした。
「ははは……ちゃ、んと聞こえましたよ」
「どう言ったら伝わるのかな。キーボードに報告書を打ち込んでいるときだったり、交差点で見知らぬ人の会話を聞いているとき、無性に君に会いたくなるよ」
 話すのをやめて、キースはシャワーのコックをひねる。イワンの視界が湯気でいっぱいになった。
 髪についた泡を流し終えると、キースは続ける。
「うまく言えないな。歩くときは、いつだって君と手をつないで歩けたらって思うし…実際にそうなったら、面倒がられそうだけど」
「そんなこと、ないです」
 まだ痛むのか、キースは目をしょぼしょぼさせながら話し続けた。
「この間、あの…マカロン? きれいな色をして、小さくて、軽くて、丸い、あの不思議なお菓子が会議の最中に出されてね。はじめて食べたんだけど、柔らかくて、というより歯を立てると見た目より脆い感じがするっていうのかな、食べたら急に、君にキスしたくなったよ」
「……え」
「ああ、違うんだ、噛み付きたいとか、乱暴にしたいとか、そういうことじゃなくて…しまったな」
 イワンは水音をさせて勢いよく立ち上がった。
「ちょっ…すまない、待ってほしい」
 まだシャワーヘッドを持ったままで、慌てるキースにイワンは笑顔を見せた。
「僕なら、怒ってませんから」
 ただ、と囁き声で告げる。秘密を明かすみたいに。
「きれいにしてもらったから」
 キースの濡れた髪の間に指を入れて、ぐしゃぐしゃとかき混ぜる。
「また、汚したくなっちゃいました」
 ぱちぱちと瞬きを返してくるキースの瞳は、いつもどおりの澄んだ空の青さで、ただ、その周りの白目がシャンプーが入り込んだせいで少し赤くなっている。
「髪、乾かしときます」
「何て言ったの」
「髪の毛を」
「その前に」
 イワンの両頬をキースの手が包む。どちらも水滴をしたたらせている。
 あ、少し戻ってる。イワンはそう思った。バスルームに来る前の時間帯の声に。触れ方に。
「……ぐっちゃぐっちゃの、べったべたの、どろどろに、したくなりました、って」
 キースは声は出さずに少し笑った。
「嘘じゃないですよ」
 唇が触れ合う。かすめるようなキス。
「私が湯船で体をのばしてから戻ったら、君は絶対にぐうぐう寝てるだろうね」
「キースさん、滅多なことがなければバスタブには浸からないでしょ」
 言い返したら、イワンの口からあくびがこぼれた。「ほら」とキースが笑う。
「じゃあ、できるだけ早く戻ってきてください」
「ぐちゃぐちゃの、べたべたになるために?」
 イワンは笑ってバスルームのドアを開ける。あくびを噛み殺して。
 わしゃわしゃとバスタオルで頭も体もいっぺんに、乱雑に拭く。廊下に小さな水たまりを幾つも作りながら。大股でベッドルームに向かう。
 もう一度、触れ合うために。
 いつかありありと思い出すだろう感覚を知るために。
 ぐちゃぐちゃの、べったべたの、どろどろに、なるために。
 二人で。


 《 E N D 》

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Posted on 2012/01/23 Mon. 23:55 [edit]

category: SS(空折)

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