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空/折 「早く起きた朝は」 

おや最近、web向けに短い話を書いてないなーということで、パチパチ。(キーボードの音です)

初々しくて爽やかな、二人で過ごす朝…をテーマに書きました。
つきあいたて、な空折ということで。

(スパコミ向けのお話で、朝の二人が一番「R」なカンジでした、と発言したら
「朝が一番爽やかかと思ったのに…」とレスがあったので、それならば、と挑戦!)



早く起きた朝は


「バーナビーってさ、一人なの?」
 そんなとんでもない発言がイワンの耳に飛び込んできたのは、昨日の夕方、ブックストアの棚の前にいたときだった。
 ヒーローTV関連の専門誌でもなければ、ヒーローの特集を組んでいるわけでもない情報誌の表紙で微笑む後輩にして同僚…バーナビーを見るともなくぼんやり眺めていたイワンの耳に、若い女の子の声が聞こえたのだ。
 バーナビーと聞けば、ここシュテルンビルでは誰もが思い浮かべるのは、目の前にある雑誌の表紙を飾っている青年だ。バーナビー・ブルックスJr.
 長い手脚、広すぎない肩幅にそこそこの厚みのある胸といったバランスのとれた体躯。いつでもきれいにセットされた少し長めの金髪に縁取られているのは、どことなくノーブルなハンサム。細い眼鏡がトレードマークだ。
 バーナビーが一人、ってどういう意味だろう。
 イワンはチラリと声のしたほうに目をやった。高校生か大学生くらいの女の子が二人立っている。
 彼女たちの正面に積まれた雑誌の表紙にはバーナビーが一人で写っていた。相棒のワイルドタイガーはいない。その通りだが、そんなものは確認しなくてもわかる。
 それとも聞き違えだろうか。自分の知らない別のバーナビーかもしれない。発言した人の友達とか、物語のキャラクターとか。だけど、一人って?
 一人っ子だよね、と今の人は言ったかな。いや、言ってない。何だ、バーナビーが一人って。羊の数をどこまでカウントしたか考えてるわけでもあるまいし。
 一瞬のうちにイワンは考えた。
 話しかけられたもう一人の女の子も同じように不思議に思ったらしい。
「え、なに? バーナビーが一人ってどういうこと?」
「だからさぁ。バーナビーってヒーローでしょ」
「うん、ヒーローだよ」
「でもCMに出たり、TVのトークショーにも出るし、イベントにも来るし…で、エマージェンシーがかかると事故現場に向かったりもするんでしょ?」
「そうだよ。昨日のドラマにもカメオ出演もしたし。見た?」
「えっ、夜十時からのやつ? 見逃した!」
 今度ディスクに焼いて見せて、と頼み事をしてから、その女の子は続けた。
「雑誌とかイベントに出てるバーナビーと、銀行強盗を逮捕したりするバーナビーって同じ人?」
「はぁ? 同じも何も…ヒーローなんだから、犯人逮捕もするし、TVにも出るんだって」
「それ、本当に一人がやってるんだと思う?」
「思う? じゃなくて、やってるの。事件や事故を解決して、しかも恰好いいから価値があるんじゃない」
「そういう設定じゃなくて、本当に同じ一人の人間なのかなぁ」
「それ他の子たちの前で言わないほうがいいよ。いくら引っ越してきてそんなに経ってないからって、バカにされるから」
 ふぅっと友人のほうは大きく息をついた。イワンも思わず止めてしまっていた息をそーっと吐き出す。
 何だってそんな推理小説だとかイリュージョンのトリックみたいなことを、この女の子は考え出してしまったのだろう。確かにバーナビーは多忙だしすごく売れているが、事件用とタレント用、二人のバーナビーがいるなんて。
「あんなに忙しくて、一人でやってるってありえないなーって」
「携帯電話のCMに出てくるタレント犬じゃないんだから。じゃあ双子だとでも思ったの? 顔同じでしょ」
「ヒーロースーツ着てるときは、顔を出したってチラッとじゃない。他のヒーローもそうだと思ってた」
「それじゃ、ブルーローズは? マスクないけど」
「メイク濃いから、誰でもあんな感じになるかなって」
 イワンは吹き出しそうになるのを堪えた。あんなに美肌だの美白だのに必死になっている本人には聞かせられない。まぁ彼女の努力は、ブルーローズとしてというよりどこかのオジサンのため、という意味合いも大きいようだが。
「……スカイハイは何人かいるよね?」
「えーっ、いないよ、いない!」
 イワンも一緒になって『ええーっ』と言いたいくらいだった。
「ブルーローズとかバーナビーのデビュー前なんて、一人勝ちだったんでしょ。TVとか出ずっぱりだったって聞いたよ」
「そうそう。出動したときも、もの凄くポイント獲得してて」
「そのすっごい忙しいときも夜はパトロールしてたわけ?」
「してた。かなり前からだよ。デビューして、すぐの頃からだったと思うけど」
「それは一人でやってないでしょ! せめてパトロールのときは別人だよ!」
「ムリだって! 影武者がいたってNEXTを使えないんだから!」
「そっかぁ。うーん、じゃあTVのほうが別人とか」
「あの喋りっていうか、かなり独特だよー? あれは絶対同じ人」
「うそぉ、シュテルンビルトの人たち、みんな真似するし、みんな似てるって」
「トークが違うの。ほら、思考回路? 来年の今頃になればわかるようになってるから。スカイハイ、ハズしてくるんだよね。あれ、わざとじゃ出来ないって」
 そうかなぁ、とまだ納得していない様子の女の子に、もう一人が雑誌を指差す。
「で、買っとく?」
「表紙だけ? あ、インタビューついてる。買っとく」
 二人はバーナビーが表紙で微笑む雑誌をレジへと運んで行った。
『折紙サイクロンって二人いると思わない?』とは言われなかったなぁ、とイワンは考えた。まぁ、残念ながらそんなに売れてないし。仕事帰りに本屋でブラブラしてるくらいだし。でも、今お買い上げいただいた雑誌にちょっとしたコラムが載っているので、さっきの女の子たちが読んでくれるといいのだけど。


