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兎→虎 「hide and seek 」 

兎虎というか兎→虎。兎視点で、ぐるぐるしてます。他にちょこっと、?←折(…出てこないので)とか虎←薔薇とか龍→肉饅(アレ、ヒトジャナイヨ-)とか。


hide and seek


 隠すことは、得意だ。
 バーナビー・ブルックスJrは、そう自負している。
 たとえば街を歩いていて、向こうからやって来る若い父親と母親、そして五、六歳の子供を見かけたとする。
 彼らはよく似た笑顔を浮かべて、子供を真ん中に一列につないだ手をゆるく揺らしながらすれ違っていく。
 彼らは、今夜楽しい食事をしておやすみのキスを交わして眠りにつくのだろう。
 きっと明日も、胸の中を幸福で満たしたまま目を覚まし、にこやかに朝食のテーブルにつくのだろう。その次の日も、次の日も。来年の今日も、十年後も。
 そう考えると、たまらなくなる。
 死ねばいいのに、と正直思う。
 どうしてあの一家は幸せなまま時間を重ねていくことができるのだろう。なぜ自分のように、突然の暴力で傷つくことも互いを失うこともないのだろう。
 手をつないだ一家の上に、あそこのビルの巨大な看板が落下すればいいのに。隕石が飛んできて、三人の胸や頭に大きな穴を開けてしまえばいいのに。
 毎度そんなことを考えるわけではない。それでも、ふっとそんな考えが兆す。
 一度思いついてしまったことは、脳の底にこびりついている。そして、時折顔を覗かせる。
 そんな不穏な考えは、誰にも明かすことができない。
 だから、バーナビーは隠すことが得意になった。


 隠すことが不得手な人も世の中には存在する。
「あーあ」
 ブルーローズ。地上に存在しない花の名をつけられたヒーローは、今は普通の女子高生――カリーナ・ライルの顔をしていた。その顔にはありありと面白くないと書いてある。
「どうしてみんな手近な人とくっついちゃうのよ、もう!」
 頬を膨らましながら視線を向けられたドラゴンキッドは、今は食べることが大好きな少女――ホァン・パオリンの顔で見つめ返す。
「ふぁひ、ほこっへるほ?」(なに、怒ってるの?)
 肉饅を頬張ったまま問い返してくるパオリンにカリーナはご機嫌の傾斜角をあげる。
「秋といえば、学校行事が目白押しなの」
 だからヒーロー業と掛け持ちのわたしはすっごく忙しいの、とカリーナは言う。
「で、学園祭や体育祭や遠足なんかのたびに、周りでどんどんカップルが誕生しちゃうのよ。 一週間早出と居残りして準備してるだけで、可愛いところがあるってわかったり、頼りがいがあるってわかってくるんだって。……バッカみたい」
 八つ当たりでしかないことをカリーナはつぶやくが、それもそのはずだった。
全校生徒がほぼ躁状態にあるなかで、最低限のノルマしかこなさずさっさと帰宅するのでは輪に混じれないのだ。
「簡単にできあがったカップルなんて、年が明ける前に別れちゃうに決まってるんだから」
 真理かもしれないが、呪いのような発言だった。カリーナは自分も恋人がほしいというより、友人たちと同じ空気感を味わえなくて寂しいのだろう。
「……ねぇ、オリガミ」
 カリーナに唐突に呼ばれて、部屋の隅にいた少年が顔をあげる。
「誰かを好きになるのって、楽しい?」
「え?!」
 跳ね上がるように中腰の姿勢になって折紙サイクロンことイワン・カレリンは狼狽した。
「な、なんで、そんなこと、せせ拙者に、いや僕に、尋いて……」
「アンタねぇ、まさか――」
 眉を吊り上げて、まさかバレてないとでも思ってんじゃないでしょうね、と言いかけてカリーナはふっと息をつく。
どうやらこの同僚はバレていないと信じているらしい。いま揺すぶりをかけたら全速力で逃げてしまいそうだ。
「一般論よ、一般論」
「あ、はい、一般論で、ござるか」
 だからさぁ、とカリーナは続ける。
「恋がしたい、ってみんな言うじゃない? 常に恋をしていないとダメだとか、恋愛にはすごい価値があるようなことを、みーんな言うでしょ?」
「まぁ……そう、ですね……」
「でもさぁ。人を好きになるのって、楽しい?」
 一般論としてよ、とカリーナは念を押す。
「わたしには、楽しいとは思えない。うざったいわ」
 好きになった人が目の前にいるときは緊張して。何か失敗をして呆れられないかとヒヤヒヤして。その人が自分を視界に捉えていれば硬直して。それでいて、他の人たちと話などをしていれば、その輪に加わりたいと焦って。ジリジリとしながら必死で聞き耳を立てて。
 好きな相手と会えない時間は、さらにヒリヒリするような気持ちに苛まれて。
「学校で、はしゃぎあってるクラスメイトを見て、あの人たちが恋してるって、思えない」
 イワンは小首を傾げたまま、小さな声で言った。
「僕なら……あ、仮定の話ですけど、自分の名前をいい響きだなぁと思えた、いや、思えるようになるんじゃ、ないかと。その人に、呼んでもらえてから……いや、えっと、呼ばれたらきっと」
 そう言って黙り込んだ同僚にカリーナは目を剥く。
「え、なに? 楽しいことってそれだけ?」
「あと、幾つか。楽しいことはほんの少しで、あとは本当にこの人を好きでいいのかな、とか迷惑かな、とか勘違いかもとか……これまで以上に……ええと、サガってしまうことが、多くなるんじゃないかな、僕なら」
「……そっか」
 同じ場所に行ったことがあるとわかれば、そこが特別な場所に思えたし。昨日同じものを見ていたと知ったら、もう通り過ぎてしまったあの時間が特別なものだったという気がしてきた。
「そういうんなら、少しわかる」
「……でもさ」
 肉饅を咀嚼し終えたパオリンが唐突に口を挟んだ。
「ボクの両親が言ってたよ。おじいさんも、大叔母さんも言ってた。自分の半身は、会えばわかるって。好きでいいのかな、とか迷惑とか、そんなの関係ないんだよ」
 真っ直ぐに見つめられて、イワンが落ち着きをなくす。カリーナが呆れたような声をあげた。
「それっていつ言われたの? 小さいときに聞いた昔話みたいなやつ?」
「小さいときもそうだし、今年のお正月にも。勘違いなんてしないから大丈夫なんだよ。……魂を鏡みたいに映してくれる人、谷のように響かせてくれる人、その人に会えばわかるって」
 言い終えるときに、パオリンは壁際に座るスラリとした人物のほうに向き直った。
「「え……?」」
 カリーナとイワンは同時に小さく驚きの声をあげた。
「ん? どうかしましたか?」
 パオリンの視線に顔を上げて、眼鏡の奥の目を細めるのは、バーナビー・ブルックスJr.だった。休憩中の体を起こし、ゆっくりとヘッドホンを外して年下の先輩たちに微笑みかける。
 そうしておいて、小型の音楽プレイヤーをそっと手の中にしまいこんだ。
「なんでもないよ。バーナビーさん」
 パオリンも美味しいお菓子にでも向けるような笑顔で応えた。
 しかし、その視線がバーナビーの掌に隠した音楽プレイヤーにチラッと投げられたことに、バーナビーは気がついていた。カンフーの達人は小さな動きも見逃さない。
 年上の後輩がヘッドホンをつけているだけで何の音楽も流していなかったこと、そうして三人の会話を聞いていたことはたぶん、見抜かれている。といっても、どうしてそんなことするの?というような視線を向けられるだけだった。
 この小さなカンフーマスターは、武術の習得によって見つけることが得意になった部類の人間だろう。
 それでも、自分の心の中まで見透かすことはできないだろうけれど。
 えっまさかキッドってあの人好きなの? まさかそれはないでしょ、たぶんですけど、とカリーナとイワンが、バーナビーの視界の隅で突っつきあっている。
 バーナビーは「失礼します」と会釈して立ち上がった。そこに。
「おー! バニーちゃん、見っけ!」
 大股でやってきた人物にバーナビーの肩はガッシリとホールドされていた。