 ヒーローって一人じゃないんでしょ、か。
 そうだったらどんなにいいだろう。
 スカイハイって、パトロールは別の人がやってるんだよね、なんて。
 そうであってくれたら良かったかもしれない。
 イワンがそんなことを考えるのは、スカイハイであるところのキース・グッドマンの多忙さや健康を案じるからだけではなかった。
 せめて、パトロールをしないでいてくれたら、一緒にいられるのに。
 つまるところは、そこなのだ。
――いま、かなり自己中になってるな。仮にも自分もヒーローだっていうのに。
 イワンは自嘲する。美少女たちが変身して戦うアニメの中の世界ならば、確実にモンスターの餌食になるのが確実なくらい。忍者ジコチュー出現、なんて。
 バーナビーの人気がウナギのぼりだといっても、やはりスカイハイは…キースは多忙だ。イワンにだって、彼には及ばないまでも仕事がある。
 夜は仕事が終わるのがまちまちだし、時には食事を一緒に摂ることもあるが、その後キースには恒例の夜間パトロールがある。
 食事のあと、どちらかの家で寛ぐような時間が持てたら、もう少しこの関係が発展するのではないか。
 そう、二人は恋人どうしなのだ。それも、つきあいたての。
 盛大に照れたり硬直したり、ナーバスになってせっかくのいい雰囲気を逆送しそうになったりしながら、どうにか二人はお互いを好きだと確かめ合った。
 それから、もうすぐ二ヶ月が経つ。まだ、マトモなデートも出来ていないし、キスだってまだだ。
 夕食からの帰り道。ほんの少しの間、手をつないだだけだ。つないだというか、指先を軽く触れ合わせて…正直、片手にだけ意識が集中しすぎて、あのときよく転ばなかったものだと不思議だ。
 すぐに、分かれ道まで来てしまって。ちらほらとはいえ人通りがある街路では、『おやすみ』の挨拶とともにくしゃくしゃっと髪をかき回すように撫でられたことくらいだった。
 照れ笑いを浮かべたまま、イワンは両手で髪を直した。本当は勿体なかったのだが、棒っきれみたいに突っ立っているわけにもいかなかったのだ。
『ワイルドくんがきみの髪をくしゃっとするのを見て、いいなぁと思ってたんだよ』なんて意外な告白をされて。
 タイガーさんと同じことじゃなくて、他のことをしてくれたっていいのに。
 たとえば、肩を抱くとか。隣を歩いていて、肩に腕を回したっていいのだ。
 そう、いまみたいに…そんなにそーっとじゃなくても、よくて……えっ?
 イワンは体を起こした。体が起こせるってことは弛緩していたわけで、ええと。
「ああ、ごめん。かえって驚かせてしまったね」
 声のするほうを振り向けば、そこにはキースが困ったような笑顔を浮かべていて。
 慌てて自分の体を見下ろすと、イワンは籐で編まれた高い背凭れを持つチェアの中で、ビシッと音がしそうなくらい直角を保って座っていた。
 目の前には丸テーブル。その上に載ったコーヒーの入ったペーパーカップと、白い四角い皿の上には食べかけのパニーニ。ここは、カフェだ。カフェの、通りに面した席。
 斜め向かいにはキースがいる。イワンと同じ籐椅子に座って。キースは席から立ち、膝を曲げるとイワンの背後から自分のフライトジャケットを取り上げた。
「眠ってしまうのだったら、少し肌寒いかなと思ったんだ」
 片手に持ったジャケットを引き戻しながら席につく。
「余計なことをして、起こしてしまった」
 上着を貸してくれようとしたらしい。袖を通しているのを見ると、キースはジャケットの下はTシャツ一枚だった。自分が寒くなるのは度外視なのだろうか。
「え…あ……ええと」
 イワンは目をしばたいた。起こしてしまった、ということは自分は眠ってしまっていたのだ。すぅっと血の気が引く。
「うわ、あの、す…すみません、僕――」
「今日は静かだからね」
 少し気温の低い今日のような日は、ウッドテラスに設けられた席は不人気だ。キースとイワン以外では、一番端に分厚い本に顔をうずめた男性客が一人いるだけ。
 朝食を一緒に食べよう、と電話がかかってきたときは、そりゃあ嬉しかった。