 見つけるのが得意な人間も、確かに存在する。
 それも、訓練の賜物でなく、天性で得意な人間が。
「バニーじゃない、バーナビーです」
「はいはい。バーナビーさん、今日はアナタの奢りで飲みに行くんじゃなかったんですかね」
「よく覚えてましたね、虎徹さん」
「ったりめーだろ。賭けに負けて悔しいのはわかっけど、逃げんなよなー」
「逃げてませんし、悔しがってもいません」
 ふう、と息を吐く。
「ほら、行くぜ?」
「はいはい」
 さっきまで年下の先輩たちが言っていた言葉を思い出した。楽しいのはほんの少しで、と。
 わかります、とバーナビーは口には出さずにつぶやいた。
「なんの話してたんだ?」
「なんの?」
 隣を歩く男に、わざときょとんとした顔を向けてやる。
「若いもんどうしでさ、何話してたんだ、ってこと」
 はぐらかしてやろうかと思ったが、バーナビーは気を取り直すと言った。
「コイバナですよ」
「こ…コイバナぁ?!」
「僕は二十代ですけど、あとの三人は輝かしい十代の少年少女ですよ。恋愛談義をして当たり前でしょう。……おじさん?」
「だぁっ、それやめろって!」
 ふーん、そういや……と虎徹は少し遠い目になる。
「ブルーローズな、あいつなんか雰囲気変わったよな。デビュー当時から美少女だったけど、ははぁ、そうか好きなヤツがいるんだな」
 他の皆が聞いたらズルッとなりそうなセリフだった。雰囲気が変わったことには気づけても、好かれている本人だけがその事実に気づいていない。
「うわー、楓もそのうちそんな話すんのかな、怖ぇー」
「きっとすぐですよ」
「やなこと言うね。ところでお前はどうなんだよ」
「どう、とは?」
「コイバナだよ。雰囲気変わったといやぁ、バーナビーだってそうだよな、と思って」
「好きな人、ですか」
 そうそう、とうなずく虎徹を見つめる。バーナビーは笑った。どこか気が抜けたように。
「僕には、わかりません」
「おい何だよ、隠すなよ」
「隠しているんじゃありません」
 バーナビーはゆっくりとかぶりを振った。
 誤魔化しているんじゃないんです、と続ける。
「わからないんです」
 両親が愛情を注いでくれたのは二十年も前だ。彼らはいつも微笑み合って、お互いを優しげに見つめていた。
 人と人が愛し合うというのは、あんなふうに柔らかく、穏やかで満ち足りた空気のことだと思っていた。
 でも、今の自分が足を踏み入れているのは何だか、まったく違うものだ。
 自分の内側に、重たくて粘つくものを塗り込められてしまったかのように、苦しい。
 愛し合っていた両親を失った日から遠くに離れすぎていて、記憶があやふやになっているのだろうか。そしてあのときの自分は幼すぎたから、何か思い違いをしているのだろうか。
 こんなのは、違うんじゃないかと毎日、自問する。
 会えばわかる? 勘違いなんてしない? そんな簡単なものじゃない。
 好きになった人が目の前にいるときは緊張して。何か失敗をして呆れられないかとヒヤヒヤして。その人が自分を視界に捉えていれば硬直して。それでいて、他の人たちと話などをしていれば、その輪に加わりたいと焦って。ジリジリとしながら必死で聞き耳を立てて。
 好きな相手と会えない時間は、さらにヒリヒリするような気持ちに苛まれて。
 同じ場所に行ったことがあるとわかれば、そこが特別な場所に思えたし。昨日同じものを見ていたと知ったら、もう通り過ぎてしまったあの時間が特別なものだったという気がしてきた。
「わかんないってことは何、気になる相手がいるワケ」
 身を乗り出してくる虎徹に、バーナビーは「そうですね」とつぶやいた。
「奇麗な人ではないし。センスもいまいちだし。並んで歩いてもしっくりこないし」
 でも、いつの間にか目が追っている。
「下らない世話ばかり焼くし。イライラさせられどおしだし」
 でも、一人になった部屋でおせっかいを思い出すと頬が緩んで仕方ない。
「これまでの人生が違いすぎて、たまに茫然とします」
 かつて愛した、もうこの世にいない人。そんな人には、勝てる気がしない。過去に、彼らが出会う前に飛んで行って、その出会いを阻止したい。本気でそう思う時すらある。
「僕のことを子供扱いしかしないし。だからって頼りがいのある人でもないんです」
 でも、ときどき『ありがとな』と満面の笑みを向けられると、どうしていいかわからないほど、嬉しい。自分がこんなに単純でいいのかと心配になるくらい嬉しい。
「おいおい、なんかすげーな。褒めろよ、少しは」
 でもよ、と虎徹は歯を剥いた。
「それでも、気になって仕方ないなら、そりゃあ、もう理屈じゃないんじゃないの?」
「理屈じゃ、ないんですか」
「そうそ。これ違うかな、とか迷惑かも、とか考えたって意味ねーの」
 気づいちゃったら、しょうがない。
 そう言って虎徹は笑う。
「いいんですか」
 バーナビーは小さな声で問うた。
「いいも何もさ、お前」
 そうか。しょうがないのだ。
「そうですね」
 バーナビーはそうつぶやいた。
 もう少し、このゲームを続けてもいいのかもしれない。
 ハイド・アンド・シーク。隠れ鬼。
 二十年かけて隠すのが得意になった自分と、たぶん天性で見つけるのが得意な……そして肝心なことをわかっちゃくれない、この人と。


《 E N D 》
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Posted on 2011/11/21 Mon. 23:57 [edit]

category: SS(兎虎)

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