 一昨日の夜、夕食を一緒に食べようとジャスティスタワーを揃って出たところで、エマージェンシーがかかったのだ。
 苦笑の浮かんだ顔を見合わせて、ため息をついた。そして、それぞれ自社のトランスポーターへと走り出した。
 残務処理に追われた昨日の夕方、キースから電話をもらった。一緒に食事ができなくて残念だった、と告げられて。もしよかったら、明日の朝、前に利用したことのあるカフェに寄ってから出勤してはどうかな、と提案されて。
 電話だと緊張してしまって、曖昧にも聞こえるような相槌を打つのが精一杯のイワンだが、昨日の電話ではきちんと、時間をとってもらえて嬉しいと伝えたはずだ。なのに。
「昨夜、遅かったのかい」
「いえ、電話をもらったときには会社を出るところでした」
「そう」
「早寝早起きを目指したんです、けど…早く、はないかな……」
 イワンは朝が苦手なほうだ。はっきりいって夜型人間だ。
 学生ではないのだと言い聞かせて、ゲームをプレイしたり、ケーブルTVのドラマ専門チャンネルに入り浸ったりするのは控えているが、スポンサーの関係上アニメ番組を視聴したりサイトをチェックしたり…ごめんなさい、かなり趣味だけで見ているものもあります、それに自分のブログも更新するのは、やっぱり夜だ。
 早く眠らなくてはと思っても、なかなか寝付けなかったりする。それでも、今朝はキースと待ち合わせをしている緊張感があったのだろう、根性で目を覚ました。
 けれど、顔を合わせて安心したのか、胃に朝食が入ったことで睡魔が襲ってきた。
 イワンも口下手だし、キースもそう口数の多いほうではない。まだあまり人通りのない道路を眺めているうちに、回想から意識は眠りの淵を越えて、うとうとしてしまったらしい。
「すまない。責めているわけでは、もちろんないんだ。というより、反省しているよ」
 反省、と聞きなれない単語を拾うようにイワンは聞き返す。
「私のわがままで、きみに朝の貴重な時間を使ってもらって」
「いや、そんな、全然」
 貴重な時間だというなら、キースのほうがよほどそうだろう。
 なにせ、あの仕事量をこなすのに二人いるんじゃないか、と噂されるくらいなのに。
「あの…ちょっと寝ちゃいましたけど、朝ごはん一緒に食べられて嬉しいです。本当です」
 懸命に言い募るイワンに、キースは含み笑いを浮かべる。
「え、何か変なこといいましたか?」
「違うんだ。……さっき、イワンくんに申し訳ないと思う反面、幸せを感じていたんだよ」
 風が髪を揺らしていく。
「だって、デビューしたばかりの頃のきみは、顔を見せてくれないくらいシャイだったし」
「あ…はあ……」
「会話もあまり続かなかったのが、笑顔を向けてくれるようになって」
 仕事場以外で会うことが増えても、イワンにとってキースはずっと憧れていた相手だ。緊張がゼロになることは当分なさそうだ。
「なのに、今日は寝顔が見られて」
「そんなに変でしたか……。動画サイトに投稿したくなるような?」
 何百万アクセスも達成しているペットの奇妙な行動の動画を思い出して、イワンは肩を落とす。
「まさか! きれいな瞳が見られないのは残念だったけど、とても美しくて彫像のようで」
 キースはイワンの寝顔をはじめて見たが、その顔に普段であればずっと貼りついている緊張が解けて、元々整った顔立ちが前面に押し出されるというのか、子どものようにあどけなくも見えて……。キースはうん、とひとつ頷いた。
「そうだ、まるで天使みたいだった」
「いやいやいや、それはないです、褒めすぎでござる…っていうか、僕ら二人とも天使見たことないですし、比喩として、あの」
「だから思わずマーキングしてしまいたくなったんだね」
 マーキング、と聞いてイワンがすぐに思い出すのはキースの飼っているゴールデンレトリバーのことだ。縄張りを示す意思表示。
「この素敵な人は私のものだよ、って道行く人にも教えたくなったのかもしれない」
「着ていた服を広げて、ですか?」
「それともマジックかな。布を被せて、呪文を唱えるとどこかへ消してしまえる」
「消されちゃうって、どこへですか」
 イワンは口元をほころばせる。しかし、キースの唇に浮かんだのはイワンのものより少しばかり苦そうな笑みだ。
「時々ふっと思ってしまうんだ。きみと私しかいなかったらいい、なんて」
 この街があって、この仕事をしているから出会えたのに。そうつぶやいて、キースが斜め上に視線を投げた。
「仕事は好きだし、やりがいもあるよ。だけど、一昨日みたいにきみと過ごすはずの時間も全部放り出して駆け出していきたくないときも、正直あるかな」
 キースのセリフの後半は、どこか茶化すような響きを帯びていた。自分を見つめるイワンの硬い眼差しに気づいて、心配させないようにしてくれているのかもしれない。
「……やってみますか」
 イワンは尋ねた。キースは小首を傾げる。
「やってみるって、何を?」
「布をかけて、チチンプイプイって」
 僕なら、とイワンは笑う。
「瞬間移動はできませんけど、腕時計になれるから一緒に連れて歩けますよ」
 それだって、急な仕事が入ればそれまでだ。そんなことは二人ともわかっている。
 だから、こうして朝のカフェで、少し気温が低いのをガマンして人のいないウッドテラスで並んでいるのだ。
「それはいい。きみをアシスタントにしてマジシャンになろうかな。それで各地を回るんだね」
「いつか、そうしたくなったら教えて下さい」
 二人とも、そんな暮らしを選ぶことはないだろう。
 あと数分したら。席を立ってそれぞれの仕事場へ向かう。そのために、こんな慌しいデートをしているのだから。
「でも今日は、うたた寝するイワンくんを見られたことで我慢しよう」
 キースはそう言ってウインクした。あまり上手くないウインクで、片目をつぶるとそちら側の頬まで攣れてしまう。
「きみの寝顔を見られるのはもっとずっと未来のことだろうって思っていたからね」
「え…そんなにまだ挙動不審ですか、僕」
 申し訳なさそうに眉を下げるイワンに、キースは椅子から身を乗り出すみたいにして声を落とした。
「……隣で眠れるなんて、こんなデートをしているんじゃまだまだ先だろうってことさ」
「――え」
 隣で、ってそれはつまり。
 まだ先だとかもっとずっと未来だとかって、それはその。
「え、あ、ちょ…ええと、だから、あの」
 ガタン、と椅子を鳴らしてイワンは立ち上がった。なぜか両手にテーブルの上のものを持っている。右手にはコーヒー入りのペーパーカップ、左手には食べかけのパニーニが載った白い皿。
 キースはきょとんとした顔で、席を立ったイワンを目で追う。
 冗談だよ、とか今の言い方は悪かったね、だとかキースが言葉を捜しているうちに、イワンは両手に物を持ったまま歩き出してしまう。
「ええ? 待ってくれ、まだ少しゆっくりできるよ!」
 キースが思わず声を上げると、ウッドデッキの隅で背を丸めて本に夢中になっていたらしい男性客も思わずこちらを見た。
 キースも腰を上げたところで、皿を持ったままのイワンが店員に呼び止められているのが見えた。
「お客様、お皿をわざわざありがとうございます。あら、そちらお包みしますか? それでしたら少々お待ち下さい」
 そんな店員の声が聞こえて、イワンの掠れた声が「ええと」「その」とモゴモゴ繰り返している。
 キースは笑いをこらえようとして上手くいかずに、中腰のまま体を震わせた。おかしなエクササイズでもしているようだ。
――いま行ったらイワンは逃げ出してしまうだろうか。待っていたら戻ってきてくれるかな。あと数分しか時間はなさそうだけど。
 あどけなくも清らかにも見えた寝顔もとても素敵だったけれど、やっぱりまだ他の色んな表情を見せてほしいかもしれない。
 たとえば、今みたいなびっくり顔だとか急に真っ赤になるところも。
 だって、せっかく早起きをした朝なのだから。


■ END ■


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Posted on 2013/04/11 Thu. 22:10 [edit]

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